砂漠の戦争(下) 机上の空論
形状はガレー船のようなその船は、高さは3mぐらいで縦幅20m横幅5mぐらい。
甲板の上には多くの弓兵が乗っていて、高さの利を得るための物ではないかと思われた。高い所から撃った方が遠くまで矢が届くのは常識だ。また、高い所にいれば相手の矢が届きにくいのも当たり前だ。
普通のガレー船の側面にはオールを突き出すための穴があるけど、この船の穴は地上から2.5mぐらいの位置にある。そこから弓を撃ったり油を撒いたり、攻撃するんじゃないかね。
砂漠での戦いは可燃物の少なさから火矢はあまり使われない。木造であっても魔法以外の理由で火を付けられることはまずないだろう。
機動力があるようには見えないけど、防衛側としては迎え撃つだけなのだから大きな問題にはならないだろう。
運ぶのは大変だが、野外に築城する手間などを考えれば一応は合理性を持つのかもしれない。
……砂漠で木材がどれだけ稀少かを考えなければ。
……魔法使いがいる事を考えなければ。
さすがに戦場に現れて「ただ上から眺めていました」では恰好がつかない。
俺は戦場に介入する事にした。
「話には聞いていました。ですが、ここまでとは思いませんでした」
戦後、義兄ではないが、王国語の話せる武官達が俺の応対をしてくれた。
会うのは初めてだが、お互いに義兄から話を聞いている。魔法を使ってみせたのも良かったんだろう。なので、自己紹介が最小限で済んだのがありがたい。
部下の兵士たちは楽に終わった戦闘と、楽に終わる次の戦闘に喜々として働いている。
ごく一部の例外を除けば誰だって死にたくないし、殺し合いなんて真っ平御免なのだ。それをしなくていいと実感できれば喜びもする。
兵士たちの反応は当然と言えた。
鹵獲した敵の砂上船(仮名)だが、よく見ても何がしたかったのかよく分からない代物だった。
まず、船の底に穴が開いていて棒が付いている。奴隷が棒を掴んで倒れていたので、そこで船を押せるようになっていたのだろう。
ガレー船のように人力で動かすって考えを踏襲しているんだろうけど、もうちょっと何か考えて欲しかったかな。家畜を使うとかさ、人力に拘る意味も無いだろうに。奴隷より家畜の方が貴重だからかね?
ただ、移動すると徐々に壊れていくのだろう。底の方は摩擦で自壊していたよ。コロを使わなければ、ソリや車輪があっても駄目だったらしい。せめてソリの下にコロを置けと言いたい。多少はマシになるから。
中には弓と矢玉の在庫があり、ついでに毛布のあった休憩室や包帯の置いてある医務室らしき部屋まであった。
あとは縄梯子を使った上り下りの為の穴。階段は無かった。
食糧や水も積まれていたけど、食堂らしき場所は無し。まぁ、休憩室はあるようなので食堂は無くてもいいのだろう。
このあたりは普通の船と同じだな。
武官から聞いた話だが、こんなネタ兵器が投入されたのは初めてで、どうやって対処しようか悩んでいたようだ。俺がさっさと戦闘を終わらせたのでほっとしたそうだ。
ただ対処そのものはいくつも草案が出ていて、それを聞く限り特に問題は無かったように思う。
武官の考えではあの砂上船は鈍重な長距離攻撃兵器という認識で、まずは距離を取って地上の兵士を一掃すればいいと考えた。
地上の兵士をおびき出すには砂上船を迂回して都市を直接攻撃しようとすればいいだけで、近寄る必要性を考えていなかった。
また、砂上船への攻撃は大きめの盾を笠にして上からの攻撃に備え、矢玉を消費させる持久戦に持ち込み、攻撃が止むのを待ってから攻める算段だった。
運が良ければ水や食糧が先に尽き、戦わずして勝てるのではと思っていたようだ。
おそらく魔法使い無しではそれが最善だと言える戦術である。
草案とは言っていたが、戦闘になれば実行していたであろう。そして問題なく勝っていたんだろうな。相手にしてみれば頼みの綱である秘密兵器を無力化されるんだから。
この手の大きな兵器ってやられた時が痛いんだよな。「戦艦大和・何もできずに轟沈」なみに仲間の士気を削る。
作る前にもうちょっと考えるか、試験運転ぐらいしていれば良かったのに。
浪漫兵器の大半は机上の空論なんだよな。
あ、都市の方もそのままの勢いで陥落させたよ。
この辺はもう作業としか言えないので省略するけど。




