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祭りだ!(前半戦)

 収穫祭が始まった。

 酒を飲み、飯を喰らう。

 熱い風呂に浸かって冷たく冷やした麦酒(エール)を呑めば、そこは地上の楽園だろう。


 たったそれだけでも、幸せを感じることができる。

 たったそれだけでも、もう一年働けるだけの活力を得ることができる。


 人はこの幸せを噛み締めるために生まれてきたのだろう。



 俺はウィンナーを摘まみ、噛り付いた。

 アツアツの肉汁が口の中にあふれ、俺は脂の甘さときつく効かせた塩っ気を味わう。


 そこそこ美味い。

 料理の質は、この半年でずいぶん良くなった。

 日本の飯屋で出せるレベルには程遠いが、それでも進歩は進歩だ。このまま積み重ねていけばいいと心から思う。


 それを麦酒で流し込み、周囲を見渡す。

 昼間からでも酒を許したのは、場の空気を温める為だ。

 競技大会の方は、普通なら厳粛な空気の中でやるんだろうが。俺はお祭りとしての盛り上がりを重視したい。だから酒を飲ませ、陽気な気分で勝負を見守ろうと思うのだ。

 ほど良く皆に酒が入ったのを確認すると、俺は声を張り上げる。


「これより、収穫祭競技大会を開催する!

 定めた種目は事前に連絡したとおり! 参加者はその場で参加を宣言しろ! どの競技に出るのも、いくつの競技に出るのも自由だ! 存分に挑め!」

「「「うぉおぉーーーーっ!!」」」


 俺の宣言に、周囲の奴らが大声で答えた。大気を震わせる大音声はやる気の現れ。

 酒を飲みながらもその事は忘れていなかったのかもしれない。参加者の足取りは意外としっかりしている。

 酔っぱらいによるグダグダとした大会でも構わなかったが、思っていたよりも楽しめそうだ。





 ……と、思っていた時期が、俺にもありました。1競技目の最()からグダグダである。


「うぉえぇぇ」


 飲んで、走って、また飲んで。

 はっはっは。そりゃあこうなる。吐くよな、普通。


 徒競走は一回に付き10人を走らせ、上位2名を勝ち抜けにした。で、勝ち抜けた奴らで決勝としたわけだが。

 酒の力も手伝い前評判を覆すような結果が多数出て、試合の合間に酒を飲んだお馬鹿が決勝後に醜態を見せて。それを見た皆で笑っている。

 なお、優勝したのは農業リーダーだった。


 そういえばイギリスの貧乏学生が、走ったりグルグル回ったりしてビールを飲むとか聞いた記憶がある。その方が酔いが早く回るからだとか。

 これも似たようなものかもね。



 リバーシと積み木タワーは静かな試合だったから、盛り上がりはそこそこだったけど無事に終わった。

 こちらは娼婦の中から優勝者が出た。身体能力が関係なく、練習に使える時間の差だったのだろう。頭の良さに男女差は無いからな。



 腕相撲、レスリングは漁業チームから優勝者が出た。

 この頃になると本気の奴らは酒を控え、勝負に集中するようになった。優勝候補は他のチームの奴だったけど、そいつらは油断して飲み過ぎ、早い段階で負けてしまった。

 自制心も強さの一つだ。



 じゃんけん大会はヨカワヤも参加し、何故かこいつが優勝した。


「これでさっきの脱穀機のお代、チャラにできませんかねー?」

「他の儲け話でも構わないが?」

「いえいえー。あんまり手を広げても、人手が足りませんからー」


 別に、それでもいいけど。

 どこも信用できる人材確保が大変らしい。

 うちに人を連れてきて、そこで作るのもありじゃないか? ここは国の端っこで他国にも面していないからスパイとか来ないし、製作者の俺がいるし。人が信用しきれなくても立地条件で覆すっていう手段があると思うが。


「あ」


 なぜかヨカワヤが固まってしまったが、世の中はそんなものと諦めてくれ。

 気が付かなかったお前が悪い。今から再交渉でも構わないが、それは相手が言い出すのを待つとしよう。

 俺はそこまで優しくないのだ。

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