37 決戦と結末2 完結
ガルディア軍は軍容を整えると首都を出発した。
女王は首都にいる。
彼女が失われたら全てが終わりだからだ。
陽光騎士団五百、衛兵部隊一千、旗本騎士が五千、諸侯が五千、屯田兵が八千、それに義勇兵やかき集めた冒険者などを含むと大体二万の軍勢になった。
ざっと、兵を見ると、旗本騎士と諸侯はあまり訓練も装備も行き届いていない。動きも鈍い。
衛兵たちの士気が高いのは当然としても、陽光騎士団の兵は闘うために生まれてきたような連中だった、野獣のような雰囲気を持っている。
屯田兵たちはガルディアで農地を貰って国に貢献する意識が芽生えた奴らだ。様々な出自だが、訓練までうけているので農兵とは思えないほど士気が高い。たぶん、この一万程度の兵が主力になるだろう。
諸侯などは裏切る可能性すらある。
首都を出て一日の場所『黒キ野』でゲーマンとの決戦がある。『黒キ野』は色の悪い草が生えている平原で、以前ゲーマンに殺されそうになった平野だ。
決戦の場は敵との話し合いで決まったのだ。
なんだか変な出来レースみたいな戦いだが、ネットも無線も電話もない世界。戦うにもおかしな約束が必要だったりする。
「敵は人間ですよね。これですよ、これが本当の戦争です」
ケヴィンが無駄に意気揚々としている。
「ウンコもりもりしてた割には元気になってよかった」
「王子! それだけはご内密に」
「ああ、わかってるよ。戦場で焦る必要はないよ。僕を守ってくれたらいい」
「ええ、もちろんです。僕も剣技を磨いてますから」
カッコつけて剣を抜こうとするが、皮ひもに引っかかって抜けなかった。
「期待してるよ」
七剣は傍にはいない。
屯田兵の部隊指揮をやって貰っている。屯田兵全体はイーサンが将軍として指揮。彼は戦士としては大したことはないが、屯田兵の信頼が絶大なのだ。陽光騎士団は俺、衛兵部隊はローランドがやっている。
平原に並ぶと、敵も同じくらいの時刻に集まっていた。
話し合いでは翌日から戦いになる。
陣を整え、天幕に入ると軍議になる。
ローランド、ジョラー、エリン、七剣、その他大勢。
「油断めさるな。明日といいながら、今日来るかもしれませんぞ」
ローランドは歴戦なので、このような駆け引きにも長じている。
「僕はこのような大決戦は初めてなんだ。ご指導お願いします」
俺はローランドに頭を下げる。
「王子がワシのような武辺ものに頭下げられては困りますな。しかし、私も全力で助言いたしましょう」
「この平原はぬかるみが多いです。北回りのルートは馬が自由に移動できます」
イーサンが説明してくれる。
「騎兵の突撃は要注意ですな。ゲーマンとクレメンテは騎兵の扱いが上手です」
「それはこちらも同じですぞ。エリン殿、敵に何か隠し玉はないのですか」
ジョラーが問う。
「そうね、たぶん、奴らの人造人間の化け物がいるくらいかしら。見た目が怖いけど、汚くてドン臭いだけ、心配はいらないわ」
「肉ゴーレムですな。悪趣味な奴らだ。全軍にその旨は伝えておきましょう、恐れるなと」
ローランド、口ひげをひねる。
「わかりにくいけど中央南側は湿地帯になってるわ」
「そこに敵騎兵の突撃を誘えば、かなり有利に戦えますな」
ローランドの指摘。
細かな打ち合わせはあったが、根本的に平地なのだ。あまり作戦も出ない。たぶん、ほとんど単なる力任せの勝負になるだろう。
俺は破壊光線のことを思い出したが、口にはしなかった。
あれで勝てば、確かに楽だが……それをしたらどうなるのか。全世界から危険視されるだろう。核兵器を一国だけ持つ状況を考えたらいい。俺の命は極限まで狙われると思う。それだけは避けなければ。尚、『港』解放時での使用は話題にならなかった。ダナの魔法と思われたのだろう。それに、あの怪物を見て兵隊たちも、軽い発狂状態だったのだ。
己の自己保身のため、乱戦で失われる命を思うと罪悪感でいっぱいになった。俺は軍議を早々に切り上げることにする。どうせ、たいして話し合うこともない。
「平地過ぎて力押しで終わりそうだ。各人の健闘を祈るしかない」
「数は負けてますが、質はこちらが上。十分に勝算はあります」
ローランドが締めくくる。悲壮感はないが、緊張感はある。
軍議が終わり、俺は天幕に向かう。
エリンがやってくる。
まさか、そうか、彼女もこの決戦の前に、俺への熱い思いを……。
「ねーから」
モフオ。何をいうかこのブタ猫。
「なんでわかった。俺の心を読んだな」
「顔見たらわかるわ」
「王子、話があるの」
「何だい、エリンさん。俺たち結構長い付き合いだから、そろそろ……」
「あのね、忙しいのこっちは。一応、敵の策が分かったから報告よ」
俺はぎょっとして真顔になる。
かなりにやつき顔していたのだ。
「簡単な策よ。諸侯の裏切り。ゲーマン得意の寝技ね。こいつらが動かない、こいつらが積極的に寝返る」
エリンが簡単なメモを渡してくれた。
更にぎょっとする、旗本騎士も数人いたからだ。
「ぼ、僕は意外と人気無いんだね……」
かなりショックだった。
ざっと見て、諸侯の半分は動かないのだ。
「王権の拡大ってそれだけ警戒されてるのよ」
「それにしても、どうやって調べたんだこんなこと、敵の最高機密だろ」
「クレメンテの親友二人を覚えている?」
「ああ……」
へらへらした、安っぽい奴らだ。
確か名前はデヴィド・ガラバー、パトリック・バーシル。
「あの二人に女を近づけて、毒で汚染したの。今、奴らは私の解毒剤を定期的に貰わないといけない体になってるわ」
ぞっとするような話だった。
あいつらは悪党だけど多少同情する。
「ローセンとエルネッドを呼んでくれ」
侍従が走る。
「あたしはこれで」
ふっと消えるエリン。
二人がやってくる。
「二人を見込んでお願いがあるんだ」
「……」
二人は無言だった。
俺が珍しく真剣な顔だったからだろう。
俺は裏切り諸侯のリストを見せる。
それほど多くはないが、かなりの重鎮だった。
「彼らは……」
ローセンが怪訝な顔。
「戦いの中で寝返る奴らだ」
「どうやってこんなことわかったの」
エルネッドほどの戦士も少し驚いているようだ。
「国家機密だよ。それより、彼らが味方を討つそぶりを見せたら、領主を暗殺してほしい」
「おっと、生臭い話だったな。王子がそんな策を取るとはね」
「彼らが死ねば、更なる悲劇を防げる。罵られようと、僕はそれを選ぶよ」
「あんたも大人になってしまったか。いいよ。王子」
エルネッドは軽く応じてくれる。
一瞬、彼らを口止めしようとしたが、彼らがそんな凶事を公言するわけがない。
「すまない、王国のためなんだ」
俺は頭を下げる。
「やめてくれ。頭下げるくらいなら最初から頼むなよ」
珍しくローセンの苛立ちが伝わる。
「必要なものがあったら用意する」
「気にするな王子。戦場で裏切る奴なんて手加減する必要ないよ」
エルネッドは心に迷いがない。
ふと、人間らしい反応をするローセンに好感がわいた。
翌朝、太陽がはっきり上る前に全軍、平原に並ぶ。
敵の動きも同じだった。
「王国の興亡ここにあり! よいか! 敵は賊軍! 正義は我らにある!」
ローランドが叫ぶ。
このような仕事は彼には向いている。
兵が「ガルディア万歳! 女王陛下万歳!」と叫ぶと、軍楽隊が音楽を鳴らし、進軍開始される。
最初は弓と魔法の打ち合い。
過去に見たダナの魔法のような派手なものはない。
細い火箭や光などで、個人兵器以上のものはなかった。
それでも、両軍、バタバタと人が倒れていく。
見るも無残な光景だった。
敵の騎兵が突撃してくる。
これは打ち合わせ通り、本陣をやや南方に下げたので、敵の重騎兵は脚を取られ動きが鈍る。そこに、必殺のクロスボウが殺到し、敵は重騎兵を大きく失う。
「敵はひるんでいる。こちらも突撃せよ!」
ローランドが叫ぶ。
こちらの重騎兵、主に旗本騎士の一団が向かう。
しかし、半分弱は動かない。
「なにをしている、さっさといけ!」
誰かが吼えるが、動かない奴らはくるっと振り向くと、戦場を後にする。
逃げたのだ。
この離脱は我軍の士気を下げた。
しかし、今は奴らに罰を与える暇はなかった。旗本騎士だけでは数が少ないので、騎乗した衛兵部隊を突撃させる。
この突撃は敵にかなりの動揺を促し、敵は浮足立った。
「今だ! 王子全軍突撃のチャンスです!」
ローランドが叫ぶ。
「わかった、頼む、皆突撃せよ!」
全軍が動き出す。しかし、諸侯のうち、半分ぐらいは傍観だった。
こちらはだいたい一万五千。対して、敵は二万はいるようだった。敵の農民兵は予想通り数合わせでしかなく逃げるか傍観するだけだった。
敵も味方も真面目に働くやつと傍観するやつらでくっきり動きが分かれる。
意外と元農民反乱軍が最も激しく襲い掛かってきた。
俺の屯田兵と、敵の元農民反乱軍。
一番真面目に戦って、一番死傷者が多いのは真面目な農民だった。
「ミレーヌはどこだ! ミレーヌをだせ!」
敵の将アルベールはミレーヌとやり合いたいがためにこれだけ激しく襲い掛かているらしい。個人的な理由で戦うとは面倒な奴だった。
ミレーヌは呼応すると、激しい一騎打ちを始める。
敵は以前のアルベールではなかった。
聖剣を持ったミレーヌと激しく打ち合っているのだ。しかも、アルベールと呼応するかのように両手に長ナイフを持った男がミレーヌの背後を衝く。
陽光騎士団のヤニスだった。
彼は戦技に熱中するあまり騎士団を逐電し、自分の腕前を試すチャンスをうかがっていたのだ。それも、よりによって最悪のタイミングで最悪の勢力に加担して……。
しかし、ミレーヌは強かった。二人の手練れを相手にして全く引けを取らず、逆襲に転じて二人を負傷させている。乱闘の中でそれ以上は目で追えなくなったが、俺は多少ほっとした。
七剣のうち、ヒルマン、ケイ、ルキノが戦場を往来し、敵を次々と屠り続ける。敵はじわじわと圧されている。
見ると、遠くに俺の本物君もいるようだった。派手な王子っぽい衣装に身を包み、キョロキョロしている。
「このままいけば勝てるか」
そう思ったとき、背後で動きがあった。
こっそり背後から俺たちを襲うつもりだった裏切り者連中。
その諸侯の主だったものが血を噴き上げて、死亡したのだ。
背後で混乱が起きている。
策を見破られ、主を殺されて、裏切り者たちの士気は完全に崩壊していた。
結果、襲い掛かかってくることはなかったが、彼らの兵も戦場から離脱し始めた。
全軍に動揺が走った。
襲われるよりはいいのだが、士気が低下したのは否めない。
「王子を守れ、裏切り者は誅殺された!」
ローセンの魔法で増幅された声だ。
浮足立った兵も踏みとどまってくれた。
そこからは一進一退だった。
ミレーヌはアルベールを討った、が、敵の士気は下がりそうなところで、今度は肉ゴーレムを投入してこちらを恐怖に落とす。
七剣がゴーレムを倒すと、再びこちらが圧し始める。
尚、敵の元農民反乱軍は個別に士気が低下したらしく、積極性はなくなった。
朝から戦い、昼になっても勝負はつかなかった。
どちらもへとへとになって、一時休戦。
戦は翌日になる。
翌朝、俺の心に絶望が走った。
首都から義勇兵三千の援軍が来たが、敵にはリディア軍七千がはせ参じたのだ。
「リディアめ、何考えてるんだ」
「結局、あの人は古い諸侯の一員でしかないのですよ」
イーサンがつぶやく。
「王子、リディア軍は徹夜の強行軍で疲れ切っています。彼らを衝きましょう。我らは一晩休んでいます」
ローランドの鬼気迫る形相。
痩せて眼光が異様に鋭い。
「わかった、そうしよう。戦いが始まったらリディアを潰す」
大体、一万対二万の戦いになった。
昨日の疲れも見せず、七剣は悪鬼のような戦いを見せつけ敵を翻弄する。
リディアは乱戦に姿を見せない。
来ていないのかもしれない。
実際、敵の動きは鈍かった。
リディア軍の中には勝手に離脱する者もいる始末だった。やはり、先年一緒に戦った仲なのだ。俺の軍と戦うのに抵抗のあるやつもいたのだろう。
しかし、数の差は埋められない雰囲気だった。
平原での数による力押しなのだ。翌日までよく持ったともいえる。
戦場には死骸が山のように積まれ、じわじわと俺の軍は平原の端に押し込まれ始めた。
敵もボロボロだったが、こちらも限界だった。
俺も剣を片手に振り回す羽目になる。陽光騎士団は巨大な壁のように敵を押し返すが、数があまりに違う。
火炎や光の種をばらまいて一時しのぎを繰り返す。俺は最前線に立って兵を守り、休ませることにした。
ミレーヌとクレメンテが一騎打ちをしている。
「ミレーヌじゃないか。俺のことを思い出してくれたか。さんざん楽しんだよな」
にやにやと厭らしい笑いを浮かべるクレメンテ。
ミレーヌは無言で撃ちかかる。敵の魔法剣と聖剣が打ち合う。
クレメンテの剣は刃こぼれする。
「おい、とんでもない剣だな。俺の剣は最先端の技術で作られているのだ」
クレメンテの顔から笑顔が消える。
二人の戦いは互角だった。本来ならミレーヌが勝つだろう。しかし、ミレーヌには奴に凌辱された記憶とこれまでの疲労がある。
剣が鈍っている。
「今からでも遅くない、俺の女になれ」
浅ましい言葉を吐き続けるクレメンテ。
敵を怒らせるのが奴の流儀なのだ。
ミレーヌをよく見ると出血している。背中なのでクレメンテにやられた怪我ではない。たぶん、ヤニスが不意打ちを喰らわせた傷だ。あの男は強いくせに心の底から卑怯者なのだ、あの腕前で人を背後から襲うとんでもない奴だった。
とにかく、あの怪我ではいずれ負けるのは必定だ。
俺はミレーヌを助けるために無謀な賭けに出た。
「おい、スケベ野郎のクズ騎士殿」
俺は決闘の邪魔をすべくずかずかと前に出る。
「王子! 下がっていてください」
ミレーヌは叫ぶ。
「これは俺からお前へのプレゼントだ!」
白く輝く種を取り出す。これが発光するのはもう誰もが知っている。
しかし、俺はあえてこれをやった。
爆発する光。
一瞬、戦場に沈黙が訪れる。
俺は手探りでミレーヌに近寄ると、背中に闇と炎、生命の力を注ぎ込む。
「何のつもりだ王子、小手先の技など!」
「王子!」
背中に魔力を突っ込んだ。ミレーヌは治った。
しかし、
俺の左目が永久に無くなる。
敵の剣を貰ったのだ。
俺は転がって決闘から離脱する。
慌てて、陽光騎士団の兵が二人ほど救出に来てくれた。
「クソ、よくも!」
俺は叫ぶ。
「王子、その怪我は治りませんぞ。最新魔術の毒素があるのです。せいぜい苦しむのですな」
蛇のような奴だ、クレメンテ。
「でも、お前も終わりだクレメンテ」
俺はそう声をかけたが、奴には聞こえなかっただろう。
怪我が治って、迅速を取り戻したミレーヌは、次の呼吸でクレメンテの首を刎ねていたのだ。
完治し、怒りに満ちたミレーヌの速度に人間では太刀打ちできないかもしれない。
驚愕の表情のまま、首から上が地面に落ちる。
「ミレーヌ様がクレメンテを討ち取ったぞ!」
誰かが叫ぶ。
敵に動揺が走るが、敵は逃げたりしない。
もうこちらの劣勢は明らかなのだ。
俺は苦痛に悶えながら、左目に魔力を集める。しかし、痛みが徐々に引いても、目が治ることはなかった。
(このまま負けるのか……)
右目には奮戦する陽光騎士たちの雄姿がみえるが、彼らは包囲されている。
三対一、四対一……如何に強い陽光騎士団でも、じわじわと討ち取られていく。
俺は陽光騎士団の死に耐えられない。
あの忠義の者たちが俺のために死ぬのだ。
俺にそれに見合う価値があるのか?
偽物の王子。
それが俺の正体だ。
俺は俺の破滅をかけて怪光線を使う準備を始めた。
「発射準備します」
機械のような女の声が聞こえる。
しかし、突然、敵は下がり始めた。
「アモンだ! アモンが来た!」
恐怖に満ちた敵の叫び。
光り輝く大剣、漆黒の騎士。
巨馬にまたがった大英雄。
俺は安どの余り腰が抜けた。
アモンが駆け抜けると、敵は刈り取られる草のように、地に倒れ伏す。
アモンの後ろには騎兵が並んでおり、彼らも突撃を開始する。
突然の援軍にゲーマン軍は完全に崩壊し潰走を始める。アモンは五千の兵を率いていた。敵にはもうこの精兵を受け止める力はなかった。
このチャンスを逃すわけにはいかない。俺の軍も追撃を開始する。
敵は思ったより逃げ足が速い。
俺の兵たちはへとへとだった。
陽光騎士団ですら疲れを見せている。
「アモン、北平原城はどうなった」
俺は馬に乗り何とか追いついて声をかける。
「ロムが死守している。それに王子の入植地から続々と兵が集まっている。女も子供も老人も武器を取って王国を守れと立ち上がったのだ」
それを聞いただけで俺の右目から涙がこぼれた。左からは永久に出ないが。俺のやったことに意味があった。
「将軍はロムだけで大丈夫なのか?」
涙を拭きながら聞く。
「奴が死守するといった」
アモンはロムを一切疑っていない。不安を感じた俺の方が恥ずかしくなった。
「そうか……」
ゲーマン軍への追撃は昼過ぎにあっけなく終わる。
敵は全軍降伏したのだ。
ゲーマン軍の目の前に、オークの大軍がいる。
三万はいるだろうか。
オークにぶつかって全滅するより、人間の俺たちに降伏する方を選んだのだ。
「オークか、しかもあんな数……こんな時に」
ケヴィンのつぶやき。
俺は無言を貫く。
我軍はゲーマンの要人を捕らえたが、臨戦態勢を取り、ゲーマン軍残党を中間に置いて睨みあう。
「オークはダナが大オーク王なのだろう、話し合えないか」
ジョラーは文官なのにぎりぎりまで付き合ってくれる。
「こちらから使者を出しますか」
イーサン、たぶん、自分が行くというだろう。
「いや、まて、敵の動きをみろ」
数人の女たちがやってくる、いつぞやのオークの使者だ。
「王子様、可哀想にお怪我なさって」
人間のくせにオークの使者をやってる女。
「心配ご無用だよ。片目が無くなっただけだ。それより用件をうかがおうか」
「ゲーマン公は我領土の鉱山を勝手に接収しました。つきまして、裁判にかけたいと存じますので引き渡し願います」
鉱山?
オークはゲーマンとそんなことで揉めてたのか。
「王子、以前、ドワーフ殿に地下資源調査をさせたでしょう。ゲーマンとオークの国境付近に鉱脈を見つけたのですが、彼らにそれがばれたのですな」
ジョラー……ばれたって?
嘘だ、わざと教えたんだ、このくわせもの爺。
「我らの調査を……なぜ、オークとゲーマンがその調査結果を知るんだ?」
思わず声に出してしまった。
「おっと、それ以上はいわぬが花ですぞ王子」
ニヤリとするジョラー。
「この状況ではオークとの友誼を保つ方が優先です。ゲーマンは渡します、公正な裁判をお願いしますよ。大オーク王にはよしなに」
俺はそう宣う。
「ええ、ダナ様もお喜びになりますわ」
オーク軍はゲーマンを受け取ると静かに去っていった。
俺はゲーマンには会わなかった。
遠くから奴が引き立てられるのを目撃しただけだ。
そして、
「投降した者のうち、爵位を持つものは係累含めて全員斬首せよ。他はレイド軍との戦いに参加するなら合流を認める、戦う気がないものはこのまま去れ」
俺はそう告げた。後顧の憂いは断たないといけない。綺麗ごとだけでは済まないのだ。
一般兵のほとんどは合流することになった。
ゲーマンの主だった家臣はここでほぼ全滅する。今後、仮にゲーマンが無罪放免で釈放されても、単なる初老の裸一貫の男でしかない。
リディアの家臣も大勢死亡し、リディアの南方での権威も失墜した。
尚、例の偽王子はここでとらえた後、信頼できる人物に軟禁してもらい、人生の幕を閉じてもらった。彼は幸福な環境で相当長生きすることになる。
俺は兵をまとめ、急いで北平原城に向かう。
残った兵で動けるものは五千程度、アモンの援軍五千はほぼ無傷。
現金なことに、戦勝を知ると各地の諸侯たちが合流を開始し、北平原に着くころには二万近くに膨れ上がった。
レイド軍との死闘は激しいものだったらしく、北平原城は魔法や攻城兵器の痕跡をとどめている。
城壁の周りには無数の死骸が転がっていた。城壁の上には動きが見えないが、たぶん隠れているのだろう。
地獄のような光景だ。
しかし、旗はガルディア国旗が翻っている。
まだ落ちてはいないのだ。
俺はアモンと諸侯に突撃を命じ、レイド軍を蹴散らす。
レイド軍はゲーマンの敗北、落ちない北平原城、頻発する脱走、窮乏する食料などの様々な理由で、烏合の衆と化していた。
その時点で、彼らの士気は既に崩壊していたのだ。
ボロボロの城兵たちも出撃し、レイド軍を挟み撃ちにする。敵は恐慌を起こし崩壊し、潰走する、残党は死人の待つレイドに逃亡するしかなかった。
ガルディアは勝った。
二つの意味で勝った。
レイド王国という外国の侵攻軍を退けた勝利。
そして、内部の大貴族勢力を退けた王権の勝利。
この二つの勝利はガルディアを一つの国に変えた。
土壇場で王権を裏切ったリディアは爵位をはく奪されて庶民になる。ゲーマンも然り。大貴族は没落していく。
俺は片目の王として、この国を統治する。
片目の王子の物語はここでいったん終わりになる。
俺は異世界から来た偽物の王子。
しかし、この国の本物の王としてこの国を統治する。
俺が元の世界に戻ることはなかった。
『転生王子』完
あとがき
これで、「転生王子」は終わりです。
最後まで読んでいただいた皆様には本当に感謝申し上げます。
続編は……申し訳ありませんが、考えておりません。
転生王子クリス君のヒーローの時間はここまでで終わり、今後、彼は単なる政治家になって行きます。庶民の生活を知り、自ら武器を取って戦ったことのある人物だから、それなりにマシな国王になるとは思いますが……彼の未来を期待しましょう。
次回作はかなり進行しています。
クリス王子がレイド王国に勝利してから10年後くらいの設定です。
概ね書き上げた時点で、ちまちま投稿して行こうかなと考えています。
次回作はもっと底辺の存在です。
チートといわれたら、多少はそんな感じでしょうか。ハーレムはないですw
2021/9/18
文章リニューアル完了しました。
まだまだ未熟な文章だと存じますが、大規模修正はこれで終了といたします。
時折修正はするかもしれませんが、微修正にとどまるでしょう。
ここまで読んでいただいた読者の皆様に感謝申し上げます。
尚、次回作の経過報告などはあとがきから削除いたしました。
2023/4/29 微修正




