ガラスクラフト・マイスター
わりと広い空間を持つ温室だが、室内は冬にもかかわらずそれなりに暖かい。
とりあえず1日は様子見と言う事で温室内で生活してみたが、朝から晩まで室温がマイナスにならない事を確認できた。
……マイナスにならない事を、確認できただけなんだ。
それも、晴れた日に。
温室についての知識が足りていないからか、俺が作った温室は最高室温こそ30℃越えと高いものの、最低室温が5℃を下回る。夜明け前の一番寒い時間帯は毛布が無いと厳しかった。
また、除雪をちゃんとやらないと雪でガラスが覆われ、室内が冷え込むことも予測される。
問題点は二つ。
室内の保温能力の向上。
雨や雪が続いた時の室温低下への対策。
この2点をクリアできないと、カカオの栽培は無理じゃないだろうか。
そんなわけで、ガラスを二重にする事になった。
保温性能、熱伝導において空気はガラスの40倍の性能を誇る。5㎝厚のガラスだから大丈夫という見込みが甘かったのだ。やはり2重にしないと保温性能が足りない。
俺は泣きながらまたガラス板を生産し、10㎝ほど離れたところにもう一つの壁を作った。勿論、北側はガラス板ではないが。
また数日かけて温室を強化したのだが、今度は逆の問題が発生した。
今度は室温が下がらなくなってしまったのだ。
室温最高が50℃を超え、下手するともっと室温が上昇する可能性が出てきた。
いくら熱帯の植物とはいえ、こんな中でカカオを栽培したら焼けてしまうかお浸しのようにしんなりとなってしまうだろう。
これについては開閉式の通風孔を用意し、室温が一定以上になったと判断したら空気を逃がすように設計し直した。
室温を一番持っているのはやはり空気だ。空気の入れ替わりがあれば室温はすぐに下がる。今度は室温の下げ過ぎに気を付けないといけないが、これについては室温計を複数箇所に設置し、ノウハウを蓄積することで調整できるようになるしかない。
もう一つの問題、積雪に付いては周辺に水路を作る事で対応することになった。
毎回毎回除雪を人力でやっていては必要な労力が大きすぎて困ってしまう。
だから大きめの水路を作り、自然と雪が流れていくようにと考えた。
もちろん水路の水が凍ってしまっては意味が無い。別の温室の中で温めた水が流れるようにして、せめて温室周辺では水が凍らないように配慮した。
温水専用の温室を作るためにまた大量のガラスを作る羽目になった俺はすでに悟りの境地に至ったんじゃないかと思う。
なお、こちらの温水用温室は室温がどこまで上昇しようと気にしない。なので空調の類は存在しない。ただ、本命の温室よりも小さいし水路の分だけ室温が下がるのか、そこまで無茶な事にはならないと思う。夏は使う意味が無いので解放すればいい話だしな。
今回の温室作りで作ったガラス板は4000枚を超え、俺は無意識下でガラス板を生産するスキルを手に入れた。
ガラス板を作るのに思考は要らない。
俺はガラスクラフト・マイスターにクラスチェンジしたのだ。
村民が俺に「もうガラス板はいいんすよ!」などと言っているけど、大丈夫だ。うん、大丈夫なんだ……。
俺が正気を取り戻したのは、温室完成から10日ほど経った後であった。




