商売の話(下)
グラメ村の村人にとって、経済活動とは行商人のヨカワヤが来た時に買う酒やらおやつぐらいである。
衣食住はあたりまえ、仕事道具に酒や風呂、娯楽アイテムまで俺が用意しているからだ。
何かを買う必要など全くない。お酒という名の、頑張った自分へのご褒美が欲しいと言うだけだ。
「そんなグラメ村で何を売る気だ? あと、喋り方は元に戻して。サブイボが出てきた」
「……まあ、つまらない冗談は聞かなかったことにしてやるさね。それで返事は?」
「駄目に決まってるだろ」
そもそも、採算の取れない商売をさせる気なんて無いぞ。
せめて採算が取れるというビジョンを見せろと言いたい。
「勘違いされているようだけどね。あたしらはここで物を売りたいんじゃないよ。物を「買いたい」んだ。
商人の仕事は売る事もそうだけど、仕入れも考えなきゃいけないのさ」
「毛皮を買うだけなら、今まで通りでいいと思うけど?」
「はっ! 盤上遊戯に札遊び。風車を使った脱穀機なんてモンを売っておきながら、そんな冗談は通じないよ」
やっぱりそっちか。
この村では俺が現代知識チートで売れる物から売れない物まで試しているから、それ以上を欲しがる奴がいつか出て来るとは思ったけど。
そうか。サヴがそう言いだすか。
俺は少し悲しい気持ちになったけど、その原因に思い至っているのでサヴの鼻を抓むだけで許してあげる事にした。
「ふぁ、ふぁにふぉひゅる!」
「婚約者騒動のあおりか」
「ふひゅっ!」
「そんなに向こうはヤバくなった?」
「……」
この間、婚約者ができた。王家や大貴族から、そりゃもうたくさんの婚約者が。
そうなると、婚約者がこっちに来て終わりとなる筈が無い。婚約者の身の回りを世話する奴だけじゃなくて、その取り巻き、御用商人や彼らの移動で発生する商機を期待する連中まで来るのだ。
人が集まり流れができると、ヨカワヤたちがこっちに来る理由が無くなる。ヨカワヤに頼まなくても、他の商人がついでに商品を持ってくればいいだけなのだから。彼らの商業規模ならヨカワヤたちの仕事など片手間でできる小遣い稼ぎみたいなものなのだ。
俺との縁が切れた場合、サヴらには厳しい現実が待っている。
俺が無理な仕事をさせてきた結果、彼女らの仕事比率は俺の御用聞きが大半を占めてしまっているのだから。俺の仕事が無くなると、重要な仕入れ元と販売先が同時に消えてしまう。売るだけ、買うだけで人を動かせる余裕など無いのだ。
俺は仕事上のリスクも考えて、高いお金を払ってヨカワヤたちを使っているが、そんな大名商売ができなくなる。
もちろん、俺が口を利けばこれまで通りの商売もできなくはないけど。少なくとも、商売人としてそれはやっちゃいけない事だ。商売人としての誇りをドブに捨てる愚行であり、彼女たちが背を向けた娼婦にすら劣る存在になってしまう。いや、この世界では娼婦って侮蔑される仕事じゃないんだけどね。
商人として利益を出すために、この村の何かを商品化するための人員を配置したいという訳か。
アドバンテージがある時間は来年の春か夏まで。それ以上は周囲の状況が許さない。サヴはそれまでに人を置く事を目指している。
当たり前だが、俺は自由を奪われないように情報統制をしている。
サヴの要求は俺の願いを完全に無視しているし、聞き入れるのに人の情だけというのは互いに選んでいい選択肢ではない。
「じゃあ、そちらの付ける最後の条件をお聞かせ願おうか」
だからこちらの事情を知っているサヴならば、俺を納得させる「俺の利益」を提案できるはずだ。
「交渉とは互いに利益をもたらす話し合いである」
商業の女神様の教えに従い、俺の利益を教えておくれよ?




