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第89話 実感と苦手

早いことにもう第6章です


評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(*'ω'*)

大輝は災悪討伐後、いつも通りに大聖堂へとやって来ていた。それは、ミリアへの報告もあるが、もう大輝自身でもこの場所は第二の自室的場所となっておりどうしようもなく居心地がいいのだ。


するとそこへいつも通りにミリアがやって来て、大輝に労いの言葉をかける。


「大輝様、今回の災悪討伐お疲れ様です。なにやら顔が優れない様子ですが、何かあったのですか?」


「やっぱり、気づくんだな」


「これは聖女としての当然の能力ですよ。人々の支えになるのが聖女としての役割の一つですから。それは大輝様とて変わることはありません。ですから、聞かせてください。言うことで楽になることもありますから」


「......わかった。その言葉に甘えさせてもらうよ」


そして、大輝はあの村で起こったことを話し始めた。主には人を切ってしまったこと。悪魔に関しては、セレネのことがある以上あえて話すことはなかった。


大輝は話している間、手が僅かに震えているのを感じた。今更になってあの時の状況を思い出したものだから体が勝手に恐怖しているのだ。


つまりはその殺したという事実を受け止めきれていないのだ。あの時は勇者の矜恃や使命、その時の状況によって感じる暇もなかったのかもしれない。


その時はそれで良かった。だが、全てが終わり心に余裕が出来た今は違う。ユリスが言っていた通りにその手から肉を切る感触が、脳内には噴き出す血や痛みに苦しみ悶える人々の姿が蘇ってくる。


「俺は正しいことをしたのかな?」


結果的には多くの人を救えた。だが、その分切り捨てた人々がいない訳では無い。そのことが未だ大輝を苦しめ続けている。


この世界にほとんど慣れたとはいえ、「仕方ない」で済ませられる問題ではないと思う。もしかしたらただの考え過ぎかもしれない。しかし、それが仕方ないで済むようになってしまったら自分が自分でいられないような気がする。それにまず間違いなく元の世界へは帰れないかもしれない。


するとその時、ミリアが大輝の手にそっと自身の手を重ねた。その行動によって思わず考えに没頭していた大輝は我に返り、ミリアの方を見る。


「『思いつめてはいけない』とは言いません。おそらく大輝様がこちらに来なければ、経験することもなかったであろうことですから。ですが、大輝様。ちゃんと助けた人達のことを見ていますか?」


「助けた人達のこと......」


「人を殺すというのは辛い行為です。それは間違いありません。しかし、そうしなければ助けられなかった人達がいる。それもまた事実です。ですから、どうか気を落としすぎないでください。大輝様は人を殺しました。ですが同時に、人を救いました。その事を忘れてはなりません」


「そう......だな」


大輝はミリアの言葉に静かに同意した。人を殺した。それは拭えようもない事実で、これからもある可能性は否めない。けど、ミリアの言葉通りに救った人もいる。村の人々や村長の弟子である女性。そして、ユリス。 確かにユリスは悲しみを引きづることはなかった。それはきっと村長と全てを通じあえたから。


俺は失った分多くの人たちを救えた。それは救えた人たちが教えてくれた。だから、そのことは胸を張ってもいいのかもしれない。あまり悲観的なのは救った人たちに失礼かもしれないし。


「ありがとな。少し楽になった感じだ」


「それなら良かったです。いつでも頼ってくれていいんですよ?」


 そう言うとミリアは晴れやかに笑った。大輝もその笑みを見て釣られて笑う。前から思っていたがミリアはだいぶ明るくなった。出会った頃とは大違いに。笑った顔も固いという印象はなく、エミュほどとはいかないがそれでも確かに良い笑顔になった。これは勝負にも負けそうだな。


 大輝がそう思っているとミリアはなぜか笑顔のまま顔を赤く染めている。そのことに大輝が怪訝な表情で見つめるとミリアの顔はさらに上気する。


「な、なな、なんでございますでしょうか?」


「言葉がいつものじゃねぇぞ?」


「そんなまじまじと見ないでください」


「照れてんのか?」


「な、何をバカなことを言っているんですか!?急にそんなことを言う人には奢ってもらいますからね!」


 「なんでそうなるの!?」という大輝の言葉を無視しながら、ミリアは大輝を無理やり立たせると急かすように中心街へと歩かせた。


**********************************************

 ある森では一人の少女がなんとも言えない気持ちを発散しようと歩いていた。


「ん~、やっぱり気持ちいいわね。時には一人で心穏やかに過ごすのも悪くないわね」


 セレネは大きく伸びをすると自身の足元の陰から黒い手を生やして木に実っている果実を手に取る。そして、その黒い手を本当の手足のように動かしてその果実を口に含む。そのみずみずしい甘さに思わず頬を緩める。


「グルルルルッ」


「何よ。せっかく人が癒しを満喫しているって時に」


 するとオオカミの魔物がセレネを囲むように立ち並んだ。そのオオカミを見て先ほどとは打って変わって機嫌が悪くなるセレネ。だが、これぐらいなら今までと比べれば問題ない。いや、比較するのもおこがましいくらいか。


 セレネは<影の手腕(ゲンガーハンズ)>でさらに三本の黒い手を生やすとその内二本を背もたれのある椅子のように使った。そして、一番目にあった黒い手から果実を取るとその手を含めた二本の黒い手で、オオカミの魔物を蹴散らしていく。


 だが、オオカミとてそう簡単にやられるわけにはいかない。セレネの前方に仲間を集中させ、セレネの意識をそちらに向かせると気配を隠した残りが一気に襲いかかりに行った。


「むーだ」


 しかし、セレネはそれに気づいていたかのように小さく呟くと背もたれにしている黒い手から複数の棘を出現させた。それによって奇襲をかけようとしていたオオカミは全て串刺しになる。


 それからセレネは前方に意識を向けるとその二本の手で握り潰したり、オオカミ同士をぶつけあったりして全てのオオカミを殲滅した。その際、セレネは実に退屈そうであった。


 その時、誰かがこちらに向かって声をかけているような気がした。セレネは思わずその声が聞こえたような気がした方向を見る。


「げっ!」


「セレネちゃん、『げっ!』はないよ。さすがに傷ついちゃうよ」


 セレネが目を向けた方向から歩いてきたのはエミュであった。セレネはエミュにすっかり苦手意識を持ってしまっているのか思わず声が漏れてしまった。そのことにエミュはしょげた顔をする。


 するとセレネはエミュが何か道具を持っていることに気づいた。あれは釣り竿であろうか?竜王の娘にしては随分と庶民的な趣味を持っているようだ。


 セレネがそう思っているとエミュは察したようにこう告げた。


「今から川で釣りに行くんだけど、一緒に行かない?焼き魚が美味しいんだ」


「......まあ、いいけど」


 セレネは半分仕方ないといった感じでエミュの提案を受け入れた。正直、断ってしまっても良かったんだが、どうにも流れられなさそうな気がしてならなかったのだ。だから、本音を言えば行きたくない。エミュが嫌いだからという訳ではないのだが、苦手なのだここ最近は。見透かしたような目、ほんとか嘘かわからない声色、時折見せる別の笑み。


 そして、一番厄介な察しの良さからの予期せぬ行動。それも場を乱しかねない。本当にあの香蓮の時だけは怒っていいような気がする。だがまあ、結果的にあの勇者と香蓮に関しても、エミュと香蓮に関しても以前より良好な関係になったから怒るに怒れないのだけど。全くあれが計画されたものなのか、それとも突発的な行動がそうなったのかわからない。


 セレネは思わず疑うような目でエミュを見るが、エミュは毒気を抜くような笑みで返すばかり。......はあ、やはり苦手だ。


 それからエミュとセレネが川に辿り着くとエミュは座りながらのんびり釣りを始めた。そして、エミュの隣に座ったセレネはそのことにボソッと言う。


「エミュだったら直で捕まえられそうなのに......」


「捕まえられるよ。でも、これが醍醐味だって大ちゃんが言ってたんだ。特に急いでることもなければこうしてのんびりしながらが一番なんだって」


「捕まえられるのね。まあ、わかっていたことではあるけど、それにしても随分とあの勇者に影響されてるわね」


「えへへ、まだ全然だよ」


「別に褒めてないわよ」


 なぜか嬉しそうに笑うエミュにセレネは思わずため息を吐いた。エミュがあの勇者に好意を持っていたことは随分と前から知っていたが、あの時のダンジョン以来さらにグレードアップしている気がする。いや、気がするじゃない。しているのだ。これはまた厄介にな事だ。


 するとその時エミュがセレネへと話題を振った。いや、それは知っているような口調でもあった。


「セレネちゃん、ようやく心にゆとりが出来たみたいだね。大ちゃんにちゃんと言えたみたいで良かったよ」


「エミュ、まさか見てたの!?いや、それ以前に知っていたの!?」


「いや、内容は全く知らないよ。でも、あのダンジョン以来個人的な何か抱えていたような気はしてた。まあ、セレネちゃんは演技派だから気づくのにも時間がかかったけどね」


 そう言うエミュにセレネは思わず疑いの目を向ける。たとえ時間がかかったとしても、こうして何かを気づいているというだけでも随分と怪しい。本当は内容の方も知っているんではなかろうか。もうそうとしか思えないんだが。


 そう思うセレネに対してエミュは言葉を続けた。


「香蓮ちゃんにしても、セレネちゃんにしてももう少し頼ってくれてもいいと前から思っていたんだよ。で、香蓮ちゃんは解決したから、今度はセレネちゃんの番ってわけ。それに本当は頼りたいと思っているんじゃない?それに信頼以上の気持ちも」


「......!」


 エミュはそう言うと見透かしたような目で妖艶に笑いながらセレネを見た。その瞳にセレネは金縛りにあったように捕らわれた。まただ。またこの目だ。この目の前では嘘すらついても意味ないと感じさせられる。これが竜人族の能力なのか......いや、これはエミュ特有のものだろう。


 「やっぱ苦手だ」と思わずにはいられないため息をセレネ吐くと一言だけ返した。


「ノーコメントで」

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