合同依頼1
遊覧飛行の依頼を終えた次の日。ギルドに依頼完了の報告にやって来た。
「こんにちはー、アイリーンさん。依頼完了の報告に来ました」
「リトさん」
クィクィっと受付のアイリーンさんが隣の受付に座ってこっちを見ているギルマスの方を示した。
朝のこの時間だけ依頼の報告や受注、発注の人が多い?ため受付が二つに増設されているのだ。それでたまたまこっちを選んだのさ。
「こんにちはアイリーンさん。依頼完了の報告に来ました」
「・・あなたって人は」
?
昨日メアリーさんにサインを貰った書類を提出した。
「・・マスターに回しますね」
「ギルマスさん、受付さんが職務放棄をしてます。減給ですか?」
「いいえ、アイリーンは良くやってくれています。据え置きです。リトさんはこっちに来るように」
うーん、なぜ選択肢が収束するのだろうか。
「コホン、・・・こんにちはピリアンさん、今日も絶好の日和ですね。早く処理してくれると助かります」
「んーんー」
今度はピリアンさんが何やら指し示した。
その指し示した先には、
「合同依頼?・・・・・・・あーあーあー思い出しました。確かに前向きに検討だか保留だか否定的保留やらにしてたやつですね」
「前向きに検討だったとここに記載していますが」
「あれ?そうだったっけ?で、来月頭だっけ」
「始まりは来月頭ですが、四日後にエジンバギルドで顔合わせと会議があります。うちからはトビーさんと他に三名参加予定、あと二名保留となっています」
「俺含めず最大六名かぁ。約三分の一もこの依頼を受けるんだ」
「はい。社運が掛かってますので下手打たないでくださいね」
「・・・えっと、・・・・そんなに業績悪いの」
「誰かさんがちっとも依頼を受けてくれないからです」
「それは大変ですね。ですがその者が捌ききれない量を乗せている可能性もあります。再考の余地ありと愚考しますが」
「結論は既に出ています。途中変更は場が混乱しますのでその方針を貫く所存です」
「なるほど立派な考えだ。確かに下の者としては上が度々方針を変えたら困りますなぁ」
四日後。
「みんな、良く集まってくれた。俺はエジンバのモーテルって者だ。討伐ランクは4、今回の定期討伐依頼の総指揮を執る」
「同じくエジンバのマルイルだ。モーテルが前線に出た場合には私が指揮を引き継ぐ、まぁ副官だと思ってくれ」
今回俺とトビーさん他が受けることになったのは定期の討伐依頼だ。
この周辺一帯を治める領主の領地はいくつかモンスターの領域と接している場所がある。
モンスターは増えすぎると厄介なため、年一回緩衝地帯を越えてモンスターの領域に侵入し間引くのだ。
領軍と合同だが領軍は建造されている砦周辺、俺達請負人がそれ以外の場所に布陣するため一緒に行動することはほとんどない。まぁ俺の様な依頼を受注したエジンバギルド、正式名【エジンバ討滅請負人ギルド】に発注され受注した者には元から関係無い事だ。
それにしてもエジンバギルドはこの依頼よく取れたな。
この依頼は広域の依頼で布陣場所毎に依頼が出され、いつも大手と中堅で埋まる依頼だ。傍目では大手と中堅での持ち回りにすら見える。
そんな依頼のため、中小ギルドであるエジンバギルドには少々大きすぎる依頼だ。
だから俺達も参加する合同依頼になるんだがな。
「なおこの依頼は、エジンバギルドの救援に駆けつけてくれた、モーズギルド、ガイメルギルド、マゼランギルド、パッソルトギルドの勇士と共に受ける合同任務である。よき隣人に恵まれた事を戦いの神セスに感謝する」
「各ギルドの代表者は作戦会議を行いたいこの後集まってくれ。では解散っ!」
今日は会議に参加する必要が無い人員にとっては顔合わせの場だ。ホストであるエジンバギルドが軽食などを用意してくれているので下っ端はいいなぁー。
俺はトビーさんと一緒に会議に出席だ。代表者二名もいらんだろうに。
「では行ってくる。お前達揉め事は起こすなよ」
トビーさんが俺以外のパッソルトギルドのメンバー五人に声を掛け会議の場へ向かった。うちのギルドからは計七名の参加だ。顔役連中がいなくなると場が締まらないからな、変なのに巻き込まれるなよチミー達。
会議室に入るとどのギルドも二名は参加していた。来なかったらトビーさん浮いてたな。
挨拶が始まった。
大体のメンバーは初顔じゃないので初顔だけちゃんと聞いた。
「パッソルトのトビーだ。七名で来ている。こいつ以外はパーティー単位での運用を考えてくれ」
「同じくパッソルトのリトです。偵察任務に就きます」
全員の挨拶も終わると、
「では会議に先立ち戦力を確認する。
戦闘要員がうちが七、六、五、五、四。モーズが六、五。ガイメルが五、四、四。マゼランが五、パッソルトが六の計十二パーティー六十二名。
支援要員がうちが二十五名、モーズが十名、ガイメルが五名の計四十名。
偵察要員がうちが二名、ガイメルが一名、マゼランが一名、パッソルトが一名の計五名。以上だ」
総数百名以上の大所帯か。この総数は俺が今まで受けた中でも最大規模だな。
そして全体の約四割がエジンバか。ギルドの規模的にここも社運を掛けてるな。
「依頼内容についても確認しておく。
今回の依頼は東部砦に布陣する領軍より南に我々は布陣する予定になっている。
対象地は布陣地東の森で、出てくるモンスターは例年通りなら【メイザー】、【バイルス】、【ウォーディー】が殆どで【ムルビア】や【モーメンツ】がたまに出てくるくらいだ。全行程三週間を予定している」
この辺りの森の定番モンスター達だな。
メイザーとバイルスは単体では討伐ランク1相当だが、群れを作るので実態はかなり面倒なモンスター達で、ウォーディーは群れは作らないが個体数が多いモンスターだ。
ムルビアとモーメンツは単体では討伐ランク2相当。ただ詳細ランク的にはムルビアが2の前半、モーメンツが2の後半だったはずだ。
相性と環境にもよるがギルドの評価では俺は、一騎打ちでムルビアに勝ててモーメンツに負ける程度の実力だ。
「では、作戦を……………
全体での作戦会議後、今度は担当毎の会議が開かれた。
俺は偵察要員なので他ギルドの偵察要員と責任者との会議だ。
偵察要員とはパーティーにいる斥候担当ではなく、偵察専門の特殊な技能持ちの人の事だ。
「マルイルだ。通常の報告は私の方に上げてくれ。それとうちの偵察二人は先遣隊として既に出発しておる。
うん、初顔はおらんな、あとはお主等の好きにしてくれ。以上だ」
会議も一瞬で終わった。
偵察要員は癖が強い技能持ちばかりなので初めから細かい指示は互いに危険だ。だから各々が好きなようにするのが一番効率が良い。
「リトさんリトさん」
「うん?何ですかシンバエアさん」
会議も終わり自由時間になると、マゼランの偵察要員のシンバエアさんが話し掛けてきた。
「今回もお願いできますか?」
「ええ。というよりこちらからお願いしたいくらいですよ。それで今回はどれ位用意したんですか?」
「四十体余りを。今回は範囲が広いですからね」
「あらぁ、旦那さんも大変だったでしょうなぁ」
「あの人の事は良いのよ、パペット作りが趣味なんだから」
シンバエアさんはギルド区分ではパペッターと呼ばれるジョブの人だ。
パペッターとはある特殊な加工をしたパペットと呼ばれる造形物を操作することが出来る者が就くジョブで、視界共有と呼ばれるパペットと視界をリンクできる技能を有していれば偵察に非常に向いている。
その中でシンバエアさんは小型で人型の複数体のパペットを何体も使い捨て運用するタイプで、パペットを作っている旦那さん泣かせな人でもある。
そして俺へのお願いは、パペッターはパペットとリンクしてから手元から離さないといけない関係上、森の表層からパペットがすたこら移動しないといけないので中々偵察範囲が広がらないのだ。
そのためその偵察範囲を増やす為、上空からパペットを散布してっていうお願いだ。
元々俺は森と相性が悪いため仕事が少なかったのだ。そのため基本報酬だけの可能性もあったが、シンバエアさんと組めばボーナスほぼ確定だ。
まぁ、自ら森を拓いて建造物を作るタイプのモンスターもいるのでそっちでも活躍する可能性は一応はある。
ちなみに、俺はギルド区分ではモンスターを使役するテイマーと呼ばれるジョブである。
今更ながらだがジョブとはギルドに登録された分類名の事で、剣を使えば剣士といったように、ギルド側が依頼やパーティーメンバーなどを斡旋する場合にランクと同様に指標とするものだ。
剣士に石のようなモンスターの討伐依頼を斡旋するなんて誰にも益がないだろ。
さて今回の依頼はどうなるかな。