素晴らしい日々、世界-七つの彼女達の流儀と信義
「やあやあ、ナルディアだよ」
「♪~~~♪」
彼女は歌う、その技能は既に神の領域、真実彼女はその技術によって世界で五指に入る有力者であり強者だ。
時空を振動させる圧力、天上からの聖歌は、既に幻想の極地に位置し、この世の境界線上のギリギリの頂点に存在する私すら、僅かばかり震わせた。
「何時聞いても素晴らしいね、ハイネちゃん」
「それほどのモノではないぞ、完全なる無限の幻想も、所詮は幻想でしかなく、果てはまだまだ垣間見えもしない」
「でも、真成るアカシックレコードにはアクセスできるよね」
「あれは万物を見通すモノであり存在だが、私に魅了された時点で底が知れるというものだ」
「でも、ハイネちゃんが初めてだよ、アレを屈服させて従えさせたのは」
私の”混沌”という美学では、アレを認めさせる事は原理的に不可能だった、彼は共に完全ナルを追及するパートナーを求めていたのだ。
「彼は肥大した世界を、その果てを垣間見る事を望んでいる、なぜ我のような自己に埋没し収束した意志を認めたのか、理解できないでいる、そなたは分かるか?」
「分かるね、対存在は惹かれあう、そういう話だと思うよ」
「そうか、分かるようで分からない、何もかも世界は煩雑に過ぎる、だから私は引きこもっていたのだがな」
彼女は少し前まで表の世界におらず、自己に埋没する意識だった。
しかし、埋没した意識世界、そこの底の底に、彼は居たのだ、見つけた後の顛末は語るに及ばず。
「それじゃね、一応敵対勢力の存在だし、そろそろ退散するよ」
「我は別に構わないが」
「構う人が居るノン、それじゃぁーね!」
私は其処から仮初の存在を消した。
「消えましたか」
「リリー」
黒髪の乙女が姿を現した。
「何か仕掛けてくるかと勘ぐりましたが、杞憂だったようですね」
「この領域で何かしてくるとは、そのような命知らず、愚鈍な存在ならとうの昔に滅されているでしょう」
「ええ、仮にも絶対神、簡単に滅ぼせるわけ無いです、本質的に同位存在なのですから」
「リリー、そなたはいま何を望む?」
「世界の方向性を唯一に定めて、理想の極地を創造するか、新世界に至るか、それだけです」
「災禍の果てに、世界のリソースが、十二分に残っているか、微妙なところだな」
「構いません、理想が叶わないなら、こんな世界は在るに値しません、潔く無に、ゼロに変えるべきでしょう」
「まるで”虚無”のような事を言うのだな」
「言いません、私は純然に”秩序”です。
この不安定でどうしようもない世界の、ゲームバランスを最大限調整し、幸福の総量を突き詰め極める、そういう要素機構なのですよ」
「そうなのであろうな、我の観測からも、そなたは生まれた時から其の道を歩まれていたようだ」
何事か話しているが、お互いの持つ似た美学を確認しあっている、そういう形式の話しなようだ。
ハイネちゃんは、リリーちゃんの、揺ぎ無い絶対の秩序や、それが生み出す絶対の安定均衡に惹かれている、そういう節がある。
そしてリリーちゃんは、ハイネちゃんの絶対に、秩序に似た統制された在るべき世界の形を見出している、そうなのであろう? 私は見抜いている。
「まったく、詰まらないと思わないかな?」
誰にでも無く呟く。
アトランティックに居る、機械都市の最頂点にほど近い、天上に浮かび上がり世界を平眼するかのように立っている。
「つまらないのは、貴方だ」
「冷厳なる声だね、酷いよナルコ」
「知らない、お前のような世界のリソースを使い切ってしまうような害悪は、即座に消えるべきだ」
「それの何が悪いのかな? ゲームを限界まで楽しもうとする、その何が害悪なのかな?」
「それが分からない精神、それを、ただ私が許せない、そういうだけの単純な話です」
相容れない世界がそこには在った。
彼女は無限の世界を無限に楽しむ、幻想を夢見る一途な少女だ。
そして私は例えるなら、ただ一途に幻想を破壊し、その果てにある何かを夢見る、お互いを認められるわけが無い。
「解き明かしてあげるよナルコ、君の夢見る果てを、その先にある何かを、私が見せてあげる」
「下らないことを、貴方のような下らない存在が見せる幻想で、わたしが満足するものですか」
「強がりだね、本当は私の広大な世界を知りたくて知りたくてしょうがない癖に、強情だね」
「知りません、貴方なんかに魅力を感じたことはありませんよ」
「残念だね、私はナルコの世界に興味を持っているのにね」
「だいたい、貴方はなんだかんだ賢い娘、そんな事はしてくれないのでしょう?」
「まあ、まあね、当然だよね」
「だったら貴方は無価値」
「辛辣だね」
「それ以外に、貴方との干渉方法を知らないもので、さっさと消えてください、無意味にリソースを食い合いたいのですか?」
「それもそうだね、どうやらナルコは私を我慢し続けられるほど、弱くないようだしね」
私は移動した。
世界は無限大に広い、だが、その広さも絶対の存在にとっては無意味、絶対とはすべてを無意味にする魔法のようなものだ。
それでも、七つの世界の方向性と特異点だけは、私にとって意味ある何かに足りえる、私にとっての絶対的事象で現象で存在だ。
特異点が集中する集結点のような場所、”矛盾”の根拠地。
そこは興味の尽きない事象と現象と存在に溢れかえっている、私にとってこの世の楽園のような場所。
だが、立ち入ることはできない、純然ナル敵対勢力の直中領域。
そこの戦力と特性をかんがみて、純軍事的に言うなら”難攻不落”、そんな完璧なる絶壁を有する所なのだ、私は指加えて見ているしかない。
「悔しいな、堪能したいな、どうして、こんなにもどかしく焦燥しなくちゃいけないのかなぁ?」
「焦がれるほどに、より求められる、というのもあります」
「それで満足しろっての? 虚無の女王は何もなくても満足できて羨ましいね」
「残念ながら、そうでなくて、私は全てを持つ故に、全てをいらないと思っているのです」
「うそ、貴方は全てを持つゆえに、全てでも満足しない、できなくなった、無上の退屈を持て余す情熱的な存在のはず、真成る虚無とは程遠い世界の方向性を所持してるんだしね」
「ある意味では、そうですね」
「それにしても何時ごろまた来るのかな?
あの絶対に確定しただけが取り得の、世界を無くしたくてしょうがないだけの愚かな存在達は」
「さあどうでしょうか、鬱憤が溜まって臨界したら、またわんさかと顕現すると思いますよ」
「そうだね、その時が私は酷く楽しみだよ」
「そうですね、世界を無くす為に、彼彼女らは世界に何かを生み出さなくてはいけない、それは私達のような新鮮なる何かを求める存在達にとっては、世界をより拡大させる為の糧になるというモノです」
「だね、一種のエンターテイメント、祭りと思われていると彼彼女らが知ったら、いったいどんな風に思うのか、考えたらちょっと愉快だよ」
「それを糧に、彼彼女らを徹底的に、二度と私たちに干渉しようと思えないくらい、叩きのめすのは確かに大きな娯楽ですね」
「本質的に所詮は引きこもりの根暗集団だよ、外の世界を知らない彼彼女らは、外を知る私たちに絶対に勝てないしね」
「それを、私も最近知ったのが痛いところですが」
「いいよ、これから知ろうとしても遅くないし、早いも遅いも無いと、この際に限定しては思うよ」
「ならいいのですが。
こんなにも感情を持つ事ができる世界を、知らないなんて勿体無いですし。
私自身、こんなにも感情を持たせて有るという状態を渇望させる、そんな色彩豊かな世界があるとは、予想もしなかったですし、彼彼女らもは、未だに盲目に何かを思っているのでしょう」
「だと思うよ、でも、彼彼女らは、私達と同位の何かを知ってるんだとも思うよ。
だって、こんなに高次元に低次元に世界が展開していて、それに最大限介入して、上にも下にも躍り出たい、退場したくないと思うが正しい生き方だと思う、のに、それを知っていて否定する、考えられないね。
きっと無であるのには、私達の理解できない知らない何かがある、もしくは知っていても忘れてしまうほど、私達は知りすぎたのかもしれない」
彼女はこくりと頷いた。
世界を知りすぎて、退屈を持て余した私達は、きっと何時か世界を壊すだろう。
私はそれが新世界の始まりである事を願う、終焉を招くようなバッドエンドデッドエンドは嫌だ、私は無限に続く物語を望むがゆえに。




