遊覧飛行
帰って来た次の日から早速依頼が始まった。
ギルドに併設されている食事処で時間潰し中に出ていたコが帰って来た結果だ。
ちなみに食事処の方が圧倒的に面積が広いため食事処併設請負人ギルドではなく請負人ギルド併設食事処という見た目をしている。
「こんにちはー。パッソルトギルドから来ましたリトと申しますがー」
今日の依頼主であるメイヤーさんが工房長を務めるメイヤー絵画工房にやって来た。
工房の扉の前で待っていると三人連れ立って出て来た。
「リト様ですね。本日はよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「はい。本日は天気も良いので絶好の遊覧飛行日和です。皆さんに満足して頂けるよう頑張らせていただきます」
今日の依頼は遊覧飛行の依頼だ。
工房長のメイヤーさんとその弟子二名、この人達は特に風景画を描いている画家達だそうだ。
都市外は危険なモンスターの領域のため、兵士や請負人、商人以外はめったな事では都市から出ない。
そのため外の風景を描いた風景画はそこそこの需要がある。ただやはり秘境や未開の地と呼ばれる場所、珍しいアングルというものが人気があり、後者の方を俺とポクーは提供している。
ただしポクーに初乗りする人はけっこうな割合で酔うので、初回は遊覧飛行でコツを掴んでもらうことにしている。
「こちらは準備は出来ていますが、そちらは大丈夫でしょうか?」
「ええ、モルツさんにもしっかり注意点は聞いてますので」
「そうですか。では外へ参りましょう」
都市内で許可なく上がると捕まる。
これは飛行モンスターを連れている者が守るルールの一つだ。都市上空も飛んではいけない。
今回は初顔合わせだからここからだが、次回からは外近くで落ち合いたいものだ。
そう言うのもモルツ絵画工房はギルドからそこそこ近い場所だが、ここメイヤー絵画工房はあそこから獣車で移動したくなる程遠いからだ。
駅からの定期便に乗り門そばで下車するとそこは門前広場。時刻的に今は閑散としているが門が開く時間などには多くの者が行き交う場所だ。
門を抜け外へ出るとそこには農地、牧草地が広がっている。
ここは一応都市外という扱いになっている。
ここに住む者は土塀に囲まれているだけでモンスターが襲撃してきたら真っ先に被害を受ける者達だ。ここの農地は基本、罪を犯した者達の強制労働場で俺が連行した盗賊も中にはいるだろう場所だ。まぁここに居るのは更生の余地ありの囚人だけだから襲われる心配はあまりない。兵士も監視してるからな。
ただ見慣れていないメイヤーさん達は少々挙動不審だった。
そして門近くには発着場がある。
ポクーの様な飛行モンスターなどのためにあるただの広場だ。
「ではいよいよと参りましょうか。ポクー、六」
ポクーにサイズを言って大きくなって貰った。六というのは六人用という意味だ。今日乗るのは四人だが、四人用にすると一人あたりのスペースが狭いためだ。
「それと皆さんにはこのロープを着けてもらいます」
命綱だ。俺は慣れたものだが、彼女等は上空という環境、ポクーという環境に慣れていないためこれくらいの安全策は必要だ。
命綱を三人が互いに付け合い、俺もチェックをしてまず俺がポクーに乗り込んだ。
「皆さんは靴を脱いで乗るのをお薦めします」
履物でポクーに乗るのはかなり難しいためだ。
「まぁ。やわらかい」
「もこもこー」
「でも何か不思議な感じ」
ポクーに触れた三人の反応だがそれは正しい。ポクーはやわらかいけどあまり類をみない手触りをしてるんだ。
俺も彼女等が乗り込むと命綱の先をポクーに作らせた突起に括り付け、しっかり括られているか再チェックをした。さて。
いざ、空の旅へ
(「「きゃーーーー」」「・・・・・」)
とはもちろんならない。
まずは低空飛行でバランスの練習だ。ポクーに乗るのは易くない。
「手も付いてー。ただ絶対に手も足も頭も外に出さないでくださーい」
低空を飛行し広場を往復した。
うーん、感じ的には昼から遊覧飛行に移れそうだな。
何度か休憩を挟み乗る練習をしていると昼になった。
「昼休憩にしましょう」
「「「・・はい」」」
休憩も挟んだが慣れない事をしているので三人はかなり疲れている。
皆で一度都市内に戻った。
門前広場には到着組を待ち構えるように出店が出ているためだ。ここで昼の調達だ。
「辛いかもしれませんが、何か腹に入れといてくださいね。空腹だと酔いやすくなりますから」
そう言うと荷物入れから敷物をだし、敷いて腰を落ち着けた。
「俺はここに居ますから」
そう宣言すると荷物入れから今度は魔水入りの小瓶を取り出した。
魔水とは通常の水より多くの魔力を含んだ水の事だ。これはポクーのエサで、ポクーというかミニメソは水に含まれる魔力を糧に生きているモンスターなのだ。
ただただ漂っている野生個体は、雨水に含まれる程度の魔力でも十分だが人が乗れ、さらには任意方向へ移動出来る様になるにはこの魔水をたまに与える必要がある。
人が飲んでも大丈夫。どころか魔力回復効果があるので常備している者もそれなりにいる。
ポクーに魔水をやりつつ干し肉を齧っていると、幾つか買い込んだ物を持った三人が帰って来た。
「あのリトさん。干し肉好きなんですか?」
「ええ、好きですよ」
きっかけは狩ったモンスターをどうにか活用したかったという事だった。
皮や牙など一部素材は売れるとしても肉なんて大人数のパーティーが荷台を引いての肉専門の者以外は割にあわなかったのだ。だが討伐証明部位や一部素材を取った後に大量に残る部位を放棄するのは当時貧乏だった俺には忸怩たる思いだった。
だから肉を活用しようと始めたのが干し肉作りだった。
当時はあまり干し肉は好きではなかったが、今では干し肉作りを講じてか干し肉が好物となったと言う訳さ。
まぁ今でも干し肉に使えないような脂身なんかも何とかしたいと考えているが中々設備がねぇ。
「食べます?」
「い、いえ干し肉は・・・」
「はは、冗談ですよ」
干し肉はイメージが悪いんだよな。牧場あるしモンスターが年中狩れるから生肉はそこその価格で流通しているからだ。
だから干し肉は腐りかけの肉を塩漬けして干した物と最初から干し肉として売る用の手間暇かかった高級干し肉にどちらかだ。貧困層向けと富裕層向けということだ。圧倒的に前者に近い方の流通量が多いため全体としてイメージが悪いと言う訳さ。
請負人も一部の高給取りになるまで前者御用達の職業だ。
ただ、俺が作ったこの干し肉はそこそこのレベルだと自負している。
昼休憩を終え、再び発着場にやって来た。
午前中の練習を見た感じ、もう大丈夫だろうと言う事で遊覧飛行に移った。
皆が乗り込みポクーを操作し、都市を囲む外壁の高さまで上昇した。
「皆さん大丈夫ですか」
「「「はい」」」
他の人も頷いているので、
「では」
遊覧飛行が始まった。
いつもより随分低高度を飛んでいるが、外壁以上の高さは初心者には荷が重いみたいなのだ。
遊覧コースは予めメイヤーさんとギルドが話し合っているので俺はそれを地図を見ながらなぞるだけだ。都市直ぐ近くは森も無く近い村は外壁上からぎりぎり見える距離なので小さなモンスターくらいしか生息していない。
そしてしばらく飛行していると、慣れて来たのか後ろの方から感想や議論が交わされ始めた。俺は偵察任務をよく行うのでデッサンはそこそこ得意なのだが、聞こえてくるロケーション的な話は良く分からん。
偵察場所=描く場所だからの受動的な選択の俺と、画家としての能動的な選択の者達との違いだろう。
最後に夕日を背にする都市を眺め、今日の遊覧飛行が終わった。




