31『開始』
―――事の始まりは、暁先生の一言だった
「今日は対抗テストですね」
「…………いや、初耳なんですけど」
―――――第31話『開始』―――――
俺とユイが出会ってから、もとい俺が入学して数週間が経った。
アサギとノワールは本人たちの要望により俺の両隣の部屋で過ごすことになった
ユイは日を追うごとに微笑ましくなっていくような気がする。
朝には寝惚けたもふもふで俺を癒してくれるし
昼間は冷たいが、夜には一緒に寝ようとしたり、意味もなく傍に居たり。
ユイの力に関しても何となく分かってきた。
氷を作り出したり、周囲の気温を下げたり……そういった類である
たまに握っている小太刀に何の意味があるのかは分からないが。
ノワールはやたらと俺に話しかけて来るし
アサギに至ってはちょくちょく俺の傍に来ては、ユイと喧嘩ばかりしている
何というか……一気に賑やかになったような気もする
暁先生と先輩方は相変わらずマイペースだ。
少しだが、先輩二人の使い魔のことも分かった
どうやら藤野先輩は幽霊のような使い魔で
スミレ先輩は詳しいことは分からないが、姿を変えることが出来るらしい
「何をしているのですか。早く行きますよ」
「あぁ、分かってるよ」
そして今日もまた、相棒と共に部屋を出る。
~
爽やかな日差しが差し込む特殊科の教室には
俺を含めた新入生『三人』と先輩二人。そして暁先生がいた。
……当然のことながらユイは俺の隣に、胸ポケットにはちゃっかりアリスも居たりする。
暁先生はいつものごとく教卓の前に立ち、深々とお辞儀をして
「おはようございます、皆さん。今日は対抗テストですね」
「……初耳なんですけど」
「ふあーぁ……眠いぜ」
「……楽しみ」
「……テストって何よ、聞いてないわよそんなの!」
「てすと……?」
「あれ、言ってませんでしたっけ……?」
言い終わると同時に紺色の猫耳と尻尾を生やした暁先生は、それらを慌てて隠し
少し頬を赤らめながらもいたずらっぽく微笑む
……相変わらず誤魔化すのが下手だなこの人
『It is the enjoyment』
アリスが胸ポケットから俺の顔を見上げ、にへーっと緩い笑顔を見せてくれた
この娘はどういう仕組みになってるんだろうか……
暁先生から貰ったゴスロリ人形アリスは、未だに謎だらけである。
飲食を必要とせず、自力であちこち動き回り、夜にはすやすやと眠る
さらには金色の液体で意思表示をし、何故か人懐こい。
そんなアリスは身長20cmそこらの可愛らしい女の子だ。手に載せると大人しくなる
「とにかく、今日は対抗テスト一日目。学科対抗です。頑張りましょー」
「無理やりじゃないですか」
「じゃあ、ざっと説明しておきますね。
聞いた話によると今回のテストは順位得点制だそうです」
「んなこと言われても……」
「まぁ気にすんなよ杉原。センセーはそういう人だ」
「……大丈夫」
先輩方が心配いらないぞと言わんばかりに俺を見つめてくる。
ノワールは暁先生が用意したノートに何かを書き取り
「……どうしてこんなことに……パパのバカッ」
……アサギはぶつぶつと何かを呟いている。
そしてユイは何も言わず、どこからか取り出した小太刀をじっと見つめている
心なしか渦巻く冷気が妙に頼もしく思えた。
「順位得点制ということは、一位は100点、二位は95点、三位は90点……
というように順位ごとに貰える点数が決まっており、20位まで点数が貰えます」
「……テストって何かの競技でもやるんですか?」
「まぁ俺らはテイマー候補生だからな。筆記試験は無いだろうよ」
眠そうに肘を付きつつ藤野先輩が答えてくれた。
筆記試験がないならなおさら何をやるのか気になるところだ
「去年は校庭でサドンデスだったな……やられた順位で点数が決まるやつ」
……怪我人が続出しそうだな。テストがそんなんでいいのか?
「スミレの無双っぷりが頼もしかったっけな。懐かしいぜ」
「楽しかった……」
「そろそろ説明していいですか?」
雑談を始めると終わらないと判断したのか、暁先生が口を挟んだ。
暁先生は、『見抜く』ことが出来るらしいのだが
使いようによっては恐ろしい事になりそうだ。
考えはもちろん、筋肉の動きや気体の変化まで見抜くことが出来るということだ。
……考えれば考えるほど、敵に回すと恐ろしい存在だということが分かる
しかしそれは逆に、味方ならこの上なく頼もしいといえるだろう
そんな暁先生と、先輩が二人。
そして俺とユイはもちろん……アサギとノワールも居る。
何故だろう、特殊科は人数が少ないから不利なはずなのに……
―――負ける気がしない。