香果のケーキ③
「綺麗……」
ユリウスが息を呑む。
葵も満足そうに微笑んだ。
「食べてみましょう」
一口。
香りが広がる。
ふわりと。
優しく。
春の風のように。
「美味しい……!」
ユリウスが目を見開いた。
「これはすごい」
「よかった」
葵も安堵する。
だが。
次の瞬間。
ユリウスは真っ直ぐ葵を見た。
「アオイさんと一緒だから出来たんですね」
「え?」
「本当に出会えてよかった」
柔らかな笑顔だった。
◇◇◇
その頃。
少し離れた場所では。
「れおんさん」
理央が見上げていた。
「なんだ」
「またむすっとしてる」
「していない」
「してる」
即答だった。
理央はしばらく考える。
そして。
とても大事なことに気付いた顔をした。
「れおんさん」
「なんだ」
「れおんさん、あおくんのことすきなんでしょ?」
レオンは固まった。
完全に。
ぴたりと。
動きが止まる。
「だって」
理央は続ける。
「いつもあおくんみてるし」
「……」
「しんぱいするし」
「……」
「おかしもいっぱいたべるし」
最後のは関係ない。
だが。
理央は真剣だった。
「ぼく、しってるよ」
「何をだ」
「すきなんでしょ?」
無垢な瞳が見上げてくる。
レオンは長い沈黙の後。
小さく息を吐いた。
否定できなかった。
もはや。
自分自身にも。
「……ああ」
誰にも聞こえないほど小さな声。
それでも。
確かに認めた。
理央だけが満足そうに頷く。
「やっぱり!」
◇◇◇
一方その頃。
当の葵は。
「このクリーム、もう少し軽くできるかも」
「本当ですか?」
「はい」
新作ケーキに夢中だった。
もちろん。
自分が話題の中心になっていることなど。
欠片も気付いていなかった。




