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紅の刃と闇の異形

 

 

 この世には、闇の異形と呼ばれる存在がいる。

 それは純然たる脅威であり、今もこの世界に跋扈している。


「なんか、陰謀論めいてるな、状況把握はしたいから、続けてくれ」


 それらは、この世の理の外に位置し、常に世界という巨大な意思に排他される存在。

 しかし、理由は不明だが、排他されずにこの世に蔓延るモノもいる。


「なるほど、そこら辺、もうちょっと詳しく」


 世界は、それらの存在を認めない。

 だから、その異形に殺された場合、その結果はなかった事にされる、異形の存在を認めた事になるからだ。 

 つまり、それら闇の異形に殺された人間は、その殺された事象含めて、全てが世界に無かった事にされる。


「ご都合主義的だな、今まで公にならなかった、それが理由ってわけか?」


 それで、闇の異形に対する手段だが、、。

 ありとあらゆる物理的な攻撃が効かない、なぜなら世界がそれを認めないからだ。

 ゆえに、こちらも外なる理を扱う必要がある。


「それが、これって訳か?」


「そうよ」


 彼は、刀身に紅の光を帯びたナイフを。

 私は、同様に光を帯びた日本刀を、お互いに月の光に翳した。


 ここは私の家、この町に唯一の、小規模な神社だ。

 町内の隅っこにひっそりと、森林に囲われた、半ば山の中に位置する家を兼ねたモノだ。


「状況把握は済んだ、とりあえず始めまして、俺は坂崎樹、イツキって呼んでくれ」


 彼とは、先ほど出会った。

 出会いは偶然としか思えない。

 私が神社の裏手、山の奥の方で、半裸で日本刀を振っていたら、彼が見ていたのだ。

 私は狼狽し、彼になぜか斬りかかった。

 だが、彼はそれを防いでみせた、その手に持つ小型のナイフで。

 そして、その刀身が紅を帯びていたので、私は彼が同類だと見抜いたのだ。


「はい、イツキ、私は、赤羽紅子、コウコでいいわ」


 座敷で正座しながら、対面の彼に軽く頭を下げる。


「そういえば、家の人はいないのか?」


「いません」


「もしかして?」


「ええ、殺されました、なかった事にされていますが」


「やっぱりか」


 異形に殺されれば、普通は記憶が抜け落ちる。

 だが、真に繋がりの強い場合は別だ。

 世界の干渉限界なのか、原理は不明だが、私は殺された両親の事を明確に覚えている。


「俺もだ、ついこの間だってくらい前にだが、家族全員を殺された」


「そうですか」


 私の至極軽い返答に、彼は黙る。


「それだけか?」


「ええと、痛み入ります」


「まあ、そうだな」


 拍子抜けしたような声色。

 なんだろうか、コミュニケイション障害が露呈して、呆れられたのだろうか?

 まあいい、私は刀さえ振られれば、それでいいのだから。


「コウコは、ここで暮らしているのか? 学校とかは行っているのか?」


「はい、学校には行っていません」


「どうしてだ?」


「行く意味がないからです」


 その返答を聞くと、彼はニヤリとした。


「そうか、俺も行ってないんだ、行く意味がないからな」


 暫し黙り、静寂が辺りを包む。

 彼は特に気にした風も無い、私も沈黙には慣れているので、マイペースにボウッとする。


「そうだ、コウコはどうやって暮らしてるんだ?」


「どうやって、とは?」


「生きるには、収入が、お金が必要だろ? 

 幾ら闇の異形に対抗する力を持っていても、お金には絶対に勝てない、無ければ絶対に生きていられない、死ぬだけだ」


 その言葉には、なんだか熱が、実感が篭っている気がした。


「はい、私は神社の経営を、偶に来る参拝客と、お賽銭で、質素に生きています」


 私の言葉に、彼は驚いたような顔の後、僅かに感心したような表情を見せた。


「しっかりしてるんだな」


 すこし、気になったので聞いてみる。


「貴方は?」


「バイトで、一人暮らしだ」


「実家の方に?」


「いや、親の家は、なぜか名義がなんたらで、国の所有物になっちまったみたいでな」


「それでは、アパートで暮らしているのですか?」


「いや、アパートは借りれなくてな、ネカフェだ」


「ネカフェ?」


 なんとなく、聞き覚えはあったが、良く覚えていない。


「まあ簡潔に言えば、ネカフェ難民だな」


「ネカフェ? 難民?」


 要するに、24時間営業のコンビニのような場所で、一日ごとにお金を払って寝泊りする場所、らしい。


「大変なのですね」


「まあ、それほどでもない、身体は元気だしな、金が溜まったら家でも借りて、まともに始めるつもりだ」


「立派なのですね」


 素直に思った、逆の立場なら、彼ほど積極的に、行動力を発揮できたかどうか。


「これは、提案なのですが」


 私は、特に何も考えず、というのは微妙に違うというか、なんというかだが、提案した。


「私の家に、泊まりませんか? お金も掛かりませんし」


「正気っ、じゃなくて、見ず知らずの初対面、つぅーか、、あのなぁ、、」


 確かに、そうなのだろう、客観的に見れば。


「お願いします」


「いや、なんでお願いされるのかぁ、、」


 困惑顔だ、それはそうなのだろう。


「短い間ですが、貴方が多少なりとも、信用できる人だと感じたからです」


 それっぽい理由を言ってみる。


「そうか? いろいろ怪しい点が、、まあいい、理由を聞いていいか?」


「理由とは?」


「どうして俺を、ここに置きたいと思ったかだ」


 割と、察しがいい。


「貴方も、分かっていると思います、共にいた方が、何かと便利だからです」


「なるほど、確かに、それは、そうなのかもしれない」


 つまりは、異形との戦いに有利、それだけ、まあ、私の場合それ以外にも幾らかあるのだけど。


「それでは、ここで暮らしていただけるのでしょうか?」


「いやしかしなぁ、、、」


「私は気にしません、むしろ、歓迎します。

 この歳で一人暮らしは、その、情けないことですが、寂しいものなのです」


 ちょっと切なげな瞳を意識してみる、彼が息を呑むようにしている。


「そうか、、、まあ、異形とのアレもあるし、、、な」


 そのような形で、相成った。


「荷物は、それだけなのですか?」


「ああ、特に、持たなけりゃならないモノも、なかったしな」


 どこか、コインロッカーに収めているモノを取ってきて、彼は帰宅した、私の家にだ。


「それでは来て下さい、部屋に案内します」


 彼が外に行っている間に、いろいろと済ませて、用意した部屋に連れて行く。


「もともと、物置だった場所です。

 一通り、家財を置いてみました、気兼ねなく使ってください」


「感謝するよ」


 彼は頭を下げて、部屋を見渡す。


「では、今日は遅いですし、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 一礼して、自分の部屋に向かう。


 なんとなく、家族がいた頃の感覚を思い出す。

 胸がずきりと痛んだ。

 部屋について、横になっても落ち着かない、身体が疼いて疼いて、どうしようもなくなる。


 部屋の隅に立てかけてある、日本刀を取り出して、庭に出る。

 夜ならば、絶対に人目もないだろうと、白刃を取り出す。

 そして、精神を集中させて、いつも通りのイメージ、紅を纏わせる。


「、、、はぁー、、、ふぅー」


 不思議と落ち着く感覚だ、深呼吸を繰り返して、刀を正眼に構えたまま暫しその体勢を維持する。

 極限まで精神が安定したところで、それを断ち切るように、刀を鋭く振るう。

 この感覚は自分だけのものだ。

 これは訓練でもある、極限まで身体の力を抜いた状態から、瞬間的に力み、刀を振るう。

 鋭い斬撃を幾度も行い、演舞をするように立ち回る。

 身体中が、全て自分の意のままに、イメージの通りに動いている感覚。

 圧倒的な万能感、全能感に支配されて、この時は身体の求めるがままに、意のままに刀と身体をシンクロさせて動作する。

 暫し酔い、体が熱を持ってきた頃、動きを止める。

 汗は掻いていない、この程度では、まだまだ、だが、今日はこの程度にしておこうか。


 なぜなら、これからが本番なのだから。

 夜は長い、狩りの時間が始まる。


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