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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第一章 気がつけばローマ
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 ふと、気になる事があった。

 ローマに来て丸一日以上。いや、来た。と言って良いのかも不明なのだが。

 とにかく丸一日経過して、向こうはどうなっているのだろうか。

 母さんは?父さんは?道場と稽古はどうなっている?勇姫は?そう言えばお見合い相手の川上さんが来るとかいう話になっていなかったっけ?

 まあ、寝ても覚めてもローマに居るのでどうにもならないのだが。

 俺の置かれた状況に関して、考えつくパターンがいくつかある。

 例えば、俺は夢を見ていて、この夢が覚めたら普通に一晩しか経っていない。という夢オチのパターン。

 もしくは、俺が寝ている間にローマに移動した。と言う瞬間移動のパターン。

 もしかしたら、俺の精神だけがローマにやってきた。と言うファンタジーなパターン。

 実際にはどんな現象なのだろうか。

 腹も減る、怪我もする。空腹感も痛覚も現実と同等。では、これは夢でもゲームの不具合でもなく、現実なのではあるまいか。

 しかしそう仮定すると、一体どうやってこんな現象が起きたのか、が説明できなくなる。寝てる間に瞬間移動能力か、時間移動能力にでも目覚めたと言うのだろうか、寝ていたのに?

 目覚めたらベッドの上、が一番現実的である。夢の中であるがゆえに、空腹感も痛覚もまるで現実のように感じているだけ。と考えるのが、一番しっくりくるような気がする。というかそうであって欲しい。

 これからどうしたら日本に帰れるのか。

 というか帰れるのか?

 物理的に海を渡ってみるか。いや、どう見ても現代のローマじゃない。欧州の街並みはすごく古い建物が残っていて景観が良いなんて話も聞くけれど、ちょっとそういう次元じゃなさそうだ。海を渡って日本に到着したは良いけれど、戦国時代だった。とか想像したくない。

 そもそも、おそらくローマだろう、と勝手に思っているが、本当はローマじゃない可能性も充分にある。俺は関心のない事にはとことん興味を持たない性分で、特別世界史に明るい訳でもない。ただ確かなのは、ここが日本ではない。と言う事だけだ。

 お先真っ暗じゃないですか、やだー。


 つまるところ、俺は大変に暇を持て余していた。

 建物内の一室でティベリア、気の強そうな女性、穏やかな雰囲気の女性、しわまみれの男性の四人が、何事かを話し合っている。幼い少女はこの部屋に来る前に何かを言われて別の部屋に行った。

 俺にとって意味不明な会話は、今や俺を放置して白熱の様相を呈している。ちょっと混ざりたい気分になる。

 ティベリアに声をかけられる事も無く、時折ちらと視線を向けられる事もあるが、声をかけられる事も無い。

 夕日がきれいだった。

 もう少しすれば、日が沈む。

 電灯が存在しないらしいローマの夜が真っ暗な事は、昨晩の牢屋じみた部屋で痛感した。

 昨晩は月光だけを頼りに、脱出ミッションに挑戦し、移り気な月光に見事な敗北をかました俺である。

 ローマには夜でも明るく保つ。と言う考えがないのかもしれなかった。

 それはさておき、日が沈めばローマは真っ暗になる。暗がりには危険が多く潜んでいる。ローマの治安がどの程度なのかは不明だが、現代日本程の安全を期待する事はできない。ならず者がいるかもしれないし、単純に暗いだけでも危険なのは間違いない。

 そうなれば、夜は何の行動もできず、襲撃されないように気を張りながら身体を休める時間になってしまう。

 寝床のあてもない、食べ物のあてもない。どうしたものか。

 そして、できれば風呂に入りたい。ローマの空気は乾燥気味で土埃が舞いやすい。汗のせいで肌に付着した土埃が、はっきり言って不快だった。湯船につかりたい。いや、入浴なんて贅沢は言わないから、充分な水で行水するだけでも良い。

 とにかく、なんとか一息つける状況を確保しなければ、野垂れ死にも現実味を帯びてくる。

 それはちょっと本気で嫌だ。

 ではどうするのが現実的だろうか。意思の疎通は困難。食べ物と交換できそうな持ち物は刀ぐらいだが、これを手放すのは少々不安に過ぎる。

 では盗むか、奪うか。

 悪事に手を染めるしかないのか。

 いや、人としてそれはダメ絶対。それなら野垂れ死にした方がきっと気分が良い。

 やはり、刀を手放すのが現実的か。どの程度の食糧と交換できるかわからないが、それなりの値にはなるだろう。

 たぶん。なるよね?日本刀って本当に高いんだから大丈夫ですよね?

 自信は持てない。最悪ぼったくられても仕方がない。と思うしかないのか。嫌だなー。精神衛生上手放したくない。

 まあ、無手でも自衛ぐらいはまったく問題ないだろうけど。


「ロー」


 小さく俺を呼ぶ声で我に返る。くだらない事を考え過ぎた。

 くだらなくない大問題もあるが、それは今考えてもどうしようもない。本当にいざとなったら、また考えよう。

 俺を呼んだのはティベリアだった、部屋の入り口近くで俺に手招きをしている。気の強そうな女性と、しわまみれの男性も並んで居る。

 あの穏やかそうな雰囲気の女性は部屋に残るらしい。

 少し慌ててティベリアについて行き、部屋を出る前に振り向いて一礼する。

 道場を出る時に必ずやる奴だ。身についた習慣というか、少しは緊張していたせいなのか、自分の部屋ではないからか、はっきりとした理由はわからない。

 顔をあげると、とても優しげな表情をした女性と目が合う。穏やかそうな雰囲気と優しげな表情が、とても様になっている。

 いつかどこかで見た事がある表情だと思った。が、よくわからない。

 俺に微笑みかけてくれているらしい女性に、もう一度頭を下げてから、俺はティベリアの後を追った。

 廊下にはティベリアと、しわまみれの男性しかいなかった。気の強そうな女性は、どこかに行ってしまったらしい。

 しわまみれの男性が不意に駆け出した。とても慌てた様子なのだが、一体何があったのだろう。さっきまでの話し合いに関係する事なのだろうか。


「ロー―――――」


 ティベリアが俺を呼ぶと、少し速足で歩き出した。

 俺を呼ぶからには、きっと何か理由がある。

 不意にカモの事を思い出した。何かのテレビ番組で見た、生まれたてのカモ。あれはカルガモだったか、アイガモだったか。親鳥の後をトコトコついて歩く雛鳥たち。

 見ている分には愛らしくて癒される。しかし二十五にもなる男が雛鳥役とは笑えない冗談だ。

 建物の外に出ると、急に駆けだしたしわまみれの男性が、何か作業をしている様子だった。

 あれはいけない。おそらく腰を痛めている。その状態で無理をすると、別の所、例えば腕や膝の筋だとか、筋肉自体に負荷がかかってその部分も痛める事になる。

 放っておくのは気分が悪い。

 俺はしわまみれの男性に駆け寄る。途中ティベリアに呼ばれた気がしたが、今はしわまみれの男性の方が優先だ。

 しわまみれの男性は薪束を持とうとしていた。これを運ぼうとして急いでいたのだろう。確かに日が落ちてしまっては、よけいに面倒だ。

 面食らっている様子の男性に俺が運ぶと身振り手振りで伝えて、とりあえず近くにある物を両手に持つ。

 どこに運べばいいのか、先に聞くべきだった。一旦薪束を置いて尋ねようとすると、ティベリアが俺を呼ぶ声がした。

 場所を教えてくれるらしい事はわかった。

 すぐ近くの円形状の建物の中にティベリアの指示通りに置く。場所がわかれば後は繰り返すだけだ。戻って、薪束を運ぼうとすると、しわまみれの男性が薪束を運ぼうとしていたので、ついて来てくれたティベリアに、しわまみれの男性を座らせて何もしないように見ていて欲しいと、なんとか伝える。しわまみれの男性は、薪割り用の丸太台座らせても立ち上がろうとするので、少し強引に押しとどめる。

 ティベリアは俺の言いたい事がわかったらしく笑顔で頷いた。ほんの一瞬、ティベリアの穏やかで優しい表情に見とれてしまうが、今はそれどころではない。薪束を運びきってしまわなければならない。

 薪束は運びやすい大きさにまとめられているから、大した苦労も無く、作業はすぐに終わった。

 もう、日が暮れる。

 これから、どうにか寝床と食べ物を探さなければならないが、日が落ちた後のローマで、金もなく、真っ当な方法でそれらを手に入れる事ができるのか、俺には自信がなかった。一晩ぐらい、食事をとらなくても、人間は死んだりしないと割り切った。明日、日が昇ってから、どうにか頑張ってみよう。今日は色々あり過ぎて、正直疲れてしまった。

 しわまみれの男性は何かを言いながら丸太から立ち上がって、ティベリアと言葉を交わす。

 すると、しわまみれの男性は俺の肩を軽く叩いた。

 何を伝えたいのだろうか。言葉がわからないのは本当に、本当に不便だ。

 ティベリアは、しわまみれの男性と俺とを交互に指さしたり、時折俺にはわからない言葉が口を突いて出たりしている。

 しわまみれの男性はどこかを指さして、何かをかじる様な様子を見せ、自分の腹を押さえて見せた。


「―――――」


 何を言っているのかは、わからない。でもその言葉が優しいものに違いないと俺は感じた。

 その表情は、どこか懐かしい様な温かさが確かに感じられるものだったからだ。

 背中を軽く押され、俺はしわまみれの男性に導かれるようにして歩き出す。

 食事をふるまってくれるのだろう。それ以外に考えられなかった。

 良かった。とりあえず食事にありつけるのはありがたい。何せ朝にパン二つとスープを頂いたきり何も口にしていない。空腹感はそろそろ限界だった。

 そうだ、忘れてはならない事がある。ティベリアが俺をここまで連れて来てくれたのだ。一体どんな目的だったのかはわからないが、彼女たちのお陰で俺は死なずにすんだのかもしれないのだし、こうして食事にもありつけそうだ。

 礼の一つも言えないのでは、人として終わっている。

 しわまみれの男性を驚かせないように、ゆっくりと歩みを止めて、振り返る。


「ティベリア。ありがとう。さようなら」


 ティベリアは見ず知らずの俺に、随分と親切にしてくれたように思う。本当なら何かお礼をしたいところだが、今の俺には、何も返せるものがない。せめて御礼の言葉だけでもと思って、深く頭を下げる。

 顔をあげると、夕日に染まるティベリアの表情が良く見えた。優しく、穏やかに微笑んでいる。

 ああ、わかった。

 母さんと、父さんに似ているんだ。

 俺は、急いでティベリアに背を向けて、しわまみれの男性と共に歩き出した。

 こんな顔を、見ず知らずの女性に見せるのは、嫌だった。

 新庄良一郎、二十五歳、男性。良い歳をして結婚もせず、剣術ばかりに熱をあげる親不孝者。

 俺は人生で初めてのホームシックになってしまったらしかった。

これで、プロローグと言うか、序章が終了しました。

一旦ここまでの文章を全て見直して、酷い所を修正したいと思います。

乱文で、本当に申し訳ないです。

内容自体は変わらないようにしますので、修正後も読み返す必要はないと思います。

また、今までは無理にでも毎日更新していましたが、修正作業が終了するまで次話投稿を停止いたします。

修正は一週間程度を見越しております。作業が予定通り進まない場合でも今月中の修正完了を目指します。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


五月十八日、いつもの更新時間を大幅に過ぎた22時3分 いぬっころ


六月七日、加筆修正

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