王都の新年祭(馬)
俺が伯爵との会話を終えてすぐ、爺さんがやって来た。
図ったようなタイミングではなく、実際にタイミングを図っていたんだろうね。爺さんだし。
「なかなか面白い状況だな」
爺さんはこの状況を楽しいと、面白いと笑ってみせた。
「人の言葉の意味を考える者、考えぬ者。見事に仕分けされたと思わんか?」
爺さんは自分の派閥には貯水用のため池を作るように厳命していたらしく、身内には被害を出すことなく今日を迎えていた。
逆に独自路線で自己判断をするのが当たり前の妖怪2号の派閥は半数近くが脱落したらしい。ジジイ自身は無事のようだ。
そして中立寄りの連中は壊滅的らしい。
全体で言えば3割ぐらいの貴族がアウトだったのである。
この件については俺に非が無い事は爺さんも理解しており、注意を受けたのにそれを無視した奴が悪いというのがその見解である。
「ま、目先の事すら考えず、ロクに領地も治められん様であれば世代交代も視野に入れなければいかんなぁ」
自分の派閥に被害が出ていない事もあり、爺さんはとても楽しそうだ。
このあたりはリーダーシップの強さをどう使うかで明暗が分かれたわけだし? 強気の姿勢になるのも分かるけど。
ただ、役立たずなら簡単に引退しないんじゃないかな? 無能らしく、役職にしがみつくのが役立たずなんじゃないかな。
「ははは。それは責任を取らせれば済むことだ」
「命で」責任を取らせるわけか。怖いね。
「人の話も聞き入れずに多くの民を死なせていれば、それは明確な国への反逆なのだよ。
統治者の愚かしさほど放置できない悪は無いからね。まぁ、早々に自身で進退を決めてしまえばこちらから何か言う事も無いだろうがね」
チラリと周囲に目を向ける爺さん。
ここまでの会話は特に小声といった事は無い。普通に、周囲に聞こえる音量で話している。
意訳すると、「今この場で退くと言わねば殺すぞ」と聞こえる。
「無論、功績などがあれば相殺と言う事も考えられるが」
爺さんはそこで一旦言葉を区切り、「どの程度の貴族が功績を持っているのだろうね?」と小声で付け足した。
そのあともしばらく話をしていたけど、特に何かしたわけでもなかったのに爺さんは馬の飼育について現物と人をくれると言いだした。
馬は高価な生き物で、飼育には相応の手間と費用が掛かるんだけど。トナカイもいるし、そこまで必要としていないんだけど。爺さんからは「今後は早馬が必要になる事もあるだろうしな」という理由を言われて受け取る羽目になった。
とても面倒な話ではあるが、俺が爺さんにノーフォーク農法について問題点も含めて説明した段階でこの展開を考えていたんだろうね。
然したる功績も無く、ただ漫然と領地を治める中立貴族。
ただ自分に反抗するだけの、足を引っ張る連中。
ある意味、能力があるが故に対立する妖怪2号とは違う理由で相容れないお邪魔虫ども。
農法関連の情報伝達は爺さんへ完全に任せていたけど、たぶん中立貴族どもにはそこまでしっかり伝わってなかったんじゃないかな。
そして馬はその埋め合わせだ。
馬は値段もそうだけど保有や飼育に許可がいる事を考えると、いきなり言い出したと言っても事前に準備はしていたわけで、その準備はノーフォーク農法を広めた頃なんじゃないか?
今回の件で周囲から恨まれた分の侘びと考えると、しっくりくる。
もしかしたら「情報伝達を密にするように」「隠し事は無しだぞ」って警告かもしれないけどな。主に海洋関連で。
ま、爺さんだしな。
裏の意味も一つ二つじゃない可能性が高いか。俺の考え付くことを見越しての贈り物だろうから。
とりあえず、頂けるものは頂いておこう。
贈られた物に悪意はないだろうからね。




