第65話 ベルヌス時計塔
静かな町を一望できる位置にあるベルヌス時計塔。ここからなら今、俺がいるパゴ地区の全景が手をとるかのようにわかる。
「それにしても――。静かだな」
町中に戒厳令が出ているのか夜間の人の動きはまるでない。町衣紋さんに言われて時計塔からの警戒・監視を初めてから何時間がたったのだろうか。それにしても配役がおかしくないか――。町衣紋さんは弓の名手。この時計塔からの警戒・監視役にピッタリのはずである。
「あぁ……。俺も商館内に入りたい」
ため息混じりの愚痴をその時、俺は呟いた。
***
――トットットッ……。
時計塔最上階へと続く階段を誰かが上がってくる。俺の視線がその空間に釘付けになる。
「ユキオス安心しろ。俺だ」
その言葉を聞いて心が落ち着く。そこには町衣紋さんがいた。
「眠たいだろう。コーヒーでも飲むか?」
「ありがとうございます。いただきます」
俺は町衣紋からコーヒーを受け取り一口飲む。
「これは――。もしかしてゴルヌス隊長がブレンドしたコーヒー豆ですよね?」
「よく気づいたな。さすが隊長の一番弟子だ。これは農場を出発する時に隊長から授けられたのだ」
そう言いながら町衣紋さんは虚空を見つめる。その表情はなんだかとても疲れていた。
「私設兵団アクト・メガスの隊員の集合がうまくいってない。恐らく警務隊が各要所に戒厳令に基づいた検問所をもうけているのだろう。現在、集まってるのはパゴ地区に住んでいる九人だけだ」
「九人……。ですか」
思ってた以上に少ない。俺達を入れたしてもだ。この人数でロバートさんやガルシアヌスと戦えることができるのだろうか。
「なんとか集まった九人はパトリキオス指揮の元、元首の護衛に回す。ロバートにはニコライズ・巡防司・頼勝率いる特殊部隊が味方している。奴が暗殺行動に出る可能性もあるからな」
「ということ――。正面玄関で奴等を迎え撃つのは俺と町衣紋さんだけですか?」
「いや、ラバイトス商会会長のブレジデント・トムソン・剣慈慶・満遠が加勢してくれる」
「か、会長がですか――。かなりの歳では?」
「会長は次の誕生日で七十六歳だ。しかし、年齢なんて問題ではない。会長は若い頃その超人的な力を駆使して一人でダダヌスククスクス王国を占領したこともある」
「一人で王国を占領――!? 本当ですか?」
「あぁ、事実だ。魔界新聞にも書いてあった。だから期待してもいい」
「それは頼もしいですね。そう言えばガルシアヌス達の動きはどうですか?」
「それは順調に推移している。まもなく奴等がここに来るぞ。来たら狼煙をあげてくれ。俺も戦闘準備に入る」
町衣紋は不適な笑みを浮かべながらそう言った。




