看病と
「はいマリー、あーん」
「いやクリス、だから自分で食べられ……むぐっ」
再三の抗議も虚しく、柔らかく茹でた野菜を口に突っ込まれる。
ほのかな甘みと控えめな塩味、そして確かに感じる旨みが素材の良さを物語っている……が、しかし。
「駄目ですよ、少しでも体力を温存しないと。実際、まだ腕に力が入らないのでしょう?」
「まあ……それはそうだけど……」
ルーシーちゃんが出してくれた薬のおかげで、明らかな傷や痛み自体はとりあえず落ち着きを見せた。
けれど体が衰弱しているらしく、どうも目は霞むし腕が思うように使えない……それは薬の副作用のようなものでもあると、ルーシーちゃんは申し訳なさそうに言っていたけれど。
そんな状態なもので、看病は正直助かってはいる。
ただそれでも、あえて言うのならば。
「ほら、あーん」
「あ、あー……」
「……ふふっ。可愛いですね、マリー」
「ふぉ、ふぉふ……?」
詰められたるは大量のブロッコリー。
咀嚼するのが難しいくらいに押し込まれたそれを苦心して噛み砕こうとする私を、クリスはじっと見てくる。
……獲物を狙う猛獣のような目で。
「おや、食べづらかったですか?」
「もぐ……んぐ……。そりゃ、あれだけいっぺんに……むぐぐっ!?」
「それは大変。次からは口移しで食べさせてあげますね」
「……ん、く。そ、それは勘弁して……?」
さすがに口移しはやめてくれた。
だがそれでも射殺すような視線は外れない。
いや、殺すというよりは……。
「……ねえ、マリー」
「な、なに……ひゃうっ!?」
いつもよりなんだか冷たく感じる手を、胸の辺りに当ててきた。
そのまま脇の下や背中をそっと撫でられる……そわそわとした感覚がどんどん動いていく。
「熱、まだ引いてないですね」
「うえ? あー、そうかも。そのための薬は用意してないって、ルーシーちゃんも言ってたし……」
魔法でその手の薬……苦痛の緩和を目的とする、解熱や鎮痛などの薬を作ってしまうと、力加減を間違えた時が大変らしい。
熱を下げすぎれば死に至るし、痛みを感じなくなってしまうのもまずい。
ちょうどいい塩梅に調整できればいいけれど、うっかりすれば死んでしまうような実験に人を使うわけにもいかないし……と彼女は言っていた。
以前の万能薬も今回の場合はあまり使えないようだ。
正確に言えば傷ついた内臓なんかを治癒するのには使えるが、根本を断てるわけではないとか。
まあ一応置いておくから、なんか痛む箇所があれば飲んでね、なんてスポーツドリンクみたいなノリで置いていった。
そんな適当に渡していいものなのだろうか……。
「本当に、何か思い当たることはないのですか? 昨日まであんなに元気だったのに、なぜ今朝になって急に……?」
「わからない……。ルーシーちゃんも、確定はするべきじゃないって言ってた」
「それも妙です。あと、移る心配はないというのも……それ自体は良かったですが、やはりおかしい気がしませんか?」
「まあ……うん……」
……クリスの懸念は、わかる。
だるさ、頭痛、そして吐血。
移る心配はなく、治すために必要なのは時間と体力。
まるで毒物だ。
……『まるで』かそうでないかによって、仮定は変わる。
「ああ、ご安心を。今あなたに食べさせたこれは、わたし以外の誰にも触らせてはいませんので。この家で、わたし以外に、誰も」
「…………」
……露骨に疑っている。
いや、気持ちはわからないでもないけれど……多分それは違う、と信じたい。
というか、わざわざこんなことをする意味もないだろう。
「……別にわたしも、本気で疑っているわけじゃありませんよ? ただ色々なことを検討した場合、何もかもわたし一人で……全てわたしの管理下に置く、それが一番安全だと思ったまでです」
「まあ……うん。ありがと」
……安心は、大事か。
こんな状況だ、変な心配はさせまいという心遣いかもしれない。
「幸い今日はあまり失敗しませんでしたし……っと。これは余計でしたね」
「……今日は……?」
「気にしてはいけません」
……やけに偏った食事というか、大皿にこんもりと盛られた茹で野菜だけなのが気になっていたけれど。
もしかしてこれって……。
「……まあ、いっか。ありがとねクリス」
「どういたしまして。……それより」
「ん? ……んえっ?」
投げ出していた両腕を掴まれる。
そしてそのまま、ぐいっと前へ引っ張られた。
抵抗の余地もなく距離が詰まる……息がかかるほどの距離から、まっすぐと目を見据えられる。
「早く治してください。そんなへろへろじゃ、襲っちゃいますよ」
「……当然でしょ」
襲われることにもはや文句はないけれど。
それでも、彼女に負担をかけるのはごめんだった。




