殺人鬼と暗殺者と
俺こと、杉谷レイジは殺人鬼だ。
人を殺して快楽を得る、あるいは戦闘狂やもしれん。
だが、人並みの良心はあるので、殺す相手は選んでいた。
まあ、目付きが尋常でなく悪いとか、そういう見た目じゃなくて、同類を狙って犯行を重ねていた。
そう、つまり殺人鬼を殺していたのだ。
殺人鬼はなぜか、俺だけかもしれないが、殺人鬼を嗅ぎ分ける事ができるようだ。
昨日までは、そのようにしていた。
だがある日、初めて、ある一般人を狙った。
なぜかは分からない、どうしても殺したくなった。
後から知ったのだが、そいつは殺人鬼なんて比べ物にならない、それ以上の上位互換だった。
「ねえ、レイジ、殺していい?」
日常において、いきなり尋常でない、圧倒的殺意を周囲に溢れさせる。
そして、その指向性を俺にするな、鬱陶しいから。
「いいわけあるか」
「そう、まあいいわ、仕事もあるし。
今日も暗殺の依頼が複数あるわよ、付き合いなさい」
「はいはい」
俺はコイツを殺そうとして、返り討ちにあって、その日から従属させられている。
コイツの名は、シャルロッテ、最高の殺し屋、または暗殺者と言われている。
俺は道端を歩いていた。
特に俺の自由は制限されない、逃げ出しても、直ぐに見つけ出して殺せるらしい。
俺の超感覚が、殺意を感じ取った。
殺意なんて科学的でないが、俺には確かに感じ取れる感覚、それが走り抜けた。
白刃を視界に入れた瞬間には、袖口から小型ナイフを取り出し、弾くように受け流していた。
「へぇ、やるね、いまの一撃で決めるつもりだったのに。
これは、ちょっと楽しめるかもしれないねぇ」
交差し、一本道の先にいる相手の全貌を確認する。
全体的に黒い制服、肩口までの漆黒の髪、暗雲のような底知れない深い黒色の瞳。
平常に置いては、なにより異質で特徴的なモノ、得物、凶器は、なんと日本刀だった。
すらりとした肢体の彼女には、なんとなく映えるその白刃の切っ先は、いま俺を向いている。
そして、先ほども感じた純度の高い、研ぎ澄まされた刃のような、俺にとっては圧倒的と感じられる殺意。
殺意の強度がそのまま強さに直結するわけじゃないが、今の一撃を防げたのは奇跡に近い。
また、来られたらヤバイな。
「なぜ、俺を殺す?」
「殺したいから、じゃ、駄目?
まあ、あえて理由をつけるなら、シャルロッテの関係者だから、かな?」
会話しつつ、じりじりと間合いを隙を詰めてくる。
俺は焦りつつも、相手の殺意に飲み込まれないように、自己の殺意を増幅させるように睨みを強くする。
「痺れる目をするね。
わたし、異性には余り興味がなかったんだけど、君になら少しは関心が持てるかも」
「お褒めに預かり、光栄だね。
だったら、俺を見逃すか手心を加えるか、あるいは味方になってくれないかな?」
「ふっふ、駄目だね。
だって、そういう相手だからこそ、殺したくなる、わたし達の間じゃ、当然の法則でしょ?」
相手も俺も口元に歪な笑みを、舌なめずりのようなソレを浮かべて、交差した。
「さて、次で最後かな」
俺のナイフは折れていた。
得物を失った俺に、黒色の女は淡々と距離を詰めてくる。
そして俺の間合いに、刃が迫る。
「しょうがないな」
「はぁ?」
素手で白刃を掴む、それは捻っただけでバキリと、簡単に折れた。
拳で相手を殺す、その生々しい感覚だけで、俺は自分で自分が抑えられないほどの殺意を認識した。
荒々しい感情が、どこまでも俺を駆り立たらせて、ハイになったような心地だ。
美しくないが、醜く汚れた暴力性が溢れ出した。
これは快楽じゃない、ただ己を昇華させるだけの衝動だ。
「なるほど、それが君の本性か、すばらしいね」
獣のような身のこなしで、距離をとられる。
大分素早いな、ヤルなら、本気で殺意を膨れ上がらせないといけない。
しかし俺は、できるならしたくない、拳で他人を殺すなんて考えたくもない。
「嫌悪感しか沸かないが?」
「自らに、目を背けてるんだね。
わたしは退くよ、また機会があれば、殺し合おう」
黒髪の女は去った。
俺は自らの拳を見つめた、まだ余韻が残っているのか、小刻みに震えている。
嫌悪感が沸き起こる、早く新しい刃物を手に入れなければ。
俺はこの感触を忘れる為にも、殺し続けなければ狂ってしまうだろう。
「自らに、目を背ける、、か、、そうなんだろうな、俺は」
最愛の存在を、この手に掛けて、そのどうしようもない感触に絶望した。
それ以上の感触を見つけなければ、俺は全てを認められないし、許せないのだろう。
その為にも、探し続けるのだ、俺自身、自らを根底から変える、そのようなモノを。
「あいつ、いま何してるのかなぁ」
俺は思う。
俺を絶対に変えてくれそうな存在、感覚。
今の全てを一変させて、おれ自身が絶対と信じる、信じてしまう、あの感触を超える何かを。
「ごきげんよう、貴方、今日は何してたの?」
そうか、俺は気づいた。
俺は湧き上がる、この衝動、暴力性を、コイツに根底から、絶対に修復不可能なほど、圧し折って欲しいのだ、と。
俺自身が自分で抑えられない、この暴れ狂う力の衝動を、調教し、つまり、従わせてもらいたいのだ。
それは、自分が心底から認めた、コイツのような上位存在にしか不可能な事由だ。
コイツに、絶対の首輪をつけてもらい、内の獣を絶対の拘束状態にしてもらいたいのだ。
主従関係ではない、絶対に誰にも従いたくはない、だが、俺の一部をコイツに絶対に従わせたいのだ、複雑な話だ。
その己の歩むべき、唯一無二の運命を、その時俺は信じたのだ。




