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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第一章 気がつけばローマ
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 我ながら、ふざけた事を考えたものだ。ティベリアが持つ、なんだかふわっとした雰囲気に当てられたらしい。

 道場で年下相手に稽古をつける時と似たような、思いがけず子供扱いしてしまう感じ。

 丸一日筋肉盛り盛りの剣闘士たちに囲まれていたから、ちょっと心がびっくりしたのだろう。

 ティベリアと他の人たちは真剣に何かを話しこんでいる。

 ちらちらと向けられる帯剣した二人の視線を、のらりくらりとかわしながら、ひたすら待つ。

 何を話しているんだろう。言葉がわかれば、ここまで退屈しなくて済むのだが。

 外はいい天気だ。太陽は低い位置まで来ていて、もうじきに夕暮れ時になる。

 そう言えば、朝食以降何も口に入れていない。自覚すると、途端に空腹感を覚えるから不思議だ。

 しかし、問題は食い物の当ても無い事だった。金は無い。言葉も分からない。

 おう、詰んでいる。まったくこんな事ばっかりだ。

 と言うよりも、腹が減る事に驚く。まあ、そうだろう。裂けた右頬は、出血は止んだが普通に痛い、腹も減った。

 いよいよゲームの中ではないと確信できる。

 これからどうしたものかと悩んでいると、不意に女性が立ち上がった。ティベリアじゃ無い方の女性だった。

 その女性は何か言うと、帯剣した男を一人つれてこちらに向かってきた。

 一瞬その女性と目が合う。

 何とも気の強そうな目をした女性だ。しかし特に何か言われる訳でもなく、女性は俺の横を通って部屋から出ていった。

 ティベリアと髭の男性が何かを話したかと思うと、ティベリアは立ち上がって、先ほどの女性と同じように部屋を出ていこうとする。

 内容はさっぱりわからなかったが、話は済んだのだろう。

 俺は、これからどうしようか。正直、もう剣闘は二度としたくない。

 この屋敷さえ無事に出られれば、逃げ出すのは容易いだろう。老人の馬車に乗らず、走って逃げれば、そのまま逃げ切れるに違いない。

 もしそうなれば、考えなければならない事は、やはり食い物の事だろう。幸い外は暖かかったから、寝床はどうにでもなりそうだ。熟睡はできないだろうが。

 不意に右手にやわらかい感触。ティベリアに手を握られたらしい。

 そのまま、ティベリアに引かれるようにして部屋の外へ。

 小さい手だった。それに子供みたいに柔らかい。俺の手はタコまみれで硬いから傷つけてしまうのではないかと少しだけ気になる。

 誰かに手を引かれるなんて、いつぶりの事だろう。

 小学生の頃、クラスのレクリエーションで肝試しをした時か?違う。あれは俺が勇姫の手を引いていた。勇姫は態度こそ大きいものの、気は小さい所がある。

 ではもっと前か。父さんと母さんに両手を引かれて、どこかに出かけた時だ。

 どこに行った時だろう?はっきりとは覚えていない。

 父さんの手は今の俺のようにごつごつしていて、母さんの手はほっそりしていて柔らかかった事は思いだせる。

 俺はすぐに剣術に熱中してしまったから、まともに覚えてもいない。随分と懐かしい思い出だ。

 こうしてティベリアに手を引かれなければ、一生思いださなかったかもしれない。

 不思議な人だ。

 見ず知らずの俺の手を引いて、一体どこへ連れて行くつもりなのだろう。

六月七日、加筆修正

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