ブラック企業震度ローム
「はぁ~今日も仕事だぁ~」
俺は俺だ、名前は国広高貴。
「こらぁー! 国広! 出社は三十分前って言ってるだろぉ!」
へいへい、すみませんね、頭を下げつつ自分のデスクに付く。
あ、ここ、ブラック企業ですわ。
それもそのはずで、昨今の西側東側の最終決戦に伴い、国家総動員。
前々から人権を無視する嫌いのあったわが国は、遂に軍需産業に半強制的な労働を強いるに事に相成った。
周りからは、というよりこの場にいる幾十名から「しくしく、しくしく」という声が聞こえる。
俺みたいな奴ならともかく、国家のためという大義名分に踊らされて、果てしない超過労働をやっているからだ現在進行形。
可愛そうな事に円形脱毛症を患っている奴もいる、しかも女子だ、おいたわしい限りだ。
「おっはよぉ~!!」
「元気すぎるだろ、元気印かお前」
「なんだよ!元気で悪いかぁ!」
コイツは同僚だ、長い茶髪がトレードマークの美少女、見ているだけでウキウキしてくるね。
「あぁぁーー! 働けて嬉しいなぁ! こんな不景気なのにぃ~!」
「ちょっとは周りを見ろ、働かされているって感じだぞ」
「まあまあ、働けもせず飢え死にするよか、万倍ましっしょぉ!」
ピースして笑ってくる。
どこまでも愉快に振舞ってくれて、場の士気も上がってくれればよいのだけども、そう簡単にはいかんって感じだ。
「よぉー、今日はどれくらい働けばいいのかねぇ!」
「まあ、十二時間以上だわな」
「温い温い! ぬるま湯に浸かってたら! これから先の地獄を働けなくなるよ!
第一! 私はそんな短い時間じゃ! 働いた気がしない変態だから! もっと働きたいよ!」
あー、コイツ馬鹿になってるわぁー。
「仕事中毒かよ、一人で頑張ってくれよ」
「国広も働くの! 一緒に汗水流して気持ちよくなろぉー!」
「デスクワークじゃ汗水流せないけどな」
本日俺達の配属された現場は、兵器取引に関する事務職。
汗水流す現場なら、兵器の組み立てとか、そんなじゃないと無理な相談だ。
「わっはっは! なら今日は飛び込みで現場いこうぜぇ! 身体動かしたい気分なんじゃぁー!」
「まあ、お前のような奴は少数派だろうから、もしかしたら行けるかもな」
そしてコイツは上司に「現場行きたいんじゃー!」と言ったら「うるせえから地獄の現場に行かせてやるぅ!」とチビッ子いツインテールの幼女が言う、どうやらオッケーらしい。
「行こう行こう!」
「あいよーしゃーなしだな」
フロアから飛び出て、無駄に走って地下駐車場まで、あれ車が無い、、。
「走るか!」
「走れるかぁ!」
「いや無理じゃない! 36キロを全速力で走ればなぁ!」
「無理じゃないかぁ!」
「やってやれない事はない!やるぞぉ!」
そして地下駐車場を出でて市街地へ。
人類を粗方超越した身体能力を有する究極無敵元気っ子に付いていくのは、まあ中々に疲れたよ。
長い道程を己の肉体のみで踏破、見えてきた兵器製造工場に定刻どおりに着く。
「あっは、あっは! 無駄に早く出社してたお陰だなぁ! 間に合ってるぞぉ!」
「そうだな、もう俺は一日分働いた心地だ」
何百人、いや何千人いるのだろうか、ここ大規模兵器生産所で有名な工場の一つだ。
だけど、並み居る面々が全員歴戦の戦士みたいな奴しかいないのは、果たしてどういうことだろうか?
「ここは、王国軍人が集まってるみたいだね」
「俺達軍人じゃねーぞ」
「軍人レベルって認められてるってことだねぇ! うれしいぃ!!」
「いやがらせじゃねぇーかなー」
その後始業開始、常に全速疾走を強いられて、俺はもうへとへと、死にそう。
「ああ!可哀想に! 死にそうな顔をしてるよぉ!!!
ああああ! でも! こういう弱ってるときに、優しくすると! 好感度急上昇なはず!
この機に乗じて、わたしの事メッチャ好きにさせてやるぅ!!!」
死に掛ける俺に手取り足取り腰取り、やりすぎなくらい世話焼いてくれる、なるほど惚れそうだぜ。
「やっと終わった」
「終わったねぇ~、明日もここで働こうか!」
「おまえ一人でな」
「国広も。
だいたいへっぴり腰過ぎるよぉ! それでも戦士かぁ! がおぉおおおお!!!」
「俺は戦士になったつもりはないってのぉ」
「それじゃ! これから戦士になるんだ! 明日も頑張るぞぉ!」
「疲れた、疲れた」
次の日。
「うぇーい!!!」
「お前、寝てないだろ」
「うん! あの後、ずっとデスクワークだぜぇ! 腕が上がらなくなりそうだぁ!」
涙目だ。
「うぇ、行き成りなにぃ!?? やさしくしないでぇ! 惚れちゃうよぉぉお」
昨日のお返しとばかりに、猫みたいに猫可愛がる。
「うぅ、好き! わたし国広のこと好きになっちゃったみたい! この胸のトキメキを受け取ってぇ!!!」
「釣り橋効果的なアレだから、すこし落ち着け」
「つり橋なんたらじゃないもん! これは真の運命の約束された勝利の恋だモン!!」
ぷんすか怒って俺の頬を頬張りだしたからさあ大変、俺は慌てて露骨に錯乱した変態を押さえつける。
「むがぁーわ!」
「とりあえず眠れ! 話はそれからだぁ!」
「眠くないもん! スリーピハイだぜ! 眠気が一周して! なんだか気持ちよくなったきたんだよぉ!」
「そりゃ危険信号だ!さっさと眠るんだ! どうなっても知らん、じゃなくて、、、お前が心配なんだよぉ!」
「、、キュン、っっ!
そうだ!君も疲れてるみたいだし、、結婚する?」
「お前の方が疲れてるだろ! だいたい結婚ってどういうことだ!!??」
「結婚すれば、なんだか元気出る気がするぅ! そうだそうだ! 結婚するぞぉ!」
「一時の気の迷いで結婚すなぁ!」
「気の迷いでもつり橋効果でもないもん! 君は運命の人なんだよぉ! きっと! たぶん! いや恐らく!!」
「どんどん気弱になってんじゃねぇえか!」
「うぅぅ!! 好きだよぉ!すうぅきぃいいいいい」」
「変なの取り憑かれてんじゃねぇーのかぁ、イイから離れろ!」
「イイの!!やった! 結婚だぁ!!」
「やめろやめろ!」
好き放題やって疲れたのか、スイッチを切ったように寝てしまった。
「すぅーすぅー」
まったく、こんな細身細面で、なに無理してんだか、呆れて言葉も出ないね。
数時間後。
「うぇえしゃぁああ!!!」
「復活はやぁ!」
「よおよお! 景気どうよ??! ビックビジネスチャンスは掴めてるかいぃ??!」
「景気は良くないぞ、軒並みな」
「そんなぁ! 私たちが盛り上げないとぉ!」
そして急速発進の如く仕事に取り掛かる奴。
「まったく、見上げるべきかどうなのか、不思議な奴だ」
俺もまあ、コイツに負けないレベルで頑張らないと、と思うのだった。




