カカオの苗木
何か途中で記憶が飛んでいる気もするが、温室が完成した。
室温の温度調節が自動化できれば最高なんだけど、さすがにそれは望みすぎだ。俺の魔法は万能じゃないのだ。
さて、準備ができたらカカオの種を芽吹かせようと思う。
俺はカカオの実を割って種を取りだし、そのうちの一つをガラスの水槽に入れたぬるま湯に浸けた。ガラスの水槽……うっ、頭が!
植物の種の大半は、水分に反応して芽を出そうとする。他にも温度条件などが絡んでくるので、風呂にはぬるいが冬場にはとても温かいお湯を使って種を刺激する。
この状態を一週間ほど続けてもいいのだが、ショートカットに魔法を使う。
回復魔法の≪活性化≫で種に活力を与え、さっさと芽吹けと気合を入れる。
種は少し震えるとぴしりと殻を破って芽を出した。
ついでに根っこもふよふよとお湯の中を漂っているので、これでしばらくは大丈夫だと安心する。
俺はお湯から若芽を取りだし、葉っぱが隠れない程度の深さで地面に埋めた。
余談であるが、あのまま≪活性化≫を使い続けると確実にカカオの芽は枯れていただろう。
水分過多で根腐れを起こすか、栄養失調になってしまうのだ。
≪活性化≫は植物の成長促進に役立つように見えるが、結局は地力を要するのである。水中では言わずもがな、土に埋めた後でも栄養が足りなくなってしまうわけだ。
芽が出る所までなら水と種の中にある栄養だけで足りるんだけど。それ以上はハイリスクすぎるのである。だから普段の農業にもこの魔法は使えない。
同様の手順でカカオの苗木を5本ほど作成する。
ついでにイチョウの苗木も作ってみた。春までは一緒に育てようと思う。
カカオの苗木はしばらく様子を見て、大丈夫そうならもう5本追加しよう。
種は20個ほど手に入ったけど、その全てを使い切るのはリスクが高すぎる。失敗したら目も当てられない。
もし全滅させて新しいのが欲しくなったとしても、公爵の爺におねだりとかしようものなら面倒事を頼まれるので絶対にしたくないのだ。
カカオってたしか平均気温が30°ぐらいで直射日光に曝されないように育てるんだったよな……。あとは水はけを良くして…………って、なんで俺の前世はこんな知識を持っているんだ?
ちょっと引っかかるけど、使える知識だから構わないか。
あとは窒素肥料が重要だったはずだけど。なんかカカオ栽培に使える木があったはずだけど、この辺りで手にはいるはずも無いしなぁ。




