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ニート裁判

 基本的にこのグラメ村は「目には目を、歯には歯を」で有名なハンムラビ法典的な法律、要するに「やられた分だけやり返してよい」という考え方を採用している。

 殴られたら、殴り返す。蹴られたら、蹴り返す。飯のおかずを奪われたら、次の食事で奪い返す。至ってシンプルだ。


 ただ、罰則がそれだけで済むはずも無い。

 例えばごみのポイ捨て。例えば落書き。

 こういった犯罪については、やり返すような罰則では裁けない。


 そういった場合、いくつかの事例は国法によって罰則が規定されている。

 場所にもよるが、ごみのポイ捨ては鞭打ち100回と法で定められている。水場を汚した場合は最低でも物理的に首を飛ばすとなっている。

 ただ、それらの規定は「どれぐらいの被害に対し」「その程度の罰を与えるか」という判断基準という側面が強い。


 この時代は法律による規定が緩い。

 最終的には平民や奴隷の罪を貴族が裁き、貴族の罪を王族が裁くときの根拠として扱われるが、細かい事は裁く側次第という側面があった。


 余談だが、ハンムラビ法典で罪と罰が等価なのは同じ身分の場合のみである。身分差があると罰は一気に変わるので注意が必要。





「サボりの罰則として、1週間の晩飯半減。それを理由にさらに仕事をサボった場合は追放刑と処す」


 村民たちが見守る中、俺は判決を下す。

 それを聞いた被告は崩れ落ちたが、周囲からは「甘すぎる!」などと批判が飛び出した。

 俺は周囲を見渡し、にらみを利かせる。


「甘い、大したことが無い罰だっていうなら、お前らも付き合ってみるか? 文句を言いたくなるぐらい“軽い”罰なんだろう?」


 俺は批判の声を封殺し、罪人になった男に目を向ける。

 どこか気力を感じられないその顔に、「こんなものか」と俺は覚悟をした。



 人間、数が集まればその質は分散が大きくなる。

 頑張るリーダー格に対し、頑張らないクソ野郎が出て来るわけだ。


 それなりにでも働いていれば、多少手際が悪くても責める事などしない。ノルマをこなせなくとも、頭を下げることができれば不問とする事が多かった。今回はそれで“舐められた”結果かもしれない。

 だがら仕事をしない奴に甘い顔などしない。サボりは重罪だ。当然、ペナルティを科す。そこに情け容赦は一切無い。



 俺は労働に対する対価として食事で報いている面がある。

 たまに小銭も渡しているが、買い物は月に一回できるかどうかという現状ではあまり意味が無い。労働者にとって一番大事な給料が現物支給というのは情けないかもしれないが、開拓村なんだからそこは諦めてもらう。それに、村の食事は村民に好評だから今のところ問題になっていない。

 一応、自分ではちゃんと労働に見合った報酬を出していると思う。


 では、働かない労働者に給料を出す義務が俺にあるか?

 そんなものは無い。

 日本みたいに労働者を保護する法律も無い。


 俺が要らないと判断すれば、切り捨てる。

 そうしないと他の村民から舐められて、村という社会が崩壊する。力は振るってこそ価値がある。

 なにより、罰金を取るにも金を持たせていないし、留置場のような場所に拘束するのはコストがかかって労力に見合う利益を回収できる見込みが無い。

 メリットとデメリットの判断でしかないのだよ。





 けど、結構胃が痛い。

 理性では分かっているんだけど。感情論では人を切り捨てるデメリットが大きく感じられる。特に悪い感情を持っていない相手であればなおさらだ。


 この、出来レースを続けるのは、胃が、痛い。



 ぶっちゃけてしまえば、今回の裁判はただの演劇みたいなものだ。

 サボった奴は、俺がヨカワヤに言って来てもらった「ニセ村民」である。わざと仕事をサボり、裁判沙汰にして、大勢の前で処罰されてもらう役を演じてもらった。


 仕方が無いんだ。

 たまにでいいからこうやって裁判をしないと、法律の存在が忘れ去られる。法治国家なんだぞーというアピールは大事だ。村民がモヒカン化してしまう。

 それに。ダメな奴っていうのは大勢が集まれば必ず出て来るんだけど、意図して駄目な奴を出すと、わりと簡単に対処できるようになる。ケツを叩かれ頑張る様になるか、誘蛾灯に誘われたかのように顕在化するから。



 仕事をサボった彼にはこのままメシマズ村で頑張ってもらうのが決まっている。村民は村から出ないのでたぶんばれない。


 旅立つ彼に、敬礼!

 お勤め、ご苦労様でした!

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