商売の話(中)
見た目は8歳、中身は100歳。
その名は、零細魔法商人サヴ!
……小粋なジョークは横に置いておこう。だからサヴ、その手に持った凶器をゆっくり下すんだ。いいな?
彼女は男性恐怖症やら重度の男嫌いの女を集めて商売をしている変わり者だ。
男尊女卑の世界でも女魔法使いというブランドはそこそこ価値があり、年を取らない祝福――常若の黄金リンゴを食べたらしい――もあっていろんな意味で有名人だ。
出会いは4年前。
保冷庫の情報で大儲けした後の事だ。子供が大金を持っていれば狙われるのも不思議じゃなくて、自衛のために暴れていた時の話。暴れすぎて目を付けられていたんだよ。
まぁ、そんな俺の保証人になって保護してくれたのがサヴである。彼女は俺の後ろ盾になり、周囲に睨みを利かせてくれたのだ。お陰様で俺は平穏な生活を手に入れ、彼女の庇護下にあったヨカワヤらとも交流を持つようになった。
ヨカワヤたちも男に思う所があったと思うんだけど、当時の俺はまだ9歳。男として見てもらえない年齢である。かなりませた子供として彼女らの弟分の立場を手に入れた。
サヴはヨカワヤたちの母親的ポジションにいたので、俺にとっては義理の母みたいな人なんだけど。実年齢を考えると婆ちゃんとしか思えないんだよね。見た目はともかく。
普段は仕入れの手配で王都から動かないんだけどね。何しに来たんだ、年も考え……あたっ!
「ふん。年より扱いするんじゃないよ。あたしは永遠にピチピチなんだからね!
それよりもアンタ、来年結婚するって話は本当かい?」
「残念ながら本当だよ」
「ふーん。おめでとうって言ってあげるよ」
「そりゃどうも」
言い方がいちいち年寄り臭いから、俺もサヴを年より扱いしたくなるんだけどね。
サヴは面白くも無さそうな顔で結婚の話を持ち出してきた。祝いの言葉も適当で、全然心がこもっていない。
あっちを見ろよ。嫁の実家が新しい屋敷とか用意していったんだぜ。ついでにため池とか作っていったし。どんな結婚祝いだよ。
「王様や貴族様の祝いの品なら、ため池程度はちっぽけなもんだろ。
それはそうとアンタ、開拓村って聞いてたけど、ずいぶん立派……というか、訳の分からない村だねぇ、ここは。
住居や農地、それは分かるんだけどね? 村には似つかわしくない壁もまぁ、いいさ。でも風車にガラスの建物に、ありゃあ何だい? でっかい石の建物があるけど。これは村にあっていいようなモンじゃないだろ」
「最近は独自色が無い村は生き残れないんだよ」
「独自色って言うにも限度があるさ!」
「世界ってやつは、自分が知らない事だらけなんだよ」
「ヨカワヤから聞いてなきゃ、首を締めてでも話させるんだけどね」
ヨカワヤには村の情報に関して、一応口止めしておいたからね。ついでに「知りたがり」にも制限を付けてあるし。サヴは数少ない、話してもいい例外にしてあるけど。聞いただけじゃあ理解は出来んよな。
「んで、何の用? そっちが暇じゃないのは知ってるし、世間話をしに来たってわけも無いんだろ?」
サヴは「世間話も大切さね。縁を結ぶのにこれ以上ないほど重要さ」と世間話の大切さを語るが、ちゃんと用件はあったらしい。俺に相対する目は真剣な光を宿していた。
「この村にウチの商店を作りたいと考えています。この村で商売をする、その許可を出して下さい。ちゃんと税金は言われた額を払います。
店舗の位置は村のどこでも構いませんが、壁の中にある方が嬉しいですね。貸し出しでも買取でも、そちらの都合に合わせた対応をする用意が私にはあります」
言葉も顔も仕事行きのそれに切り替えたサヴはまるで別人だ。この状態のサヴを見たのは何気に初めてである。
話の内容はサヴの立場を考えれば想像の範囲内だけど、最悪に近い要求である。
貨幣経済、商業の導入。
サヴの求めるものは、グラメ村にとって大きな転機だった。




