第139話 正式に
これでこの章は終わります。終わりは着実に近づいてますね。
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「バカ大輝......その......あ、あーん」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「いいから食べなさいよ!ほら、あーん!」
「こんな強制的なあーん」は初めてだと大輝は思いながらも、それ以上セレネの機嫌を損ねないように食べた。正直、こんな経験は人生で初めてだ。なので、油断すれば顔面から火が噴き出そうなぐらい恥ずかしい。とはいえ、セレネの前に出すわけにはいかない。
「どうかしら?」
「お、おいしいです」
セレネは俺に優しく微笑みながらそう聞いてくる。大輝はその表情に思わずドキッとしながらも、なんとか口から絞り出す。それにしても、セレネはここ最近で随分と丸くなったもんだ。最初は自分のこと絶対嫌いだと思っていたのに。いつの間にやら、告白されている始末。全く、人生何が起こるかわからないというのはホントのようだ。
ちなみに、自分がどうしてセレネから「あーん」などしてもらっているかというと自分達がトレントを倒して、屋敷へと戻るとすぐに体に異変が起こった。それは、酷い筋肉痛。もうそれは本当に酷い、酷いものだった。なぜなら、現状今も首から下は痛すぎて出来る限り動きたくないからだ。
まあ、これでも随分とマシになった方だ。少し前はもっと痛くて動くなんて考えることも出来なかった。一応、フランとドリィから聞くところによるとこの症状は仕方がないことらしい。まず魔力は人によって形が決まっている。それは人の性格が全く違うように。
そして、その形の合わない魔力を無理やり体に詰め込んだせいで、体に拒絶反応が起こり、それが痛みの原因になるらしい。俺の場合は四人の複合した魔力が注ぎ込まれたため、簡単に言えば痛みは通常の四倍ということになる。
また一番の原因は、体にパンパンに魔力を詰め込んだことだ。これはもう言わずもがなだろう。少しでも注ぐ量を間違えれば即破裂。もう限界を迎えている魔力回路にさらに魔力を詰め込むのだ。魔力回路が広がって、周囲の神経を圧迫。痛みしかない。
故に、自宅療養中。今の自分の飯当番はセレネであるというだけだ。(ということは、ローテーションで回っているということでである。これが疲れるのだが)
「そういえば、まだ痛いの?」
「痛いな。といっても、結構楽になったよ。少しぐらいなら動かせる。わりぃな、看病させて」
「ここは『ありがとう』って言うもんでしょ。もっと素直になりなさい」
「俺はどっかの誰かさんより十分に素直だと思うが?」
大輝はセレネに向かってニヤっとした笑みを浮かべながら言うとセレネは思わず顔を赤くさせた。その反応を見る限りだと自分の言いたいことが伝わったようだ。つまり、セレネのツンツンとしていた時期と比べた時のことだ。まあ、ほんのからかい程度で言ったつもりだったが、セレネにはそうはいかないようで......
「何か文句あるの!というか、本当に待たせるのはいい加減にしなさいよ!しょうがない状況だというのは分かっているけど、たまにはこっちの気持ちも考えてよね!」
「あ......そうだな、ごめん」
「あ、いや、そんな風にさせるつもりはなかったのよ?」
「けど、それが本音ってことぐらいは聞けばわかる。だから、ハッキリさせたいんだが......こんなことが起こったからこそ思うんだ。どんどんと敵の存在が浮き彫りになっていく中では、それを考えるにはあまりに時間がないって。それにせっかく戻った空気がそのことで壊れそうになるのが怖いんだ」
大輝はセレネに今の心情をハッキリと伝えた。今更隠しても仕方がない。そんな気持ちはとっくにバレているからあんなことを言われたのだ。自分で言った言葉は本当のことだ。どんどんと敵が強くなり、真に倒すべき敵の正体がわかり、自分達はそれを止められなければならない。今回のことがあったんだ。敵はどんなことをしても自分を殺しに来るかもしれない。だから、選ばないという選択肢もあるかも知れない。
きっとそれは逃げなのだろうと思う。悲観的な考えであるということはよく分かっている。けど、今回の件で仲間を使って殺されかけた以上はそう考えてもおかしいことではないはずだ。だがまあ、これを口に出せばさすがに怒られるのは目に見えているが。
すると、セレネは無言で大輝の顔へ手を伸ばした。大輝は思わず「頭を撫でるつもりなのか」と思った瞬間、額に一瞬の痛みが走った。セレネのデコピンだ。俺は思わず額を両手で押さえる。
「何すんだ!」
「あんたが弱気になってるから吹っ切れさせてあげたのよ。言いたいことはわかってる。そして、どんなことを本当は言いたいのかもね。全く、分かりやすいというのか、私がわかるようになってしまったというのか」
「俺は普通に嬉しいぞ」
「~~~~~~~~っ!」
大輝は純粋な気持ちでその言葉を告げるとセレネは思わず顔を赤くさせた。すると、セレネは先ほどとは態度が一変して急にもじもじとし始めた。その普段には見せないような表情に大輝は新鮮味を感じてみていると不意に提案してきた。
「ねぇ、あんた、かれこれ横になったばっかりでお風呂とかロクに入れてないじゃない?だから......その......ね?」
「ね?って......」
大輝はセレネの「言わずともわかるよね」という言葉が籠った「ね?」に思わず困惑する。一応、これまでにも体を拭きたい時はあったが、それは大概俊哉に任せていたのだ。まあ、それは負い目を未だ感じている俊哉なりの罪滅ぼしの一種なのだが。
まあ、それはさて置き、大輝が俊哉にやってもらっているのはひとえに香蓮達の抗争を防ぐためだ。最近はよりアピールが強くなって来ていて、対応に困っている。故に、そのための対策なのだが......まさかセレネがこういう攻め方をしてくるとは......
「ちなみに、拒否権はなしよ」
「え?......ええええええ!?」
大輝はセレネが作り出した黒い手に固定されると上の服を強制的に脱がされる。大輝はもちろん抵抗するも、手足を固定されて動くことが出来ない。そして、セレネは若干上気した顔でどこからか持ってきたタオルで大輝の体を拭いていく。
「ちょ、セレネ!?落ち着け!?」
「いいからジッとしてなさい。天井のシミを数えている頃には終わってるから」
「それ意味合いが違うぞ!」
大輝はセレネの言葉に思わずツッコんだ。だが、状況的にそんなことをしている場合じゃない。セレネは大輝の胸から腹部にかけて丁寧に拭いていく。その感じが妙にむず痒いのだ。とはいえ、大輝にできることは言葉でセレネを説得するだけ。もう心の中には「タスケテ―」といった感じである。
するとその時、大輝の部屋の扉がガチャっと開いた。
「おう、大輝ー、そろそろ時間だが......ごゆっくりどうぞ」
「わああああああ!?違うのよ、違うってば!?」
「ヘルプ、俊哉!逃げないでくれ!」
そして、大輝とセレネはなんとか俊哉を引き留めると誤解を解いた。まあ、まだなんとなく疑われているがまあいいだろう。俊哉が来たのは実にグッドタイミングだ。たまたまとはいえ、これでセレネを遠ざける口実が出来た。
そして、大輝はセレネを俊哉との約束があるだかなんだかで部屋から追い出すと思わず疲れたため息を吐いた。廊下からなにやら悔しそうな声が聞こえるが聞こえないふりをしよう。
「俊哉、次いでだ背中拭いてくれ」
「ああ、わかった」
大輝はベッドでうつ伏せになると背中を俊哉に拭いてもらう。そして、しばらくした時に大輝は俊哉へと話しかけた。
「そういえば、どうなったんだ?」
大輝は思わず俊哉に尋ねたことは茉莉とのこと。いつの間にやら自分の知らないところで、それなりに深い関係になっていたようで......まあ、俊哉も青春らしいことを出来ていたのは良かったと思う。すると、俊哉はその質問に答えた。
「まあ、しばらくはかなり辛辣な言葉だったな。全て正論だからダメージがでかい。今は大丈夫だが、あれは絶対に怒らせてはいけないタイプだということはよく分かった」
「俺もあんな怒った藍野は初めてだった。あれは手こずるぞ」
「よくわかってる。今も手こずってる」
俊哉は大輝の背中を丁寧に拭いていく。その手つきは相変わらず引きずってるようだ。まあ、仕方ないとはいえ、自分との仲は簡単には壊れないほどの強固なもののはずだ。もういつもの調子に戻ってくれてもいいんだが。
すると、俊哉は不意に語りだした。
「俺はな、実は茉莉と付き合ってたんだ」
「え?いつから?」
「お前がセレネの友達を救いにダンジョンに潜った時だ。あの時に、茉莉と二人きりになって、香蓮の心情を見かねた茉莉が俺に仮だが、付き合おうと言ってきたんだ」
「あー、あの時か」
「けど、今回のことがあって、茉莉も気持ちがわかったようだしもう終わりだと思ったんだけどな......茉莉が『終わらせたくない』と言ってきたんだ。まあ、つまりは正式に付き合おうということだ」
「そんでお前は?」
「付き合ったよ。それは罪滅ぼしじゃない。俺の気持ちだ」
「そっか。よかったな」
大輝は俊哉の言葉に素直に喜んだ。そして、俊哉も大輝がどこかそう言ってくれるような気がして、実際に言ってくれて嬉しかった。
「だから、お前も後悔する選択肢はするなよ?」
「耳が痛い言葉だな」
大輝はそう言いつつも朗らかに笑った。
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