靴サポート
「ははは、これであたしは何年でも戦える!」
グラメ村のレクリエーション用に作った卓球場。
そこにサヴの声が響き渡る。
「これで……終わりさ!」
対戦相手の卓球の腕は40人中22位と真ん中ぐらいの女性。弱くも無いが強くも無い。
サヴはそれを圧倒していた。
互いが本気の勝負に勝利し嬉しさのあまり飛び跳ねる彼女は、かなり変わった靴を履いていた。
本来、50㎝もの身長差が理由でサヴと他の対戦者はまともな勝負にならない。台の高さを片方に合わせると、もう片方には不利になり、一方的な勝負になってしまう。台を中間に合わせた場合はどちらも実力を出し切れず、不完全燃焼。これでは意味が無い。
そこで考えたのは、サヴに努力を強いる事になる方法だが、上げ底の靴を用意してみたのだ。サヴ自身は色々と芸達者なのですぐに使いこなせるかと思ったわけだ。
まず、この世界の標準的な靴はサンダルだ。木の板に草のひもを通しただけの簡素な代物である。材料の調達が簡単で、板に穴を開ける道具さえあればどこでも作ることができる。
ある程度裕福になると、靴底に動物の皮を入れる。木の板そのままだと痛いからね。緩衝材だ。
他にも足先を覆ったスリッパタイプもある。革で作った「ハネ」で足の甲を抑えるものだ。これもなかなかお高い。
もっとお金があるなら、形がサンダルから靴に変わる。具体的に説明すると、踵が付くのだ。簡単に脱げてしまうサンダルから、運動に耐えられる靴へ。この手の靴はほとんどオーダーメイドで、貴族ぐらいしか買えないんじゃないかな。革って加工の段階で形を決めると後で変更なんてできないし。
どうでもいいが、靴下は無い。布で足を保護する考え方が無い。
布関連は村に生産環境を作ってから手を出す予定だから、今のところは放置である。
最初に用意したのは高下駄だ。
通常の、安物の靴に歯をつけて高さを付けてみた。あと、脱げ防止に踵を押さえるひも。
これは慣れれば動くのに支障が無いという所まで順調だったが、激しく動く卓球には耐えられず、試合中に壊れる事が何度かあった。
あと、試合中に摩耗して滑りやすくなるのも指摘された。ちなみに相手は素足なので靴とか関係ない。
次に作ったのは一体型の上げ底靴だ。
これは壊れることも無く、サヴの動きに耐えてみせた。
しかし摩耗して滑りやすくなる欠点は克服されていない。靴底に何か張る事も考えたが、摩耗するという意味では何も変わらない。
スパイクとか、石の床の上では意味が無い。靴側を新しく考えるのが面倒になったので、床の方を変える事にした。ある程度ざらつきを与え、摩擦係数を高めたのだ。
床の変更でサブの動きに安定感が増した。
こうなるとサヴの方が有利になったかに見えるが、現実は甘くない。身長差から瞬発力にも差をつけられていて、腕の長さの面でもまだ不利だ。
もういいんじゃないかと思わなくも無かったが、リーチはともかく瞬発力の差だけ少し埋めてみる事にした。
靴底に偏平足対策に踵をやや高めにしてアーチサポート、土踏まずを樹液ゲルでサポート、靴底には柔らかい革を使って負荷を分散。たしかこれで良かったはずだと。
できた靴は素足で動くより疲れにくい、超特殊上げ底靴。
舗装されていない野外で使うには不安が残るけど、村の中なら石畳で道を舗装しているので特に問題ないかね。
サヴはそれを履いて楽しそうに卓球をしていた。
「いやー、この『下駄』って凄いですよー。かなり売れてますー」
なお、この上げ底靴に関してだが、これをそのまま売ろうとしても売れないだろうと判断された。
しかし下駄と言う考え方は面白かったのか、こちらはヨカワヤによって販売されて人気になった。少し靴底を持ち上げるだけで水たまりなどを気にしないでも良くなるからというのが人気の理由らしい。
ヨーロッパ的な石の街に、下駄のカラン、コロンという音が鳴り響く。下駄を履いているのは掘りの深い白人連中。しかもいっぱい。
そんな光景を想像し、どこかどころかどこまでもミスマッチな絵面に俺は遠い目をしてしまうのであった。




