製鉄④
「まぁ、結構良かったみたいだね」
「……あたしはこれを「結構良かった」で済ますアンタの頭の中が見てみたいさ」
製鉄業から4日経過した。
熱した炉は鉄や炭が無くなってもすぐに鎮まらず、冷えるまでにそれだけの時間を要したのだ。鉄の方もずっと熱かったよ。
今回のコンセプトが「魔法に頼らない鉄造り」なので、俺はノータッチだった。
皆、お疲れ様でした。
出来た鉄はおおよそ2t。かなり頑張ったよ。
一つ目の穴に落した鉄とその他は、はっきり言って使い物にならない。不純物が多すぎる。柔らかく加工しやすいだろうが、これなら青銅を使ったほうが軽い分だけマシだろう。
もっとも、この辺りには銅鉱脈が無いので相当遠くから買い付けないといけないだろうが。銅は鉄ほど豊富に存在しないのだ。
二つ目の穴に落した鉄は結構いい感じだと思う。
こういった鉄造りには温度管理が重要で、あまり内部温度を上げすぎると鉄に炭素が混じってしまい銑鉄となり、使い物にならなくなる。今回は運良くちゃんと使える鉄が出てきた。
空気を送り込んだときの環境とか各種条件はメモしておいたけど、こういった作業って最終的には作業者の職人芸に頼るしかない。頑張って回数をこなし、職人さんになってくださいな。ベテランになると神様扱いとも聞くし、相応の報酬を用意しなきゃだな。
余談になるが、刀鍛冶とかで鍛冶師が鉄をカンカン打つ鍛造って、鉄に含まれる余分な炭素を抜く意味もあったらしい。
って事は必要最低限の鍛造で刀が打てないと、炭素が抜けすぎて駄目になるって事かね?
それにしても、だ。
「かなり無くなったな」
「もう一回は無理さね」
今回用意した物は鉄鉱石(そこら辺にある)と木炭(自作)、消石灰(そこら辺にある)だが、木炭がほぼ尽きた。
鉄鉱石や消石灰はまだ用意できるが、木炭が足りない。去年は木材をあんまり消費しなかったので大量に木炭を作ったが、その大量の木炭をほぼ使い切った。4tは使ったと思う。あとは冬用の薪木だから、これ以上の浪費はNGである。
ついでに言えば、木炭を作るための木材は切ったばかりの木では作れない。しばらく寝かせて水分を抜かないと駄目なのだ。
つまり、製鉄は年一回の大イベントとなる。
人口が増えれば話は別だが、それでも年2回か3回が現実的な所だろう。それ以上は森林へのダメージが大きすぎる。あと、村の中では鉄の使い道がもう無いというのもあるけど。
「じゃ、鉄は売却って事で。ヨカワヤ、任せた」
「一回じゃ運び切れませんよー。分割でお願いしますー」
今回出来た鉄は全部売却。ヨカワヤに任せる事にした。
この売却で人の目を集める事になるだろうが、製鉄は俺が特別という話でも無い。溶鉱炉の製法が俺任せではあるが、他で同じ溶鉱炉を作ろうという話にはならないだろう。
なぜなら木炭の調達が難しいからだ。他の地域で同じことをやろうと思えばグラメ村と同じように森に隣接した地域に限定され、そういった開拓村に溶鉱炉を作ろうという話に、普通はならない。
それに他国から離れたグラメ村に限定した方が国としても管理しやすい。国の重要機密として扱われるだろう。
鉄が作れるようになったことで、グラメ村は納税の方に大きく余裕が作れるはずだ。
日本人の納税というと金銭か作物というイメージが強いけど、この世界では他にも労働や製品の提供という形でも構わない。鉄の納品となれば国にとってメリットが大きく、受け入れられる可能性は高い。
あとは村の農具の手入れ用に火入れ窯を作らないといけないけど、まずはここまでで満足するべきだろう。
あんまり一度にやろうとしても破綻するからな。ここは一歩一歩踏みしめて進むべきところだ。
あー。でも、まとめてやった方が後のごまかしに都合が良いか?
木炭は無いけど、形だけ整えて。俺の魔法は関係ないとアピール。
……止めておこう。製鉄はともかく、鍛冶ぐらいなら誤魔化さず正直に言ってもいいだろうし。鍛冶師はそれなりに数がいるからまず問題にならないと思う。
こうして俺は鉄を熱いうちに打ち終える事無く、製鉄関係を終えるのだった。




