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季節はめぐり

これより新章が始まります!


夕花目線で書かせていただいてます、

夕です!

窓の外を鮮やかな色をした小鳥が飛んでいく。

季節はめぐり、ここシューストン村にも春がやって来た。

つまり、あたし達はこの世界で、ひと冬越したことになる。


「畑仕事の依頼、終了!」

「ありがとさん、おかげで助かったわい」

村での人助けも相変わらずだ。

「春になったからかな?最近、畑仕事の依頼が多いよね」

村のじいさんの畑を耕した帰り道、紅葉が伸びをしながら言った。

「確かに」

もう上着が必要ない日もあるくらい、暖かくなったからな。

見上げると、頭上の木には桜色の、しかし秋桜(コスモス)に似た形の花が開いていた。

「でもさー、オレ毎日畑仕事はさすがに疲れたー」

「そんなこと言うなよ、秋弥。依頼なんだからさ」

うだうだ言い合っている秋弥と紘斗。

それを見て笑っている紅葉。

そんな三人を見ていると、もとの世界よりも、のびのびしていて、ここも悪くないと思ってしまう今日この頃。



うちに帰ると、いつも通りおやつが用意されていた。

テーブルにはシリティアと、すっかり居ることが普通になったヨイチ。

「おかえりなさい。随分汚れてるわね」

「また畑仕事だったのか?」

発言が子供の帰りを待っていた両親くさいのは無視しよう。

「ヨイチー、お前居たなら手伝いに来いよなー」

秋弥が言うと、彼はふんと鼻を鳴らす。

「僕はシリティアの頼みしか聞かない」

「「はいはい」」

思わず手が出てしまった。

ん?紅葉もか?

ヨイチが転げ回っているところへ、奥のドアが開いて、目立つ赤髪――村長が入ってきた。

「なんだ、もう帰っていたのか。畑仕事がもっと長引くかと思っていたが……まあいい」

「カウジェさん、なんか用ですか」

紘斗がテーブルにつきながら聞く。

それにつられるように、あたし達も次々と椅子に座った。

最後に椅子を引くと、村長は単刀直入に言った。

「ああ…実はお前らに王都へ行ってもらいたい」

王都?

馴染みのない単語に眉を寄せる。

シリティアとヨイチを除く他の皆も同じようだ。

「王都って何ですか!」

秋弥が勢いよく手を挙げて質問する。

「簡単に言うと…王宮がある、アルギュロス王国の中心都市だ」

またファンタジーな…。

「定期的に王都へ行って必要な物を買ってくるんだが…。今回は行くはずだった者が家の農作業で村を離れられなくなってな」

「で、俺たちに行けってことですか」

「行く!行きてー!」

男ふたりは早くも行く気満々といったところ。

紅葉もまんざらでもない様子。

「夕花、王都だって。見たことないものとか、たくさんあるんだろうなぁ」

正直言うと、あたしも行ってみたい。

異世界に来たと言っても、この村から出たことはないし、この世界がどのように機能しているのか、あたし達の世界とどこがどう違うのか、知らないことばかりだからな。

どうせ来たのなら、アルギュロス王国について知っておきたい。

「ただ、問題がある」

王都、というまだ見ぬ場所に期待を膨らませていると、いきなり村長に現実へと引き戻された。

「髪と目の色が、目立ち過ぎる」

『あ…』

そうか、村の人には分かってもらっているが、確かにこの色は、初めて見る人には恐怖でしかないだろう。

紘斗が山賊を撃退した時のように。

「じゃあ、あたし達はやめておいたほうが」

そう言ったとたん、秋弥が大きな音を立てて立ち上がった。

「えー!?オレ行きたいのに!」

そんな様子を見て村長は苦笑混じりに席を立った。

「そう言うと思った。シリティア、ついてきてくれるか?」

「?…いいけど…」

そして頭に“?”を浮かべたシリティアを連れて部屋を出ていった。ついていこうとしたヨイチは村長に引き剥がされ、しょんぼり帰って来た。

無言になる室内。

あたし達が王都へ行ける方法があるのか?

「お待たせっ」

しばらくして戻ってきたシリティアは、何やら大荷物を抱えていた。

「なんだ、それは」

上機嫌で彼女はそれをテーブルに広げる。

「じゃーん!」

『おおー』

出てきたのはフード付きのマント。

これなら髪を隠せるし、深く被れば目もなんとかなるかもしれない。

「前に防寒着として買ってたの。家族分」

自慢気なシリティア。

でも…ちょっと待て。

村長一家は三人。つまり、マントも三着。

皆それに気づいたらしい。

再び沈黙が訪れた。

ひとりは…。

「…居残り?」

紅葉の一言でマント争奪戦が始まる。

「俺は行くからな!」

「紘斗!さっさと取るな!」

「私も行きたい!」

「破れる!大人しくあたしに渡せ!」

こんな機会を逃してなるものか!

茫然とする村長とシリティアを前に、戦いは続く。

「あー…君達?」

ひとしきり乱戦が続くのを見ていたヨイチがふいにあたし達に声をかける。

しかし、その激しさはヨイチが声をかけるのを躊躇するほど。

「なんだよ!」

紘斗と戦いながら秋弥が聞く。

「それと同じものなら…うちにもあるぞ?」

秋弥の勢いに押されながらヨイチがマントを指す。

――一斉に動きが止まった。

「シリティアが持っているのを見て、衝動的にね。ああ…シリティアとおそろい…。結局おそれ多くて着る機会はなかったけど…」

語り始めたヨイチに詰め寄る。

「それを早く言え!」


その後村長宅にヨイチの悲鳴が響いたのは、言うまでもない。




とりあえず、プー太さんごめんなさい。


次は秋雨さんです。

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