温室のお祝い
高さ20mの円柱に半径57mの半球を乗せると、高さ77mになるわけだ。日本の消防法では高さ31mを超えると高層建築物認定されるので、温室は歴とした高層建築物と言える。
さて、問題だ。
そんな高層建築物が突如できたら。
村の連中はどんな反応を示すか?
答え。
騒ぎになる。お祭り的な意味で。
「大将大将! ありゃあ何ですかい!?」
「領主様! あれ、全部ガラスですか!? あんな馬鹿でかいガラス、私、初めて見ました!!」
「うぉーー!! すっげー!!」
「大将! 俺らも中に入っていいんですかい!?」
温室の検証を終えた俺を取り囲む村民達。
温室を作った直後は何の反応も無かった気がするけど、ここに来て急に騒がしくなった。
「……いや、だって。さぁ」
「うん……。あの時は声をかけ辛かったと言いますか……」
何があった?
「ほぇ~。どうなってんですかい? まるで春や夏みたいに温けぇじゃないですか」
「暑すぎやしませんか? 大将が凄ぇ魔法使いとは知ってましたが、どんな魔法を使ったらこんなことができるんでしょうねぇ」
「魔法じゃなくて温室の力。これからはみんなが管理するんだから、ちゃんとやってよ」
「「へーい」」
温室の管理を俺がやるわけにもいかない。それは時間の無駄だ。
何人かこの手の仕事で信頼できそうな者を集め、温室管理を新規事業として立ち上げる事にした。
主な仕事は水銀室温計を使っての室温管理と、カカオへの水やりだ。
地味ではあるが、とても大事な仕事である。
うまくいけばチョコレートが作れる! ココアが飲める!
これ以上大切な仕事が他にあるだろうか?
と、冗談は横に置き。
実際はカカオバター、つまり植物油が手に入るから頑張っているのだ。
個人的にはオリーブオイルが欲しいんだけど、悲しい事にそれが許される環境じゃないのだ。
オリーブは霜や積雪に弱いので、この辺りだと育たない。そのくせ日本などのようにある程度寒い時期が無いと果実を実らせないという厄介ぶりで温室を嫌う。
オリーブはとっても面倒なのだ。
新しい仕事、新しい困難。
それに挑むのなら、新しい喜びがあってもいい。
俺は羊のチーズを使い、「魚介のチーズ焼き」を提供してみた。
三枚に下ろした魚に塩を振り、チーズを上に乗せてオーブン的な焼き方を窯でやってみたのだ。
うまい具合にチーズが焦げ付くギリギリまで火を入れ、チーズがトロリとするのではなく、カリカリに焼けている。
「へぇ……。なかなか美味いっす……ぶへぇ!?」
「ふーん。くどめの味付けだけど悪くは……ごはっ!?」
今回は臭いがきついチーズの忌避感を無くすため、チーズだけに≪消臭≫の魔法をかけておいた。
おかげで口にしてしばらくは大丈夫だけどね?
しばらくすると、胃の中に入ったあたりで効果が途切れるんだ。
おかげで美味しい美味しいと食べた後に臭いの爆弾が破裂するのさ!
美味しいのは間違いないんだし、ちょっとぐらいイタズラしてもいいよね?
ただ。
「美味しいですー」
ヨカワヤには慣れ親しんだ臭いみたいで、俺達にはクサいとしか思えない臭いをあんまり気にしていない。
このチーズは納豆的な扱いなのかもねー?




