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ところにより、出会うでしょう

よしできた、と、ナオミは料理が入った鉢をちゃぶ台に置いた。


ようやく食事にありつける。


今日の昼食はソウメンである。

途中でにわか雨が降り、洗濯物を取り込むのに料理を中断したので麺がずいぶん延びてしまったが。


味は変わらないから問題なし、と、汗で頬に張り付いたボブショートの髪を耳にかけつつちゃぶ台の前に座った。


7月上旬。命燃ゆる夏。

テストも終わり、正確にはまだ夏休み前だがもうナオミにとって長期休暇は始まっていた。


みーんみんみん、と開け放した窓から元気な蝉の声が響いてくる。


縁側の風鈴、自分の真横でまわる扇風機、外に広がる濃い青空と深緑の山々、奥の入道雲。

先ほどのにわか雨の気配などすっかり無くなっている。


祖母が暮らすこの田舎が好きで、ナオミはここから通える大学に進学を決めた。


田舎に暮らし、大好物のソウメンを食す。たまらない。

一食で4束は軽く食べられる。

ちなみに今日は5束だ。

絶好調だ。



大きすぎるナオミ専用ソウメン鉢に箸を突っ込み、麺をざばっと持ち上げた。

水色に着色された麺があるのも目に涼しくて、いい。


……ん?


「水色…?」


色付き麺なんて買ったっけ。

いや買ってない。


目の前、自分の箸につままれたソウメンの束をじーっと見つめる。

水色の麺は、他の白の麺よりずっと太かった。鉛筆くらいの太さがある。


そして、その麺の先端には、


……ふたつの、目が、ついていた。


「ヘ、ビ?」


ナオミがやっと発した声に、ソイツはむくりと顔を起こす。

思わずナオミは息を飲んだ。

ばっちり目が合ってしまった。


そしてその瞬間に思う。これ、蛇じゃない。


少女の鼻の先、15cm前にある蛇には、頭から背にかけて短いたてがみ、そして胸元あたりに小さな脚がついていた。

きらきら光る鱗は、白銀。角度によって薄い青にも見えるため、白いソウメンの中で水色に見えていた。そして顔つきも蛇よりたくまく小さなひげももある。


この外観に該当するモノをナオミは1つしか知らない。


「……龍……?」


それもミニマムサイズだ。


ナオミがつぶやいた次の瞬間、ソレはこちらを向いたままぱかっと口を開け、


ぴゅ――――――っ


口から水鉄砲のように、ナオミに向かって水を吹き付けた。



◆◆



「なぜ、こんなモノがソウメンの中に……」


ナオミは2階の自室でうめいていた。


目の前には、小さな籠の中でとぐろを巻いてくうくうと眠る、一匹のミニマム龍。


あの後、ナオミの顔面に水鉄砲よろしく水をかけたソレは、すぐに力尽きてノびてしまった。

箸に身体をつままれたまま、てろーんとぶら下がったソレをナオミは慌てて摘み上げ救出した。


どうすべきか少し迷ったが、ソレから小さくスヤスヤと寝息(?)が聞こえてきたため、とりあえず横にあった座布団に一旦置き、改めてソウメンを食べた。

きちんと平らげた。


虫が入っても、龍が入ってもソウメンは食べる。

食べ物を粗末にするのは良くない。


ちなみに水鉄砲で濡れた顔は、食事が終わるころにはすっかり乾いてた。


5束のソウメンを平らげてから、改めて龍を見たが変わらず熟睡していたため、とりあえず臨時の寝床を作成した。

100均の籠にハンドタオルを敷いただけだが、移動させても起きることなく眠り続けている。


「やっぱどう見ても龍だけど…。いやまさか…」


ぢゅーっとストローで麦茶を飲む。

敷地内にある井戸の水で作ったこの麦茶は水道水で作ったものより口当たりが柔らかい。


「んでどうする、コレ……?」


床に胡坐あぐらをかいたままテーブルにあごをのせ、もう一回(うめ)く。


籠の中のソイツは、見れば見るほどおとぎ話に出てくる龍である。

正体がソレだとして、この後ナオミはどうすればいいのか。


そもそもなぜここに龍がいる?


もちろん龍じゃなくて新種の蛇、という考えも捨てているわけではない。


「その場合はアレか、蛇の研究所に連絡をすればいいのか。けど連絡したらどうなる?…コイツは解剖とかされてしまうのか…?」


コレの存在がいいものなのか悪いものなのかナオミには分かりもしなかったが、何となく解剖という結果だけは避けたいと思った。


籠のソイツを眺めながらうんうん唸っていると、1階から玄関が開く音が聞こえた。


同居している祖母ではない。祖母なら一度庭に回って縁側から入ってくるはずだ。

畑からの帰りはいつもそうだ。庭に野菜を置いてから家に上がる。


「うぃ~っす、ナオミ、いるかぁー?」


近所に住む幼馴染、コウタの声だった。


うん、ちょうどいい、あいつも巻き込んでしまおう。


瞬間でそう決めると、返事もせずナオミは立ち上がり、幼馴染を出迎えに向かった。

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