そして春が来る
村では俺が裁判長であり、法律であり、正義である。
しかし数の暴力、民衆の反乱により王が正統性を失うのも世の習い。
あの飯テロにより俺は村民一同から有罪判決を受けて簀巻きにされるなどの事件があったが、それでも時間は過ぎていく。
季節は、春を迎えようとしていた。
麦というのは米よりも寒さに強い。
小麦や大麦には秋蒔きという育て方があり、秋に芽吹かせた苗を冬越しさせて春に収穫することができる。
もっとも、グラメ村のように雪が深い地方ではそれも簡単ではない。農地の一部で秋蒔きの小麦や大麦の栽培をちょっとやってみたが、あえなく全滅してしまった。
そんな中で生き残ったのがライ麦。
黒麦とも言われるもので、麦系作物の中では雑草のような扱いをされている生命力の強い品種だ。
地力の消耗が激しく連作に向かない欠点があるが、ノーフォーク農法で頑張ればたぶん何とかなると思う。
結論。
グラメ村の冬はライ麦。
普通の小麦では厳しい。小麦は春蒔きのみだ。
ノーフォーク農法の為、小麦を育てていた場所ではカブを。
カブを育てていた場所では大麦を。
大麦を育てていた場所ではクローバーを育てる事になる。
クローバーを育てる事に意味を見いだせない連中もいたが、連作障害に付いて説明すると、渋々と、納得できなくても引いてくれた。
このあたりは「強権万歳、小作農どもよ働け!」の精神で運営している。
俺自身、効果については半信半疑なんだから内心ではビクビクしているんだけど。
変わった事と言えば、温室を使って収穫時期をずらすことを試験的に行っている。温室の広さに対して使っている面積が狭いので、有効活用の一環としてチマチマ試している。
同じ作物でも別のタイミングで収穫できれば不作というリスクの低減につながる。それに、芽吹いた時期の違いが収穫量に影響してくるかもしれない。色々と試してデータを集める事は大事だろう。
俺達は農業経験の蓄積が無い初心者集団なんだから。一つの経験でより多くの蓄積を求めるべきなのだ。
こうやって新しい事を試していると、去年、ここに来たばかりの事を思い出す。
あの時も全てが試行錯誤で、自信満々な態度でみんなの指揮をする俺は内心で頭を抱える事も多かった。
あの頃の自分と比べて、今の自分はあんまり変わったように思えないな。
それでも村の周りを見渡せば去年無かった物がたくさんあり、人口も倍になっている。
素人農民も初心者農民になり、何も変わっていないなど、あるはずが無い。
俺は1年分の日記を読み返し、過去と未来に思いをはせる。
俺の領地開拓はまだまだ始まったばかりである。




