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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第二章 気がつけばローマ市民
49/122

49s1

今回の更新は、予告版のため、とても短いです。

後日、改めて更新いたします。


9月12日更新、差し替え済み

 気に入らない。

 あの男が気に入らない。

 ローとかいう名前の変な恰好をした男が、ウェスタ神殿に通ってくるようになってすでに十日。

 ウェスタ神官長であり、私の指導を担当しているクラウディア様が言うには、テルティウスおじいさんの義理の息子になる予定の人物なのだという。

 同期の姉妹やお姉さま方は、物珍しい年若い男性に並々ならぬ興味関心を抱いているらしく、顔が幼げでかわいらしい。だとか、立ち姿に色気がある。だとかいう寸評を耳にすることがあったけれども、それらは、私に何の興味も湧きあがらせなかった。

 ただの言葉も話せない野蛮人ではないか。

 そんな男が、どうしてティベリア姉さまの関心を一身に受けているのだ。

 気に入らない。不快である。あの男はいったい何なのだ。

 だって、時間は有限なのだ。

 ティベリア姉さまはあの男に言葉を教えるのだと張り切っているけれども、そのために使われる時間の内の一部は、今までは私たち見習いと、いや、本心の言葉を吐こう。体面を気にしても意味はない。

 今までの、()()、指導をお願いするという建前で交わされる楽しいお喋りや、交流に使われていた楽しい時間も、全部まとめて、あの訳のわからない不快な男に持っていかれてしまったのが不快なのだ。

 いや、ティベリア姉さまが、自由時間をどのように使っても、文句などある訳はない。

 ある訳はないのだけれども、それとは別にして、平気な顔をしてティベリア姉さまの優しさと献身を受け入れているあの男が気に入らない。

 ティベリア姉さまの持つあの優しさや献身は、当たり前の物に見えてその実、きわめて例外的な、強烈な個性なのだ。

 ティベリア姉さまのご実家は、少々事情があって、貴族ではあっても、その実態はほとんど市民と変わりがない。

 そのせいかティベリア姉さまは、びっくりするほど()()()いないのだ。貴族の子女が当然身に着けている冗長無為な礼儀作法や、貴族同士の付き合いに必要な胃が痛くなるような陰謀の知識などもほとんど無い。

 ティベリア姉さまには、同期の姉妹、姉さま方が当たり前に持っている、貴族の裏、というものがない。

 そういうものがあると知ってはいても、実感はないのだ。

 でなければ、ローマでも有数の名門貴族の一つであるセルウィウス家の娘である私を、まるで本当の妹をたしなめる様に叱ることなどできはしない。

 厳格ながらも心優しいクラウディア様ですら、ほぼ同格の家柄を持つ私に対しては、ほんの少しの遠慮と貴族らしい配慮をしているのが感じられる。

 貴族の娘であれば、誰しもが貴族としての教育を受ける。

 家の権利を正式に相続できるのも、責任ある仕事を果たせるのも男だけ、女はせいぜい子供を産むのが仕事である。されども、家に不利益をもたらすほど愚かでも困る。

 だからどこかに嫁がせても、失敗しないように、可能ならば家に利益をもたらすようにと考えて、相応の教育を施す。

 期待などされるほうが稀であり、娘が嫁に行くまで、ろくに言葉も交わさない父親も居るなんて話も聞く。

 常にそんな環境に置かれている貴族の娘は、総じてすれている。

 年頃の娘が当たり前に望むようなことは、どうあっても叶えられないと知っている。

 自分の人生には、自由にできることが決して多くはないと諦めている。

 自分で夫を選んだという女性が、ローマにどれほどいるだろう。それどころか、友人すら自分では選べないのが貴族の娘という生き物だ。

 私自身も含めて、ウェスタの巫女になる事ができた娘は、幸運だ。

 望まない結婚などをしなくて良いし、男性のように自分の財産を保有できる。そして国母教を担う者として最大級の敬意を向けられる。これらは、当たり前の女性には絶対に手に入らないものだ。

 だが、ウェスタの巫女になれても、貴族の娘はやっぱり貴族の娘でしかない。

 身にしみついた貴族の娘としての教養は、きっと死ぬまで付いてくる。どれほど同期の見習いたちを姉妹と呼び、親しくなったつもりでも、やはりどこか一歩引いて、自分と相手を眺めている。

 自分が何かを望んでも、貴族としての教養が、それを阻む。

 誰かがそれをぶち壊して、物語のお姫様みたいに王子様が救い出してくれないだろうかと夢想したのは、私だけが経験した悩みではないだろう。

 ティベリア姉さまには、繊細な配慮だとか、暗黙の了解だとかいう、貴族にとっては必要な感覚が欠如している。

 つまり、ティベリア姉さまにとって、セルウィアという娘は、ただの年下の女の子でしかない。それ以上でも以下でもない。なにか特別な存在ではない。

 そのことが、ありふれた貴族の娘である私にとっては、とても新鮮で、ティベリア姉さまを独り占めしてしまいたいと思わせるのに十分なことなのだった。

 まあ、それは良い。

 今はあの野蛮人のことを考えなければならない。

 しかし私は、ティベリア姉さまに、何かを言うつもりはない。

 ティベリア姉さまには、思うがまま、あるがままでいて欲しいのだ。

 であれば、あの野蛮人の方をどうにかすれば良い。

 自ら進んで、ティベリア姉さまから離れる様に仕向ければ良いのだ。

 あの男が必要とする物があるなら、私が与えよう。

 金や物を欲するのであれば、実家に頼めば、一市民が満足するであろう分だけ用意できるだろう。

 地位や名声を欲するのであれば、自身の素地が必要であると説明し、ウェスタ神殿から隔離させることは難しくない。

 テルティウスおじいさんとの関係が、実際にはどの程度のものかはわからないが、保護者であるテルティウスおじいさんは、あくまでも一ローマ市民でしかないのだから、おじいさんごとセルウィウス家で抱え込んでも良い。

 やりようはいくらでもあるに違いない。

 そうと決めれば行動あるのみ。

 あの男の欲するところを明らかにしなければならない。

10年近く使っていたPCが、お亡くなりになったため、急遽スマホから更新しております。

使ってみると慣れないせいか、大変に扱いにくいので、49話の再更新と、50話の更新は、新しいPCが到着してから行う事にいたしました。

次回更新予定は9月1週か、2週です。

これからもサムライフローマをよろしくお願いいたします。

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