破滅の十字軍編-共通ルートその1
俺は、まあいい。
これからまた、哀れな子供たちがやってくる。
西域の、かなり腐った国にて。
今回も第34回と銘打たれた、聖地奪還の為の十字軍計画が持ち上がった。
それによって、ただただ、生贄でしかない少年少女がやってくるって寸法だ。
俺はその、指導教官だ、沢山いるその内の一人。
直属の、だいたい五人程度、それを鍛える為だけの人材。
この遠征計画は、ただのお飾りだ。
自分達よりも、遥かに年下の、女子供と同義の類に、破滅的な遠征を行わせる、そういう見せしめ娯楽だ。
腐った野郎、平民や貴族、あらゆる人種が内心望みながら、表面では嘆きながら、行われる腐った風習のようなものだ。
その根拠付けは、複雑なようで単純だ。
穢れの無い、そういう宗教的に純潔とされる、加護によって守れられた子供達ならば、必ずや遠征を成功させる事ができる。
そんなこじつけ甚だしいを、幾分も通り越した超理屈によって、この遠征は多くの人間に支持される。
だが、実際に戦いに、それも自滅的で全滅は必死、更に死ぬまで帰ってくるなと、暗に示されるその遠征。
誰が行きたがるかよ。
でも実際はそうはならず、様々な領域から様々な理由で、それなりの数の子供達が集められる。
一応は、それなりの訓練期間を経て、更に少数精鋭の指導によって、見栄えだけはそれなりに整う。
だからか、この遠征は出征の時は華々しく、そしてその終わりの地獄が映える。
絶望を色濃く、それも感動的に演出し、多くの人間の心の支えとなる、そんな中世の魔女狩りにおける、火あぶりの様な国家行事なのだ。
奪還する聖地は、過去の聖都、エクスラシャペル、おまけにその周辺領域。
今は沢山の魔物、それと同義に等しい蛮族に、狂気的な戦闘狂、怪しげな宗教団体や逸れ物の魔女や異端者。
更には堕天使の類、悪魔や吸血鬼や淫魔等々、魑魅魍魎がばっこし。
もっと言えば、犯罪者集団の隠れ蓑だし、他にも違法取引の奴隷売買や、その他非人道的な研究もされてるだろうよ。
そもそもがだ。
普通の遠征は無駄と看做されて、平素計画すら駄目もとでも立たないありさまなのだ。
そんな死地に、年端も行かない子供たちを送り込むのだ、俺としてはやっていられない。
そういう難事業ですらない、そもそもがデスマーチのような仕事をしている。
それでも、俺が、当面のところ、やらなくてはいけないと、使命的に思っているのが、この仕事なのだった。
「よっしゃぁ!!!!しまって行こうぉ!!」
うるせえ。
目の前の桃色の髪を靡かせ、少女騎士のように立ち振る舞う少女が宣言する。
「おい、お前、自分がどんな境遇に置かれているのか、分かってるのか?」
初顔合わせ、俺の所には、まあ色々と手を回して。
十字軍の募集で集まった、その中でも上位五名が、選ばれてやって来るようになっているが。
それにしても、今年は生きが良すぎる、こいつはその中でもリーダー格の少女のようだ、既に五人とも一応の交流や紹介は済ませた感じか。
「おうよ!私たちは少年・少女十字軍として!聖都奪還の為に集められた!選ばれた勇者なんだ!てんやんでえ!」
うん? この対応、まさか。
「おい、お前、俺を誰だと思ってるんだ?」
「ええ? 貴方って私たちと同様、集められた人じゃないの?」
クソが、カスが、遠征前にココで血祭りに上げてやろうか。
「俺はそうじゃない、俺はお前達を訓練する為に来た、つまりはお前ら直属の指導官だ」
「ええぇ!!!!!マジですかぁ!!だってそんな優男フェイス、どう考えても私らと同年代!」
「おい、少し静まれ、お前はそうやって叫ばないと、他人と話せないのか?」
「お前じゃないやい!私には”ちさと”って名前がちゃんとあるでい!」
そこで、今まで成り行きを見守っていた、五人組の中の一人。
肩口ほどの茶髪、更に薄い紫色の瞳を持つ、大人しそうな。
割とこの中では一番御しやすそうな、そんな見目の少女が口を開く。
「ほっ惚れました」
「はあぁ?」
空耳か、なんなのか、意味不明な言語が聞こえた。
「う、うわぁ!!!!なんてイケメン!超絶爽やか!うわぁ!うわぁ!
え、えとぉ!お、お名前はなんて言うのですかぁ??
わたしは”あおみ”、あおみ=クリスと申します!ゆえ!なにとぞ今後健全なお付き合いを~~~、、、(長過ぎるので省略)」
なんだこいつは。
見た目とのギャップが凄すぎる件について。
って俺まで変な脳内思考に侵される始末、こいつはこの中でも、本当に要注意人物かもしれない。
「そういうのはやめろ、俺はそういうのに興味なんてない、期待されるだけ迷惑だ。
だが、名を聞かれたからには、それだけは答えよう、”ジーク”だ、ジーク=バレンシュタイン、これから、まあそれなりによろしくすることになる」
「つ、ツンデレ?? えあ!そうじゃなくてぇ!ジークさん!!ジークさんですねぇ!了解しましたぁ!
えーとあーのー、呼び捨てオーケーですか?」
「はあ? なぜ呼び捨てをする必要がある、俺はお前らより大分年上だぞ」
「ああ、そうですよねぇ、ごめんなさい、失礼な質問をしました。
さらに失礼かもしれませんがぁ、、、彼女とか今現在いたりしますか?」
こいつは。 すこしの間無視だ。
他の奴と話した方が、大分建設的っぽい。
「あおみさん、最初から飛ばしすぎですよぉ~、こういうのはファーストインプレッションが重要なのですからぁ~」
こいつも、、、変だ。
見た目は普通、ブラウンの長髪と同色の目、上品な感じの少女。
だが、話し方がアレだ。 典型的な頭軽い、電波っぽいガキの調子をしてやがる。
「はじめましてですぅ! わたしは”ふゆみ=ロロ”って言います! ふゆみって呼んでくださいぃ~」
にこやかな、何だか最近全く見ない、そんな無邪気で無垢な、この世界じゃ普通踏みしだかれるだけの笑顔。
「あ、ああ、始めましてだ、俺は先ほども説明したが、ジークだ、よろしく頼む」
こちらが多少なりとも圧倒される、そんなマイペースさ、こいつもこいつで厄介な手合いそうだ。
というより、この五人は集められた中でも最精鋭の手練のはず。
なぜこんな一切の殺伐とした感じがないのか、そこからして意味不明だ、こいつらの存在と同様に。
だが、一人くらいは、それに類する奴もいた。
先ほどのアレコレを、多少遠巻きに眺めている少女。
黒茶髪の長髪を滴らせ、騎士服を華麗に着こなす、軍人肌がとても似合う。
そんな少女は、こちらを鋭利で理性的、知的な感じのする瞳で、ただただ眺めていたのだ、そうさっきから。
その緑色の、エメラルドのような美しい瞳は、多少ばかりこちらを圧倒する色合いも含まれていた。
警戒しているのだろうか?
だったら、少しは指導教官として、上手く交流をして、それを解かなければならないだろう。
「始めましてだ、俺は君達の訓練を受け持つ事になった、ジークだ、これからよろしく頼むぞ」
俺の言葉に、少女は笑みのような表情を貼り付けて応じる。
「はい、始めましてです、私は”さつき”、さつき=ヘレナと申します。 以後お見知りおきを」
うん、やはり、多少変だ。
大体声が、こいつらは総じて高過ぎる傾向にある、ような気がする。
演技しているわけじゃないだろうが、なんか聴き慣れない、変な電波のようなモノを感じざるを得ない。
だが、さつき、こいつの場合はそれだけだ。
声以外は割りと普通だ、だったら俺の偏見のなせる業、なのかもしれない。
「ああ、よろしくだ。
それにしても君たちは、自分達の状況、その周辺の事態が、しっかりと把握できているのか?」
「ええ、把握できています。 私達は、これからどんな過酷過ぎる任務に、赴かなければならないのかも」
シリアスな表情。
うむ、こいつは少なくても、他の理解できているのか、正直微妙な奴らとは、何か一線違うものを感じる。
「まあ、そういう難しい話は置いといて、貴方が私達の指導教官ですね?
これからよろしくぅ~♪ 頼りにしてるからぁ! 貴方も私たちと、ともに全力を尽くしましょうぉ!
なにしろ、貴方も知ってのとおり、こんな辛気臭い戦いを、それこそそんなテンションでやっていたら、途端欝になってしまうわ。
だから、貴方も、私たちに合わせてくれると、嬉しいだけど、、、やっぱり難しいかしらねぇ~」
うわ、いきなり大きく話すテンションも、語り調も変えきたな、正直かなりビックリした。
でも、相当に胆力がありそうな、できる奴って感じがする、こいつは案外この中でも一番大物なんじゃないだろうか。
本当に今年は、生きが良すぎる奴で占められているようだ。
適当にさつきと話しながら、向こうの木の方で、上の方を眺める少女に目をやる。
てかぁ、さつきは良く舌が回るな。
こんなにも饒舌でお姉さん染みた明るさは、俺の知る限りだとアイツくらいのものだ。
「あ、あの子が気になりますか? ジークさん」
「まあな、一応、あいさつくらいはする必要があるだろう」
そう言って、一端さつきから離れ、木の上を見続ける少女に近寄る。
「なにをしておるのだ?」
近寄りながら、なぜか至近まで近寄れない。
どこか近づきがたいオーラのようなモノを発していた少女、近寄って初めて分かった事だ。
「貴方は、だれ?」
口数少なく、それだけ聞く。
てか、どうやらさっきまでの、俺達の会話を小耳にすら挟んでいなかった様子。
度を越したマイペースか、それとも天然か、または他人など至極どうでも良い自己中心的な奴か、そのどれかだろうよ。
「俺は君達の指導を任された、ジークだ、これからのあいさつも兼ねて、こうやって話しかけているのだ」
すると、少女の目の色が変わる。 瞳孔が開いたように鋭利から、若干穏やかに変わる。
今気づいたが、猫のような少女だ、全体的見た目の印象が、まるっきりソレそのものなのだ。
十人中九人程度は、彼女を見てまずは頭に”猫”と思い浮かべるだろう、それほどに何か全体形質が似ているのだ。
肩口ほどの髪も、純黒の色合いで、クールで野生的、どこか飄々とした印象を与える。
更に紫のアメジストのような瞳は、それら彼女の全体を総合して、ミステリアスな印象に拍車を掛けているような。
「ああ、そうだったんですか、これは失礼しました。
私の名前は”しずる=アルゼ”です、これからよろしくお願いします」
割と、話してみると礼儀正しかった、声もなんか普通な気がする。
気がするだけで、多少高くて電波なのは変わらない。
でも、なんだかどこまでも落ち着いて大人しい、包み込むような包容力を感じた、癒されるようなそんな心地の響きだったのだ。
「そうかしずるか、よろしくだ。
それで、君は木の上の方を見て、なにを見てたんだ?」
「ああ、すみません、不思議に見えましたよね。
ただ上に、そうです木の上のほうです、あそこです」
しずるが指差す先、高いところに一匹の猫がいた。
しかも、しずるの髪の毛と同じ、純黒の猫が、震えるように、だが微動だにせずそこには居た。
「あれを、君はなんとかしたいのかな?」
「ええ、できれば、なんだか他人事のような気がしなくなってしまって、木登りしようか迷っていた所なんです」
今時殊勝な。
たった一匹の猫の為にそこまでする、普通にお人よしが過ぎる、この場合は猫だがな。
「だったら、俺が取ってきてやる。 君は万が一、猫が転落した時の為に、下にでも居てくれ」
実は、その必要はない。
確かなんだったか、猫はどれだけ高い所から落ちても、重力のバランスやなんやらで、普通に平気なのだが。
この時の口上は、少女を下で待機させ、俺が取りに行くのを納得させるための方便だな。
「いえ大丈夫です。
私の方が木登りには手馴れています、不慣れな人が上っては万が一があります。
それにです、猫は高い所から落ちても平気なのですよ」
こいつ、知ってやがったか。
それにだ、大胆にも俺の提案を自ら跳ね除ける、意思もそれなりに強いらしいな。
「大丈夫です、見ててください。
というよりも、私の見た目的にも、木登りは得意そうに見えませんか?」
その場でクルリと、なんてレベルじゃない、クルクルとバレリーナのように回りだす少女。
割と見方によっては滑稽な絵柄。
だが、それによると、この少女の身体能力は折り紙つきのようだ、全く任せて問題ないだろう。
「では行って来ます」
それだけ言うと、少女はスルスル、そんな勢いで上にまで上り始める。
目の前の木はかなり大きく、十メートルほどはある。
だがほとんど一瞬、俺にとってはその程度の短い間に感じられた。
「ほらぁ、ねこちゃぁーん、怖くないですからこっちにおいでぇー」
猫相手に人語を話す、不思議系少女なのだろうか? 一概に括れない、そんな深みのある少女である。
そして、木の上の方だから、良く分からんが。
なにやら、枝の先のほう、そこにいる猫に警戒されているようだ、猫特有の威嚇的な鳴き声がここまで聞こえてくるし。
そういえばと思い出す。
教会の孤児達が、猫を飼い集めて、それで畑のネズミを取るとかなんとか、嬉しそうに語っていたっけ。
愛玩動物として、そういう風に人間と共にあるのが、割とこの暗黒漂う時代でも平素な感じで続いている。
いや、むしろ、こういう時代だからこそ、そういう無難でリスクの少ない娯楽は重宝されるのかもしれんな。
そんな事を考えていると上から悲鳴のような声。
思考を中断し、上を見ると。
枝の先の方に居た猫が、今この瞬間、バランスを崩して落ちかかっていた。
必死に手で枝を掴もうにも、猫の手って奴は基本的に無能で、枝すら掴めるものではない、猫の手も平時で借りないわけである。
あ、落ちた。
そう思った瞬間には、自然とすぐ傍。
一歩二歩離れた落下ポイントとおもしき空間に、微妙に移動していた、俺の話だ。
胸の辺りに落ちてくる猫、別に重くもなんともない。
ああ、これなら確かに、地面に落ちても平気そうだ、羽毛のような軽さしかない。
だがしかし、次の獲物はそうもいかないだろうよ。
猫をすぐ傍に放るように投げる。
上から落ちてきた黒髪の少女を、ジャンピングするようにキャッチする。
どうやら、余りの同様に、相当の高さの木から落ちていたようだ、まったく世話の焼ける。
「す、すみません、動揺してしまって、つい足を滑らせて」
息の詰まるような、緊張した声で告げる少女。
確かに、年端の少女にコレは恥ずかしいのだろう、そんな程度の気持ちは理解できる。
俗名、”お姫様だっこ”から少女を解放し、その場に立たせる。
腕を多少変に痛めたかもしれん。
俺はパワータイプな、筋骨粒々の大男でもないので。
普通に十メートルほどの高さから、高速で落下する少女を、それも無理な体勢でキャッチするとこうなる、普通の話だ。
猫っぽい少女は、どうやら猫ほども軽くもなかったのも、この場合はでかい。
割と体全体、適度に引き締まった良質な筋肉を、見た目では全く分からないが付けていたらしい。
平均的な少女よりかは、多少中身詰まってそうな、そんな重量感があったのだ。
「本当にごめんなさい、そしてありがとうございます、もし受け止めてくれなければ、私は死んでいたかもしれません」
「いや、いいんだ、これくらいはな、これ以上は勘弁だがな」
そう言って、何でもない事のように首を振っていると、足元に這い寄る影。
猫が纏わり付いて来たのだ、変に懐かれたか?
いや違う、こいつは。
「おいこらぁ、てめぇー、どこで悪さしてるかと思ったら、こんな所で油売っていただけだったのかよ」
猫相手に人語、舌の根も乾かない内に、俺もなにやっているんだか。
こいつはさっき、ちょっと話題に出した、孤児院の教会で飼われている猫の内の一匹だ。
それも悪さばかりする事で知られる。
それが可愛いとか、変に言われているが、その被害を特に受ける俺としては溜まらない。
「もしかして、知り合いのネコさんでしたか? いや、それとは知らず。 もしかして飼い猫ですか?」
「いや違う、こいつは、町の方で野良で飼われている猫ですよ。
それもやんちゃな方で、用意した飯を盗んだり、滅茶苦茶にしたり、やりたい放題の悪い奴なんですよ」
「へえ、でも、懐かれてるんですね。
わたしの信条として、猫に懐かれる人は信用できる。 わたしも、懐いていいですか?」
冗談の類の、そういう台詞。
いや、そうでなかったら、なんだっていうだ。
「冗談は控えめに、君のような少女は、もう少し警戒心を持って過ごした方が良いだろう」
目をパチクリさせて。
「ははぁ、冗談ですよ、ちょっとしたジョーク、そのように捉えてくださると、ありがたいですわぁ」
良く分からない。
本当に良く分からない、そんな五人組との初邂逅がコレだった。
俺の調子も大分狂わされるほど、インパクトも影響力も強すぎるこいつら。
はぁ、これからどうなる事やら。
多少なりとも。
頭痛のタネか、または頭を使って悩まなければいけない事態に、少しばかり気を落とす俺なのだった。




