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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第98話 全ての準備は整った。

両者の対立を、正人達はドローン越しの映像で静かに見守っていた。


モニターに映し出されているのは、互いに鋭く睨み合いながらも、一線を越えずに言葉をぶつけ合う二つの勢力。空気越しですら張り詰めた緊張感が伝わってくるほどであり、ほんの少し均衡が崩れれば、そのまま衝突へ発展してもおかしくない危うさがあった。


そんな映像を眺めながら、正人はどこか楽しそうに口元を緩める。


「ふふっ、面白い感じになってるな。やっぱり、こういう展開になるよな。」


「正人。」


隣に立っていた祈が、不安そうな表情でモニターを見つめたまま声を掛けてくる。


「楽しそうにしてるけど、本当にこのまま放置して大丈夫なの?このままだと、どんどんヒートアップして本格的な争いになるんじゃ‥‥」


祈の視線は、映像の向こうで睨み合う両陣営へ向けられていた。


言葉だけなら、既にかなり危うい段階へ入っている。周囲にいる部下達の表情にも敵意と苛立ちが浮かび始めており、知らない人間が見れば、次の瞬間には乱闘になると考えても不思議ではない状況だった。


だが、そんな祈の心配に対し、正人はあっさりと首を横へ振る。


「それは、あり得ないよ。」


その声音には迷いがなかった。


「俺はちゃんと“両方”に依頼するとハッキリ言葉にしたし、人同士で手を取り合う必要があるとも伝えた。それでも争いを始めるっていうなら、その時はちゃんとそれなりの対応をするつもりだよ。」


「そうなんだ。でも、確かに言葉の言い合いは激しくなってるのに、誰も前に出ようとしてないね。」


祈の言葉通りだった。


映像の中では互いに強い言葉をぶつけ合っているにも関わらず、誰一人として決定的な行動へ移ろうとしていない。普通なら、とっくに誰かが感情的になって飛び出していてもおかしくない状況だ。


だが、正人はその理由を理解していた。


「あの言い合いは、所詮“演技”みたいなものだからな。」


「演技?」


「そう。あの二人の狙いは、自分から手を出すことじゃない。“相手側に先に手を出させること”だよ。」


正人はモニターへ視線を向けながら続ける。


「もし相手が先に動けば、“向こうが仕掛けてきた”っていう大義名分が生まれる。そうなれば、この依頼を片方だけで受ける理由にも出来るからな。」


「なるほど‥‥」


「だけど、その考えは両方とも同じなんだ。だから、お互いにその誘いには乗らない。結果として、ああいう見え透いた言葉の応酬になるってわけ。」


正人の説明を聞きながら、祈は納得したように小さく頷く。


その横では、ドローンの映像管理を担当していたリアがモニターを見つめながら静かに口を開いた。


「でも、マスター。本当にこの展開でいいんですか?」


リアの表情には、僅かな懸念が浮かんでいる。


「このまま両者の関係を悪い状態のまま放置しておいたら、後々もっと良くない方向へ進む可能性もあるんじゃないですか?」


「そうだな。」


正人は一度視線を細める。


「確かに、その可能性自体はあると思う。」


リアの言うことは決して間違っていなかった。


今は互いの利害が一致しているからこそ、どうにか均衡が保たれているに過ぎない。少しでも状況や立場が変われば、今は抑え込まれている対立が再び表面化し、そのまま衝突へ発展する可能性も十分に考えられるだろう。


だが、それでも正人はその可能性をそこまで深刻には捉えていなかった。


「でも、俺は最終的にそういう方向にはならないと思ってる。」


「どうしてそう思うんですか?」


リアは僅かに首を傾げながら、不思議そうな表情で問い返してくる。


だが、そんな疑問に対しても、正人は特別悩む様子を見せることなく、まるで当然のことを口にするかのように静かに答えた。


「だって、あの人達は悪人じゃないからだよ。」


その言葉に、祈達は小さく目を向ける。


「あの人達は、自分達と関係のない人達までちゃんと守って、食料だって分け与えてる。自分達が生きるだけでも大変な状況で、それでも他人を見捨てないっていうのは簡単なことじゃない。」


正人はモニターの向こう側を見つめながら続けた。


「そんな善良な人達が、自分達の利益のためだけに、この世界を救おうとしている人間の邪魔をするとは思えないんだよ。」


その言葉を聞いたリアは、少し考え込むように視線を落とした後、静かに頷いた。


「‥‥そうです。確かに、マスターの言う通りですね。」


リアもまた、映像へ視線を戻す。


「あの人達は、自分達だけじゃなく、ちゃんと他人のことも考えて行動している。だからこそ、私も争いを好む人達ではないと思います。」


「そういうこと。」


正人は小さく笑う。


「だから、決して本当の争いにはならない。ほら、見てごらんよ。」


正人の言葉に合わせるように、映像の中では互いのリーダーである佐々木と成瀬が向かい合い、ゆっくりと握手を交わしていた。


先ほどまで激しく言葉をぶつけ合い、一触即発とも言える空気を漂わせていたとは思えないほど、その光景には確かな“協力”の意思が感じられる。もちろん、不信感や警戒心そのものが消えたわけではないのだろう。だが、それでも今だけは同じ目的のために手を取り合う――そんな覚悟が、互いの表情から確かに伝わってきていた。


その様子を見た祈も、張り詰めていた緊張が少し解けたのか、どこか安心したように小さく笑みを浮かべた。


「うん。正人が言ってたこと、ちゃんと分かったよ。」


そして、少し真面目な表情へ戻る。


「でも‥‥本当に大事なのは、これからなんだよね?」


祈の言葉を聞いた正人も、先ほどまで浮かべていた余裕のある笑みを僅かに消し、静かに表情を引き締める。


まさに祈の言う通りだった。


今回の話し合いでようやく“協力する為の土台”が出来上がったに過ぎない。互いに手を取り合う意思を示したとはいえ、それだけで全てが解決したわけではなく、本当の問題と向き合うのはここから先なのである。


「これらは全部、まだ準備に過ぎない。」


正人は静かに言葉を続ける。


「俺達の本当の目標は、その先にある。だからこそ、全員で協力して――必ず成し遂げよう。」


正人の言葉を聞いた祈達も、それぞれ静かに頷きを返した。


誰一人として軽い気持ちで聞いている者はいない。この先に待っているものが簡単な問題ではないことを、全員がしっかりと理解しているからだ。


こうして、必要な準備は一通り整った。


後は三日後に予定されている再度の話し合いへ向け、こちら側もしっかりと態勢を整えながら、万全の状態でその時を迎えるだけである。

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