ところにより、確認でしょう
「なんだコレ……?」
コウタは、口をぱかーんと開けたまま籠の中身を見つめている。
間抜けすぎる。いい顔だ。
その表情を見て、先ほどまでひとりで悩んでいたナオミは少し気分を持ち直した。
コウタは近所に住む同い年幼馴染。
大学も一緒である。
幼い頃から、正月、ゴールデンウィーク、盆、シルバーウィークと連休のたびに祖母の家に通い詰めるナオミの遊び相手として付き合いがあった。
思い出は多い。
追い掛けっこでコウタが近所の家の敷地を横切ったから仕方なく着いていったら、その家の犬にナオミだけが噛まれたり。
探検だ!と無理に山に連れて行かれて2人して迷子になったり。
いい場所を見つけたんだ!と引っ張って行かれた先の川で、ケイタの肘が当たってナオミだけ川に流されたり。これは本気で死にかけた。
行動派なコウタに引きずられて痛い目ばかりみていた。
それでも常に落ち着いている少女と、太陽のように元気な少年は、凸と凹を合わせたいいコンビだと近所でも評判だった。
大学をどこにするか悩んでいたナオミに「こっちの大学通っちまえば?」と軽く提案したのも彼だ。
「好きな場所に居ればいいんじゃね?」と。
悩んでいたのが嘘のように、彼の一言で素直に決めることができたのはナオミにとって驚きだった。
と、コウタの間抜け面のお蔭で少しすっきりしたナオミは、いつも通りの平坦なトーンで返す。
「何だと思う?」
「分かんねーよ。うわ、動いてる。うーん。……小っさいけど……龍、に見える…気がする」
ちょい、と龍を突いて、自信が無さそうにコウタは答えた。
「やっぱ龍に見えるか…」
「でも想像上の生き物だろ?龍だとしてなんでいるかここに理解できねえよ」
「全くだ」
「てかナオミ、これ、どこで見つけたんだよ」
「ソウメンの中から出てきた」
「その状況のほうがびっくりかもよ!?」
この2人の間でシリアスモードは長く続かない。
「なあコウタ、私はコレが龍じゃないかと思っているんだがちょっと確信がない。正直突拍子がなさすぎて」
「ん?ああ、まあ確かにな」
「大きさ以外、見た目の条件は完璧だ。他にどんな条件があったらコレは龍だと言い切れるかな」
ナオミの言葉にコウタが意外そうな顔をした。
「なんだ?ナオミはこれを龍だと確定させたいのか?」
「おかしいか?」
「いや、現実的なお前が想像上の生き物を肯定しようとしてるのは意外だったかも。しかも結構早くね?いつものお前なら、もう少し情報がそろってから、とか言いそうなのに」
よく分かってるな、とナオミは苦笑する。
「私も驚いてる。でもどうやらコレを龍と信じたいらしい。しかしどうも理性が納得しない。もう少し材料がほしい」
うーん、と唸りながらコウタが麦茶を飲む。
「じゃあ何か、伝説の生き物らしいことをしてくれればいいのかも、なー」
「ああ、それはいいな。しかし例えばどんなんだ?」
「うーん、あ、空飛ぶとか」
「なるほど」
「あと、火を噴いたり?」
「ああ、そういうのもあるな。…しかしそんな簡単にやってくれるかな」
「どうだろな…?」
2人揃って、籠の中身を見つめる。
するとその視線に気づいたのか、龍が薄らと目を開けた。
おお、起きた!と興奮するコウタの声も聞こえていないように、眠そうに目を数度、しぱしぱと瞬く。
そのままゆるりと周りを見回した後、ソレはぴたりとコウタの麦茶グラスに視線を固定した。
「?」
2人が頭上に疑問符を浮かべていると、ふいに鉛筆大のソレが、寝床からふわりと浮いた。
浮いたのだ。
「!!すげ、浮い…」
コウタが全てを言い切る前に、
ぽちゃ―――ん
白銀の生き物はコウタに向かって飛び、彼の麦茶グラスの中にダイブした。
「ああっ、俺の麦茶!!」
「飛んだ。やっぱり龍なんだ…!」
「何で俺の麦茶の方に来る!?」
すごいすごいと連呼するナオミと、麦茶ー!と頭を抱えるコウタの間で、龍(確定)は麦茶グラスの淵に頭をのせ、気持ちよさそうに目を細めていた。
「ああ、そう言えば私に向かって水を噴いてたな」
「はよ言え――!」




