遭遇
リアルでも春です。
プー太、花粉症に負けずに頑張ります。
両腕に肥料と苗を抱えて意気揚々とシリティアの半歩後ろを歩く。
「一つくらい持とうか」
可憐な後ろ姿に惚れぼれしていると、ヒロトが呆れたように荷物に手を伸ばす。
「けっこう。これは僕に、渡されたものだ」
これはシリティアが、僕に、渡してくれたものだから。だから、たとえ重くて腕が悲鳴を上げようが耐えてみせる。手助けなんていらないと念入りに告げる。
「まだ買い物を始めたばかりなんだ。荷物はこれからもっと増えるんだしヨイチにも限界があるだろ」
「その時はその時だ」
断っても食い下がってくるヒロトに疑問を抱く。もしや、ヒロトもシリティアのことを……。
「疑いの目をむけるのはやめろ。だいたいだな、持っているものを途中で落としたら、とか考えてみな」
この人通りの多い場で落としたら、どうなる。結果は至って簡単。苗や肥料がシリティアの身体にぶつかって怪我をさせるかもしれない。そうすれば必然的に怒られる。そして嫌われ、信頼をなくして荷物持ちすら別の奴にさせられて僕の仕事がなくなる。
「……少しだけ持っておいてくれないか。僕の手でシリティアを傷つけることだけはしたくない」
「は?まあいいけど」
ヒロトを少しだけ見直した。案外良い奴だ。
「夕花、秋弥見失ってないよな」
「大丈夫だ。あそこの露店で値切ってる」
ほら、とユーカの指差す方を見るとシューヤは乾燥させた甘物屋で、恰幅のいいマダム相手に値段交渉を持ちかけていた。
「ここでもしてるのか」
「よっぽど珍しいものがあったか、腹が減ったかのどちらかだろうけどな」
人ごみが嫌いなのか不機嫌そうなユーカは肩をすくめた。
「そういえばお腹すいたね。買い物に夢中で忘れてた」
「同感ね」
「なら秋弥を引っ張ってくるから道の端に寄って待ってて」
フードを目深にかぶり直してから人ごみを縫ってシューヤの所へ行く姿を見送っていると、違和感を覚えた。
なんだかこちらを向いている男が多い気がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいなんかではない。
こちら―――シリティアを道行く男どもがジロジロと眺めているではないか。
それはシリティアは言葉で言い表すことができないほど美しく、その声を聞くだけで天に召されるようなおもいがする。それ故に男どもの気持がわからないわけではないが、気分が悪い。
脳内でシリティアに話しかけたり、触れたりしてみろ。二度とそんな考えが怒らないまで徹底的に痛めつけてやる。牽制するために睨みつけながら、周りに見えないようにシリティアを後ろに隠しつつ道端に寄った。
見事値切って低価格で手に入れた甘物を持ったシューヤとヒロトが戻り、ぱっと見人の少ない店に入る。
昼時を過ぎているおかげで注文したものは次々と運ばれてきた。
シリティアの食事をとる姿を見るだけで腹は膨れる思いだが、やはり空腹は訪れるようなので適当に昼食をとって店をでた。
「これからどうする?」
「まだ買わないといけないものが残ってるし、見て回りたいのも山々だけど宿を決めておこうよ。そうすれば疲れてもすぐ休めれるし、ヨイチ君の負担がへらせるし、ね?」
「それがいい。夜になって宿が空いてませんでしたなんてオチはごめんだ」
クレハの提案で宿を探すことにした。だが、いい条件の宿がなかなかみつからない。みんなの顔にも疲労の色が見え始めた。
「街の外れにちょっと古いけどそこそこいい宿があった覚えがする」
「ならそこに行ってみよう。案内してくれ」
記憶を頼りに脇道を進む。
「よく道知ってるのね。詳しいの?」
「いいや。ただ将来シリティアと王都に住むことになった時の為に土地勘をつけておこうと思って地図を眺めた程度だよ」
「なんであんたと住まないといけないのよ」
「そう怒るな。ヨイチがいないと下手すれば野宿しなければいけなかったんだから」
疲れで雰囲気が暗くなりだれも口を開かななって間もなく、宿に辿りついた。
「やっと着いた。フルーツみんなで食べようぜ」
すっかり元気を取り戻したシューヤを連れ、宿に空きがあるか確認に入ろうとすると入り口で剣を背負った男に引き留められた。
「満室だから泊まれないぞ」
「えー!!」
先ほどまでの元気は一気に消え去りシューヤは地面に手をついて項垂れる。
「わけありか?」
シリティアたちを一瞥して問う。
僕とシリティアを除く全員がフード付きのマントを着用しているが、王都でこの恰好をしている人は大勢いるので怪しまれることはまずない。なのになぜ。
「知り合いがやってるところ紹介してやろうか」
「ほんとか!にーちゃんいい奴だな!」
またたく間に立ち直ったシューヤがみんなを呼びよせる。
「このにーちゃんが宿まで案内してくれるってさ」
観光客の案内にしては物騒なナリをした男に誰も警戒心を抱いている様子はない。4人は異世界の人間だから常識がずれているのだろうか。それとも早く宿にたどり着きたい一心でそこまで考えが及ばないだけか。
大きなため息を吐きたい気持ちを押さえつつ爽やかな笑みを浮かべる男を見やる。
なんとも言い難い不安が胸に広がった。
なんとか書ききれました。
次は緋絽さん、お願いします。