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ところにより、方針を決めましょう

「この龍について、課題が2つある」


ぴっ、と指を2本立ててナオミは切り出した。

顔は真剣だが、目に熱はない。ちなみにこれで通常運転である。


彼女の手元には、茹でたトウモロコシ。

コウタの家の畑で採れたものをナオミが塩茹でしたのだ。


コウタがナオミを訪ねてきた理由はトウモロコシのお裾分けだった。


ふはふ(ふたつ)?」


もぐもぐと口を動かしながらコウタが問う。


「そう、2つ。まずは、今後コレをどうするか。私たちが何をするべきかの方針だ」

「まー確かに扱いに悩むな。…おっと、こっちに来んなよ」


後半は、龍に向けて言ったセリフだ。

先ほどの麦茶ダイブ事件の後、新たにコウタ用の麦茶グラスは用意されている。だが、彼が飲もうと持ち上げたそれをチビ龍が身を乗り出して追おうとしたため牽制する。


ちなみにチビ龍は、まだ先ほどの麦茶グラスから出てこない。出そうと思っても嫌がる。

トウモロコシを茹でている間、この部屋でずっと浸かってウトウトしていた。


せっかく白銀のきれいな鱗なのに麦茶色に染まってしまわないだろうか。

ナオミはちょっと心配になった。



コウタに新しい麦茶グラスを遠ざけられ、龍は不満そうな顔をした。ように見えた。


「だからこれは俺のだっつーの」


自分の手のひらサイズの生き物にムキになるコウタ。



「えーと、コイツの今後のことだっけか。ナオミはどうしたいんだ?」

「…悩んでる。何がベストなんだろう」

「言葉でコミュニケーション取れないのに、ベストなんて分かんないだろ」

「ごもっともだね。じゃあコレがここに来た理由を想像してみよう。私が予想するのは3つ。迷子、逃亡、あとは旅の途中」

「…お前のところにやってきた、って予想は入れないのか?」

「え?」

「いや、コイツをどこかに返すために動くってことになるだろ。今お前だ出した予想だけだと」


ナオミがきょとんとする。


「それじゃ面白くないしさ。コイツの目的地はここだった、だからここに残る、みたいな予想も入れてみたら?」


選択肢も視野も広い方がいいっしょ、とコウタが悪戯っ子のように笑う。

そうだな、とナオミも少し笑ってトウモロコシをかじる。


「しっかし、予想をしたところで答えはないよなー」

「だな。じゃあ、とりあえず動いてみるか。コウタ、手伝ってくれ」

「へ?別にいいけど、動くって?」

「じっとしてても情報がない。だからコイツのルーツを探ろうと思う。どこから来たのか、まずそれを知りたい」


龍を見ていてナオミは思っていた。

コレは弱すぎる。


ナオミに水をかけてすぐ気絶するように眠ってしまった。

今も、麦茶グラスに向かって飛んだあと動こうとしない。動作も緩慢に見える。


このサイズから見ても間違いなく子供だろう。そして体力もない。

こんな状態で遠くから来れる訳がないのだ。


きっと近くに住処すみかのようなものがある。そう思った。


それを聞いてコウタは頷いた。


「そうだな。じゃあ近くを探してみるか。…っても、どうやるかな…」

「龍の伝説とか、龍の名の付く場所を当たってみるのはどうだろう」


腐っても龍だ。神様だ。その辺の田んぼが住処とかはないだろう。

龍が住み着くところだ。きっと伝承か何かは存在するはず。


「なるほど。さすが。じゃあネット駆使して探してみるか。範囲は…とりあえず車で日帰りできる場所ってことでいいか?」

「妥当だな。それでいこう。ばあちゃんにも聞いてみるよ」

「うし。今が夏休みでよかったよ。バイトさえ調整すれば時間の都合がつくし」


行先きが決まれば2人でその場所に行くことは口にしなくても決定事項だ。そういうのを気にする間柄ではない。



「あ、そういえば、もう1つの課題って何だ?」


思い出し、コウタが尋ねた。


「ああ。――食糧問題だな。……龍って何を食うんだ2」



チビ龍がが、きょとんとした顔をした。ように見えた。




◆◆





 問題:龍は何を食べるでしょう。


 回答:かすみじゃね?


    ――――回答者 コウタ



「そんな回答でニューヨークに行けると思っているのか」

「ウ○トラクイズ風に突っ込まれるとは思ってなかったかも!?」






チビ龍がくあ、とグラスの中であくびをした。



「冗談はさておき」

「一生懸命答えたのに…」


うなだれるコウタ。


とりあえず食糧問題の解決は急務だ。

ナオミは手っ取り早い方法を取ることにした。



龍@麦茶グラスの目の前に思いつく限りの食品を並べる。



牛肉(生・加熱)

魚(生・加熱)

ホウレン草(生・加熱)

キュウリ

トマト

リンゴ

はちみつ

ビスケット

茹でたソウメン(麺のみ)

牛乳

アイスクリーム

ショートケーキ(コウタに買いに行かせた)

ミミズ(コウタの家の畑から採取)

ハエ(コウタが採取)



「俺の扱いって…」


凹んでる幼馴染を無視し、ナオミは龍に優しく声をかける。


「ほら、どれがいい?」


龍はナオミの顔を見てから、机に並べられているものに目線を向けた。

グラスから首を伸ばし、興味深そうに食糧候補たちに顔を近づける。


あ、目の色、よく見ると濃い青なんだ。


ぱちぱちと瞬きをしながら食糧を見つめる龍の横顔を眺めていて、ナオミは気づいた。黒だと思っていたが、光の加減でそう見えただけのようだった。


きれいだ。


素直にそう思った。




さて食糧探しだが。

結果、龍はキュウリとトマトにだけ噛みついた。

しかも食べるのではなく、ちゅーちゅーと吸い付くのである。


鉛筆の太さしかない龍の口なんて当然極小だ。その小さな小さな口をめいいっぱい開けてかぶりつき、一生懸命吸うその姿の可愛さに2人は悶えた。





「でも何でホウレン草は食べないんだ?」


野菜というのは分かったけど、と、他の食糧候補を片付けながらナオミは首を傾げる。


「さー。鮮度とか?」


コウタは適当に返す。

それを聞いて、ナオミははた、と気づいた。


「鮮度……そうか。そうかも」

「ん?」

「キュウリとトマトはうちのばあちゃんの畑の朝採り野菜だ。ほうれん草は何日か前にスーパーで買ってきた」

「へえ、じゃあマジで鮮度の可能性はあるな。じゃあ俺んちのトウモロコシもやってみる?来る直前にもいだやつだし」


そうやって生のトウモロコシの粒を千切ってあげてみた。

すぐさま食いついた。


なるほど、龍の食糧は鮮度のよい野菜だった。


田舎は野菜の宝庫だ。龍が食べ物に困ることはないだろう。



高価な物でなくてよかった、と財布事情の厳しい学生2人が別々に胸をなでおろしたことを龍は知らない。

ナオミ「ケーキは私が美味しくいただきました」

コウタ「金出したの俺なのに…」

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