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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第二章 気がつけばローマ市民
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 目覚めるのは決まって日の出前。

 時間神殿が鐘をつくよりも、なお早い時間に私は必ず目を覚ます。いつも通りの時間に就寝すれば、の話ではあるけれども。

 誰も見ちゃいないからと、大口を開けてあくびをするも、眠気はなかなか無くならない。

 ようやっと落ち着いて休日を過ごせるようになったのだから、少しぐらいだらけてみても構わないかも知れなかった。

 えいと気合を入れて、改めて羽毛入りの柔らかいクッションに体を預ける。

 天気が良かったら、洗い物と一緒に天日干ししても良いかもしれない。

 頭がぼんやりしてきて、優しい眠気にさらわれる。


「ユリア!」


 聞きなれた声が聞こえて、私は目を覚ました。


「おはよう!羊皮紙ある?あとインクは?」


 朝っぱらからやけに威勢の良いティベリアがまくし立てた。


「急に何?羊皮紙は、上等なのが多少、安物なら一巻き。インクは、煤墨と、イカ墨(セピア)ならあるけど。誰かに手紙でも書くの?」


 体を起こし、二度寝の間に縮こまった体を無理やり伸ばした。


「カレンダーが欲しくて」


 カレンダー。

 私にとってはなじみ深い物だ。なじみ深すぎる物と言っても過言ではない。

 なにせ、このローマの暦は、カエサル(あのハゲ)が制定したユリウス暦。

 それまで使われていたローマ暦は、政治家たちの都合でずれにずれ、秋に新年が来るような有様だった。

 それを是正するためにカエサルは、調子に乗って一年の内に閏月を三度ねじ込み、一年を九十日も延長した。そうして無理矢理ずれを無くして新たにユリウス暦を制定した。それは良い。

 そして、三度も閏月を追加され混乱した暦業界を置き去りにして、新しいカレンダーを親戚筋のユリウス氏族の協力を得て大量に生産し、ユリウス氏族の名義で独自に販売した。これが、良くなかった。

 羊皮紙製の上等なもの、月別の簡素なパピルス製の物、果ては置物風の石板、粘土板まで。思いつくものからすべて形にしてやった。と言わんばかりに売りまくって、カレンダー業界の利益をほとんど根こそぎ奪った。

 カレンダーの出来も上々で価格帯も多様だったため、様々な市民の懐事情にうまくかみ合い、ユリウス暦制定以降はカレンダーと言えばユリウス氏族。という構図が出来上がってしまった。

 そのせいでユリウス氏族が業界の嫌われ者になってしまったのだ。

 当然、それまで当たり前にカレンダーを購入していたユリウス氏族は、買える所がなくなってしまい。生産者側に加担する以外に選択肢がなくなったのである。

 カエサルのカレンダー事業独占の顛末は、概ねこの通りである。

 もちろんユリア・カエサル(わたし)だけが特別扱いされるはずもなく、めでたく私も事カレンダーに限っては生産者側なのである。今まで仕上げたカレンダーの数は、数えることを考えることすら億劫、なほどであるものの、本業とする者達の千分の一にも満たない程度ではある。

 確かに暦のずれを正したことは、偉業と言って良いかもしれない。しかし、権力を最大限利用したこういう商売のやり方は、乱暴に過ぎた。他にやりようがいくらでもあった。

 こんな乱暴なやり方も、一つ二つならば大目に見ようと思う者がいたとしても不思議はないが、しかしカエサルが過去にやらかしたこと、とは枚挙に暇がないほどの数であり、カエサル家憎し、と思う者が大勢いるのもまた必然であった。

 頭良いんだから、少しくらいカエサル家の事も考えろと言いたい。


「なんで?カレンダーならあんたの部屋にもあるでしょう?」


 ゆえに私は、親友であるティベリアの言葉といえども、このように答える他に手段を持たないのである。

 正直、面倒くさいのだ。


「こんな半端な時期に新しいカレンダーなんて」

「まあ、そう言わずに。カレンダーと言えばユリウス氏族の専売じゃない。しかもカエサル家なんて元祖も元祖でしょう?」

「あんた私の実家がカレンダー作って売ってるからってバカにしてるの?」

「まさか!ユリアは字も綺麗だし、書きなれてるから失敗もしないだろうし、羊皮紙を無駄にもしないでしょう?」

「ここにあるカレンダーも全部私が書いたのですけど?」

「うん、来年のもこれから作るでしょう?だからついでにパパっと」

「え、嫌なんだけれど?」

「ちゃんと代金は払うよ?」

「しばらく羊皮紙を見たくない。あとインクが乾くのを待つのが嫌。そもそも何に使うわけ?」

「ローに数字を教えようと思って。ほら、カレンダーって数字が並んでるでしょ?数字の勉強にもってこいじゃない?」

「そ、れは、そうね。良い考えかもしれないわね。でもわざわざ新しいカレンダーを作る必要はない」

「なんで?」


 私は姿勢を正し、居丈高に言ってやる。


「はがして持っていったら?いつもみたいに地面に書けばいいのよ」


 そしてティベリアは、至極まじめな表情で、なるほど、と小さくつぶやいた。


「でも」

「なによ?」


 ティベリアが言いにくそうに眉を潜めながら、言う。


「地面とはいえ、勝手にカレンダー作っても怒らない?」


 別に、ユリウス氏族以外がカレンダーを作ってはならない、という法律はないのだから、私や、ユリウス氏族の人間が何かを言う権利はないし、言うつもりもない。

 本職のカレンダー職人ならば嫌そうな顔ぐらいはするかもしれないが、私個人としては、どこで誰が新しいカレンダーを売り出しても文句はない。むしろ幾らでもやってもらって、私が実家に呼び出されるほどの仕事量を減らしてほしいぐらいである。

※注意

ユリウス氏族がカレンダー事業を乗っ取ったという歴史的証拠は一切ありません。本作品の勝手な創作です。

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