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絵の中に在る  作者: 中野あお
6.わかる人
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6-3

 顔合わせから週が明けた月曜日の昼、食堂で会った千夏はどこかおかしかった。何か焦っているというか落ち着きがないように思えた。具体的にどこがとは言えないがおかしかったのだ。一緒に食事をして話をしていても何か別のことを考えているようなそんな印象だった。生返事しか返ってこなかったとかそういうことではなく、はっきりといつも通り答えた後に何かを考えるような真剣な顔が挟まっていた。

 何がおかしかったかはわからなくても、何故おかしかったか、その原因はだいたいわかっている。

 一つは土曜日に会うと言っていた鞠花や未菜が余計なことを吹き込んだせいだろう。あの娘たちは昔からお節介なのだ。高等部から編入してきた千夏とは違いあの二人と私は中等部からの付き合いだからわかっている。おそらく千夏が恋愛相談的なことをしてあの二人が色々と言ったのだろう。そして、双葉はそれを笑いながら見ていた。そんな情景が簡単に思い浮かべられる。

 千夏も影響されやすい性格なのでそのアドバイスを真に受けて色々考えているというのがあの状態なのだろう。考え込み過ぎる質なのも良いことではない。まるで葵みたいだ。少なくとも私のモットーとは相反する性格だ。


 ただ、彼女が何のきっかけもなしに考えなければならない状況陥ったわけではないだろう。そのきっかけが二つ目の原因、顔合わせの後の食事会での燈子さんの態度だろう。

 その場では席がランダムに選ばれており、移動も可能な状態ではあるがある程度回生を問わずに交流できるようになっていた。これは上回生だけで話が進んでしまわないための措置であると同時に新入生同士で半紙が弾まないということがないようにするための方法でもあった。

 五人掛けのテーブルに私、千夏、朝居、多田、燈子さんという意図せぬ良いメンバー。千夏のために何か細工をするということはしなかったがこんなチャンスはなかなかない。さらに言えば、割り振られるのはテーブルだけであり、その中での席は自由。千佳にとっては気になる相手と距離を詰めるチャンスでしかなかった。

 それを阻んだのは他でもなく燈子さんだった。

 彼女はテーブルの奥の方に自然に座るとその横に朝居が座った。座ったといっても自然の流れで朝居が隣に座ったとかではない。燈子さんが招き入れたのだ。

 私の中では燈子さんの隣に私が座り、燈子さんの前に千夏、私の前に朝居、朝居の横には同性である多田という並びが緊張を特にも良いと考えていた。実際、それが一番いいバランスなのだと思っていたし、皆がそう考えていると思っていた。


 授業の後、情報センターで課題を終わらせて部室へと向かう間、私は先週のことを思い返していた。


 例年お世話になっているお好み焼き屋に到着したのは予告よりも二分ほど早い時間だった。店の前で新入生たちにくじを引かせ、あらかじめ割り振ってあるテーブルへと誘導する。


「ねえ、純花ちゃん。」

「何でしょうか。」


 二回生が仕切る中、燈子さんは何時ものような間延びした声で、それでいて小声で私に問いかける。


「今年もテーブル内で席は自由なの?」

「そうですよ。」

「ありがとう。」


 ニコッと笑って彼女は割り振られた店の一番奥のテーブルへと向かい、そのまま奥の席へと座った。二番という数字を与えられたその場所に他の四人も近づく。

 誰から順番に座るかとお互いに無言の譲り合いを行っていると燈子さんが発言する。


「ねえ、富貴とき。私の隣においでよ。」


 その場にいた人でそれが誰のことを指しているのかすぐにわかったのは二人くらいだろう。私はわからなかった側だ。


「富貴ってもしかしなくても朝居のことですか?」


 数少ない気づいた側の人、千夏が反応する。その声は驚きで上擦っているようにも聞こえた。


「そうだよ。さっきもフルネームで名乗らなかったからあれか、専攻同じじゃないとわからないか。まあ、富貴おいでよ。他人行儀なのもあれだし、話をしようよ。」


 そう言われるがままに朝居は燈子さんの隣へと座る。その場の雰囲気に少し怯えながらといった様子だ。


「せっ、先輩と朝居って知り合いなんですか?」

「千夏ちゃんは富貴と知り合いじゃないの?」


 柔らかい声で言っているのが逆に嫌味のように聞こえるかもしれないが、きっと燈子さんにはそんなつもりはない。この人は素でこういう感じだ。よく言えば天然、悪く言えば率直。


「それは知り合いですけど―。」

「燈子さん。千夏が聞きたいのは昔からの知り合いなのかってことですよ。」


 燈子さんと話をするのは難しい。話がどうすれば噛み合うのかをしっかりと見極めないといけないから。千夏はまだ彼女に慣れていないだろうから助け船をだす。他のテーブルの人も少しこちらを気にしているように見えたからだ。


「まあ、知り合いだね。というか親戚だね。もっと言えば従兄弟だよ。それなのに、この前部室で会ったら『度会先輩』なんて呼んできてさ。他の人がいるからって急に距離置かれたら少しショックじゃん。それができないように今日は最初からこうして逃げられなくしたわけ。」

「だからって隣に座らせなくても良いじゃん。」

「いや、隣の方が面白いかなって思ってさ。ほら、いつもみたいに『姉さん』って呼んでくれてもいいんだよ。」

「いや、それは変でしょ。」


 朝居が燈子さんにタメ口で話した。いつもそうやっていると思わされるようなその中の良さは彼にとって従姉だというだけでなく、ずっと近くにいた存在であるという事を示しているようにも見えた。


「まあ、私たちの話も聞かせてあげるからとりあえず座りなよ。始まるよ。待ってるよ。」


 誰が原因でまだ立っているかを気にもせず彼女は発言する。実際、全体が開始ムードなのは確かなことだ。

 促されるままに座る。多田、私、千夏の順で二人と向き合うように詰めていく。

 その後、葵から開始の言葉があり何の問題もなくスタートした。

 全体としては問題がなかったが個人にはダメージが大きかったようだ。これが全て千夏へと当てつけだと言われても信じてしまいそうなほどよくできた展開であり、好きな人に他人との仲の良さを見せられ続けて過ごしたのだから。


 だから、今日の千夏がおかしいのは燈子さんのせいだ。

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