FAW探検! ワクワク旅行記 ~遭難中?~
……二、三分歩いただろうか。荒い岩肌を踏みしめ、いくら進めども、周囲の隆起が忙しくなるばかりで町の姿形は一向に現れない。
「……ミシュ、もうちょっと……アナザーに乗ってても、問題、なかったんじゃないのか、これ」
「……でも、地図から考えると、この付近だって……市郎も言ってたじゃ……ないですか」
「もう、暑っつくて、堪んないっす……」「おっかしいだろ、これえ⁉ バグだバグ! 早く修正しろ運営よお⁉」
俺はキレていた。理不尽な、真に理不尽な仕様に。
「……予想は、してましたけど……」
「暑っっついんだよ! マジでえぇぇ!」
セウに殺されかけた時とは違う玉汗。熱気にあてられ温度の上がった体表を冷やすため、体内の水分が汗腺から止め処なく流れ出す。赤い配管工はこんな場所を平然と歩き回っているのか? 馬鹿じゃないのか。
「イチロウさん、もっと薄着になんないとここはきついっすよ。――ああ、あっちい~」
「最大限脱いでんだよ限界値だよこの長袖シャツが最後の砦なんだよ! 何だ、上裸で過ごせってか⁉」
「私は別に気にしないよ? ミシュちゃんは?」
「年頃の女の子と言えど、成人男性の体に発情する程青春してませんから、安心して脱いでください」
「俺が気にするんだっつうの! ……ああくそ!」
シャツの袖を巻いて半袖にしてもどうしようもない暑さ。
「ミシュとアマはともかく、セウはその格好で大丈夫なのか?」
「私達を仲間外れにするなんて酷いですよ」
「あんたら、ショーパンに半袖は元から暑さ対策してるような恰好じゃないか。それよりもターバン巻きっぱなしのセウの方が暑そうに見えるんだよ」
「俺はむしろ、大量に汗を吸ってくれるんでこっちの方が良いんすよ」
「俺もそういう服にしとけば良かったなあ」
「やっぱり、暑いなら脱いだ方が良いと思うよ」
「私達なら本当に気にしませんから。どんなにお腹が出ててもネタにしたりはしませんよ」
「信用ならないし、俺は標準体型だ!」
ああだこうだ言いつつも、俺は結局上を脱ぎ捨てる。決して腹が出ていないことの証明がしたかった訳じゃない。
「「「おお~!」」」感嘆の声を漏らしながら、三人が俺を囲む。
「鑑賞するなよ! 一般成人男性の体をまじまじと見つめるな!」
「いや、思ったよりは筋肉がついてるな~って思って」
「あんだけあっさりと負けてるから、もっとヒョロヒョロな体つきかと……」
「服の上からじゃあんまり分からないもんですよね、ここまで細かい肉体造形は」
「……事実からじっくり批評されると羞恥心が勝つんだけど……」
体温よりも熱くなっていた頭がベクトルの違う熱に鎮火される。そろそろ動き出そうとしたが、周囲を取り囲む三人が止めようとしない。
「ちょっと、動かないで下さいよ。見辛いじゃないですか」
「見辛くて結構。俺はお前に見せるような体を持ってないしな」
否定したのはアマ。「いやいや、筋骨隆々のおじさんの筋肉はよく見れるけど、普通の肉体ってあんまり見ないから。セウもあんまり見せてくれないし」
「姉さん、あんな頼まれ方したら誰でも見せるの躊躇うでしょ」
「ええ~? そうかな」
「参考程度に聞きますけど、どんな頼み方したんですか?」
「別に変なことは言わなかったよ? 私は平等に『私も脱ぐからセウも脱いで』って言っただけだし」
「全然平等じゃねえ! それに応じたら男として終わるんだよ!」
「? そうなの?」
……こいつ、自分がどんだけ美少女か分かっていないのだろうか。いや、そもそも女子であることを記憶から消去されてるんじゃないのか? ――ともかく、アマが変な奴に引っかからないか心配でたまらなくなったし、セウの心労は大きいだろうと同情した。
「大胆ですね、アマ姉さん」
「大胆で済むなら露出魔は勇気ある人間になっちまうよ。……はあ、さっさと行こうぜ」
「行こうぜって、何処にですか?」
「本来の目的を忘れるなよ……。イテウに向かってたんだろ、俺達」
「ああ、そうでしたね。道中が盛り上がりすぎて忘れてしまいました」
「確かに二人は一回気絶したけど、お願いだから忘れないでくれ。――それで、イテウは何処だ?」
「知らないんすか?」
「俺が現地人よりも詳しかったら怖いだろ。地図でおおまかな位置は知ってるが」
「そう言われても、私、この辺り来た事ないからよく分かんないよ」
「同じく。というか、リザードマン以外でここに暮らす人なんて居ないっす」
「リザードマン、てのは、あれか? もしかして、鱗がびっしりと生えていて、細長いしっぽがあるような?」
「あれ、知ってるんすね。全員が全員って訳じゃないですけど、おおまかその通りの外見っす」
「急に親近感湧いてきましたね。行ってみましょう」
「湧かないだろ。俺らは別にリザードマンと酒を酌み交わすような関係じゃないし」
「え、忘れてしまったんですか? あのかけがいのない、秋分に紅葉した妻恋草のような思い出を」
「そんな切ない思い出を背負った記憶はねえ。それは俺のじゃなく、もっとロマンスしてる誰かさんの荷物だよ」
「ああ、ごめんなさい市郎。少し勘違いしてました。真冬に降り注いだ白雪から開いた新芽のような思い出でしたね」
「磨杵作針? なんか含蓄のありそうな思い出で気になる所だが、生憎俺は持ってない」
「……」
「なんだよ」
「……暑いのでこの会話一端止めにしません?」
「お前から始まったろこの会話!?」
仲良いね、と他人事かのようにアマが呟き、――いや、他人事ではあるのだが、まあともかく。ようやっと俺達は歩を進める。
やはり歩き心地は草原と比べてしまえば硬く、足に悪そうだなという感想が浮かぶ。一応整備されているらしい道を歩いている為山登りをするような苦労はないが、アルミでもあれば料理が出来そうな暑さが身を蝕む。地面の硬さだけが幻影ではないような、精神も蝕む風土だった。
「……結局、どこにあるのよぉ!」
両手を振り上げながら空へと叫ぶアマ。俺の頭の中に答えが返ってくる、訳もなく。返事する余裕のない三人の漏れる息がただ聞こえるだけ。汗を吸ってくれるから等とほざいていたセウも袖を捲り、ターバンを腰に巻き直していた。
体力の関係か、元々二、二の二列で移動していたのが、進行方向を前にしてアマ、セウ、ミシュ、俺の順に並んだ一列になっている。
全員汗で服がびしょ濡れ。俺は上半身を露出しているため服が張り付くことはないが、日焼けで肌が痛い。今更だが、強い日差しの元で肌を露出するのは明らかに悪手だった。
「……くそ」
俺はしまっていた長袖のシャツを頭から被って、腕を袖に通す。直ぐに水分で湿ったそれを肘から少し上まで捲り上げる。
「……どうしたん、ですか。遂に頭がおかしくなりましたか」
「……ちげーよ。日差しが強くて、日焼けでヒリヒリするんだ」
「日焼け……確かに、あんまり気にかけてなかったっすね」
「暑いよお……」
アマは朦朧とした足取りで進んでいる。まずいな。そろそろ、熱中症になってもおかしくない。……でも、それは俺らも同様だ。
「……ミシュ、超小型水筒みたいなの持ってないか。ほら、投げたら大きくなったり」
「そんな、CCみたいな製品は持ってませんよ。……それより、アナザーを呼びましょうよ」
「……ああ、その手があったか」
そも、死にかけているのはアナザーから降りて歩いたから。近くにあると決めつけ行動した浅慮さが原因である。なら、またアナザーに乗れば良い。
「聞いてたか、……ソフィア」
「……分かってるわ。というか、最初からアナザーがついておけば良かったわね」
「……良いんです、ソフィア姉さん。私が頼み事を、していたのも、ありますし」
「頼み事? ……何を頼ん、だんだ?」
「二人ともぉ、さっきから、誰と話してんのぉ? あ、例の神様かなああああああぁ!?」
「へ?」
素頓狂な声に前を向くとアマの姿がない。――ない!?
「姉さん!?」
「大丈夫か!?」
俺達は重い足を意識から廃して駆け寄る。すると。
「うわっ!」
セウが突然急停止する。
「どうしたんだ!」
「いや、それが……」
彼が話し切る前に、俺とミシュはそれが見えるラインに並んだ。
岩肌の地面は変わらず続いているが、歩いていた道の先は急勾配の坂として沈み込んでいた。岩のアーチの更に奥、避暑地となった広大な空間に岩石を削って建てられた人工的な建物が多く並んでいる。所々開いた穴から入る日差しが街を照らし、街の並々をガタイのいい、鱗がびっしり生えた人間が歩きまわっている。
間違いなく、勘違いするまでもなく。ここがセウの言うリザードマンの住む街、かつ俺らの目指していた街、イテウだ。
「……近くっちゃ、近くではあったのか」




