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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第64話 崩壊は目の前まで。

クラス内で流行っている例の動画は、クラスだけでなく学校全体へと広まり、廊下を歩けば誰か一人はスマホを手にしてその映像を見ているような状態になっていた。


私にはあの動画のどこがそんなに面白いのか、その良さはまったく理解できない。ただ、画面越しに伝わってくる生々しさが、どうしても作り物には思えず、言葉に出来ない不気味さだけが胸の奥に残り続けていた。


「みんな、見てるね。祈は、あの動画どう思った?」


そう聞いてきたのは結だった。結は昔からああいった類の映像が苦手で、ホラー映画やスプラッター系の作品は絶対に見ない。だからこそ、あの動画が広まっている今の状況は、結にとってかなり居心地の悪いもののはずだった。


「‥‥そうね。すごくリアルよね。作り物なんだろうけど‥‥どうしてもそうは見えない。本当に、どこかで実際に起こっていることをそのまま映しているように感じるわ。」


「‥‥やっぱり祈もそう思う?私も同じでさ、ああいうのって普通は“ここで驚かせる”とか、“ここで怖がらせる”っていうのがあるじゃん。でもあの動画って、そういうのが一切ないんだよね。」


結は少しだけ声を落としながら続ける。


「カメラも全然揺れないし、撮ってる人も逃げようとしないし、誰も止めようとしない。ただずっと同じ距離で撮り続けてるだけで‥‥それって、逆におかしくない?」


結の言葉に、私の中にあった違和感がはっきりと形を持った。


そう、あの映像には“見せる為の意図”が存在しない。視聴者を楽しませるでも、怖がらせるでもなく、ただ起きている現象をそのまま切り取っているだけの映像――それは映像作品として成立していないはずなのに、逆に現実の一部をそのまま覗き見ているような感覚を覚えさせる。


そして、そこに映っているものは、まるでこちらに向けて何かを訴えているようにも見えた。


『――早く逃げろ!!』


そんな言葉が直接聞こえるわけでもないのに、なぜかそう言われているような錯覚だけが残る。


それでも、その違和感を本気で受け止める人はいない。あの動画に夢中になっている人たちは、それをあくまで“作り物”として楽しんでいて、現実で起きている可能性など一切考えていない様子だった。


「うん。結と全く同じことを私も思ってた。でも、それを言ったところで信じる人はいないと思う。だから、私たちだけでもあの動画をただの娯楽として見るのはやめた方がいいと思う。正直‥‥怖いから。」


そう言いながらも、自分の言葉がどこか曖昧なものに感じられてしまうのは、その“怖さ”の正体を言い切れないからだった。


「そうだよね。うん、私もそうする。じゃあさ、今日の放課後は気分転換に甘い物でも食べに行かない?」


話題を切り替えるように結が言う。その明るさに引っ張られるように、私も自然と頷いていた。


「いいね。たしか、駅前に新しくクレープ屋さんが出来ていたよね?」


「あーそれ!!私も気になってた。」


「じゃあ、みんなで行こうか。」


そうして私たちは、あの動画のことを一度頭の外へ追いやるようにして、放課後の予定を決めた。


ただ、その時すでに世界のどこかでは、あの映像と同じ“何か”が現実として広がり始めていたことを、私たちはまだ知らなかった。



放課後になり、私たち六人は駅前に出来たクレープ屋へと足を運んでいた。


「うわ~~どれも美味しそう!!私、チョコにしようかな。」

「いいですね。せっかくですし、みんな違う味にして少しずつ分け合いましょうか。」


「尚弘はどうする?お前はやっぱりツナか?」

「なんでだよ。さすがに果物系にするわ。」


紗衣ちゃんと春乃ちゃんが楽しそうにメニューを見ている横で、亮太と尚弘くんが軽口を叩き合っている。その何気ないやり取りを眺めているうちに、さっきまで胸の奥に引っかかっていた違和感は、少しずつ薄れていった。


目の前にあるのは、いつもと変わらない日常の延長でしかなく、笑い声も、会話のテンポも、何一つとしておかしなところはない。そう思おうとすればするほど、さっきの映像のことが逆に遠いもののように感じられていく。


そして隣には、いつものように結がいて、こちらを覗き込むようにしながら声をかけてきた。


「祈はどうする?何にする?」


その問いかけに応えようとしながら、私は一瞬だけ周囲の音に意識を向けていた。通りを行き交う人の声や車の音、店先の呼び込みの声――どれも当たり前のもののはずなのに、どこか神経が過敏になっているような感覚が残っている。


それでも私は、その違和感を振り払うように視線をメニューへと戻した。


「ストロベリーに――」


そう言いかけた、その時だった。


突如として、周囲の空気を切り裂くように緊急アラートが鳴り響いた。


甲高く、無機質なその音は、それまでそこにあった笑い声や会話を一瞬で塗り潰し、何気ない日常の流れを強制的に断ち切る。


そしてその瞬間、さっきまで“当たり前”だと思っていた全てが、音を立てて崩れた。

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