CASE1 その②
救急車が駐車スペースに停車し、救急隊の1人が助手席から降りてきたのを確認した後、後方のドアをノックしてから開ける。
患者はストレッチャー上で側臥位になっている。腹痛はまだ続いているようだ。
救急車に同乗していたのは患者の同僚とのこと。受付担当者に同乗者の対応を依頼し、患者に声をかける。
「お腹痛いの続いていますか?」
「はい、けっこう辛いです」
「搬送時はそれほど疼痛を訴えていなかったのですが、病院到着前に再び痛みを強く訴え始めました」
救急隊長が状況を説明してくれる。
「嘔吐は?」
「してないです」
「分かりました、中へお願いします」
救急隊がストレッチャーを救急車から降ろし、初療室へ。
わたしは救急隊を誘導しながら医師に声をかける。
「けっこう痛そうです」
「わかった。診察したら早めにアセリオ落とそうか。採血よろしく!」
「了解です。準備しておきます」
患者が初療室へ到着する。
救急隊と一緒に患者を診察用ベッドへ移動させる。
「医師のりんごです、よろしくお願いします。いま辛いのはお腹ですか?」
自己紹介の後、診察が始まる。まずは問診から、これは診察の基本。
「いろいろ検査のモニターを付けますね」
一声かけた後、医師の問診中にササッとモニターを装着する。
胸部に心電図モニターシールを貼付し、コードを装着。
続いて指先にSpO2モニターを装着。こちらはクリップ型なので指先にカポッと挟むだけ。マニキュアとかをつけていると測定不良になりやすいのだが今回は男性、特に問題なく測定が始まる。
そして血圧。年齢的に考えられないが、念の為確認。
「血圧を測っちゃいけない腕とか無いですよね」
「無いです」
本人の返答を確認した後、左腕を確認。とくに…なにもないことを確認して血圧計を巻く、そして測定。
血圧は腕を圧迫するので、透析用のシャントがあったり、過去に乳がんの手術などをしている人にはその腕での測定は禁忌となる。また腕に傷があったり、過去の怪我で痛みなどがある場合も別の場所(逆の腕、駄目なら下肢)で測定する。
救急で運ばれてくる患者さんは既往歴を拾いきれない場合があるので、本人への確認や目視での確認はとても重要である。
なお、左腕で図るのはこのあとの流れのために…というのも合ったりする。
「じゃあ、体を触っていきますね」
バイタルサインを測定しているうちに、先生は問診から触診に移っている。
私は測定した値を電子カルテに打ち込み、点滴確保の準備に取り掛かる。
「点滴と採血をしていきますね。アルコールで消毒しますが、皮膚が赤くなったりしたことはありますか?」
「ないと思います」
「わかりました、腕を縛っていきますね」
血管確保のために腕をまくる。先に確認した「血圧を測っちゃいけない腕」は採血やルート確保も禁忌となる。しかし、先程左腕は問題ないことを確認しているので、そのままルート確保の準備にとりかかる。
腕をまくり、上腕に駆血帯を巻く。
しばらくすると、血管が浮き出てくるのだが…
浮き出た血管を見て、心のなかでガッツポーズ。良い血管だ、刺しやすい!
初療時に看護師を困らせる原因の多くはこの「ルート確保困難」である。
点滴ルートが確保出来ないと、採血による検査が行えず、点滴による薬剤投与もできないので検査や治療が進まない。
本当に進まない。
そしてこの【血管内に針を刺して点滴用のルートを確保する】という行為、この難易度は患者さんの血管の状態に大きく左右されるのです。(もちろん看護師のスキルも必要)
太く・ハリがあり・真っ直ぐな血管をお持ちの患者さん、最高です!難易度を例えるなら【常にスターを使った状態で1−1に挑むスーパーマリオ】※落とし穴にさえ気をつければ大丈夫!
細く・血管が固く・蛇行している血管をお持ちの患者さん、激ムズです! 難易度を例えるなら【パワーアップアイテムが出ないグラディウスⅢ】※マニアの領域です
そう、このように看護師は常日頃から患者さんの血管と対峙しているのです。そのせいもあり、人を見る時に看護師は「顔」「性格」「血管」を見てしまう。血管に自身のある方、チャンスです。合コンで看護師さんがいたらさり気なく血管を見せつけましょう!
…さて、戻りましょう。
駆血した腕を確認、刺す場所を決めてアルコール綿で消毒。アルコールが乾くまでの間にサーフロー針をチェックする。
サーフローは中側は金属の穿刺針・外側はプラスチックの留置針となっており、穿刺後に外側(外筒)を押し出す必要がある。そのため、一度外筒と内筒を動かしてみることで、トラブルがないかを確認すると同時にスムーズに外筒を留置できるようになるのである。動かしてみる、問題なさそうである。
そんな作業をしている間に、アルコールが乾いている。右手にサーフロー針を持ち、左手で穿刺部周囲の皮膚を伸ばし…刺す。
サーフローに血液が逆流してくる(バックフロー)、血管内に入った証拠である。そのままゆっくりと外筒を推し進める、抵抗なく根本まで挿入できた、成功である。さすが、良い血管!
挿入した外筒の先端部と思われる場所を左手で抑え、内筒を抜く。そしてすからずシリンジを接続、採血を開始する。採血もスムーズに行える、さすが良い血管!!規定量の採血が出来たら駆血帯を外す。
「終わりました、手の力を抜いて楽にしてくださいね」
そう声をかけた後、外筒に点滴を接続する。滴下を確認… 問題なさそうである。外筒が抜けないようにテープで固定する。あとは採取した血液を検査用の筒に分注すれば手技終了である。
採血したスピッツに患者さんの名前シールを貼り、検体はエアシューターと呼ばれる装置で検体検査室へ送る。
文章にすると長いが、この動作で消費する時間は5分程度。
りんご先生はまだ、患者さんの診察を続けている。




