第二十八話「自称・エルメナスの英傑」
エルメナス公国――オーン家。
「叔父上!」
「……坊っちゃんがお出ましか」
深緑のベルベットカーテンに囲まれた侯爵邸の一室。
ロム・オーン侯爵は、ため息をひとつ漏らした。
貴族議会でも発言権を持つ重鎮である彼の前に――
「坊っちゃんとは失礼だな!」
深緑のローブを纏った金髪の少年が胸を張って立っていた。
「我が名はバスレ・オーン! れっきとした異端観測官にして、このエルメナスが誇る英傑である!」
「ふむ……その英傑が、また勝手に動いて面倒を起こさねばよいがな」
「むぅ! なんと忖度しない叔父上だ。爺やはいつだって僕の実力を評価してくれたぞ!」
「……それで要件は何か?」
「討伐隊を組んでもらいたい! 観測官として、異端の悪魔討伐を行う!」
唐突な要求に、侯爵の眉間がぴくりと寄る。
「悪魔?」
「僕は見たんだ! 例の住人が消えたと噂の集落で――悪魔がグールを従わせるのを!」
侯爵の瞳が冷たく光った。
じろりとバスレを射抜くと、室内の空気がひやりと凍る。
「つまり勝手に行ったのか」
「恐ろしい悪魔だったんだ! あんなすごい……――違う! 僕があいつを退治しなきゃいけないんだ!」
「……申し出は却下だ。屋根の下でおとなしくしていなさい。これは侯爵としての命令だ」
侯爵はそれ以上、視線すら与えず書類にサインを続けた。
バスレは拳を震わせ、唇を噛みしめる。
そして悔しさを刻むように、少年の足音は廊下に遠ざかっていった。
▼次回「風の国、エルメナス公国」
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