光の玉と騎士①
朝の陽射しが差し込む洋菓子店に、甘い香りが広がっていた。
オーブンから焼き上がったスポンジ生地を取り出し、葵はほっと息を吐く。
二十五歳。
街の小さな洋菓子店『ソレイユ』の店主であり、パティシエだ。
金にも見える淡い薄茶色の髪。
同じ色の優しい瞳。
幼い頃に両親を亡くした葵は、姉と二人で支え合いながら生きてきた。
ーーけれど半年前。
唯一の家族だった姉も事故で亡くなった。
残されたのは五歳の甥。
理央だった。
「あおくん!」
店の奥から小さな足音が聞こえる。
振り返れば、葵とよく似た薄茶色の髪を揺らした男の子が駆け寄ってきた。
「理央、走ると危ないよ」
「えへへ」
抱き上げれば、理央は嬉しそうに首へしがみつく。
葵にとって何よりも大切な存在だった。
「今日はおやすみ?」
「うん」
「ふりーまーけっと!」
「約束したもんね」
「やったー!」
弾けるような笑顔。
その笑顔を見るたびに、葵は頑張ろうと思えた。
姉の代わりにはなれない。
それでも、この子だけは幸せにしたい。
そう願っていた。
◇◇◇
休日のフリーマーケットは大勢の人で賑わっていた。
古着。
雑貨。
手作りアクセサリー。
不思議な置物。
様々な品が並ぶ中で、理央が突然立ち止まる。
「あおくん!」
小さな指が示した先。
古びた露店の片隅に、透明な玉が置かれていた。
まるで水晶。
けれど内部には虹色の光が閉じ込められているようだった。
「きれい……」
理央は目を輝かせる。
「欲しいの?」
「うん!」
値段も手頃だった。
葵は迷わず買ってやる。
理央は宝物のように抱えて喜んでいた。
その時は。
まさかそれが運命を変える品だとは思わなかった。
◇◇◇
夜。
夕食を終えた後だった。
理央が椅子の上で足をぶらぶらさせながら言う。
「あおくん、きょうのぷりんは?」
葵は一瞬きょとんとして、それから苦笑した。
「あ……ごめん。今日は作ってなかった」
「えー!」
理央が頬を膨らませる。
最近忙しくて、冷蔵庫に常備していたプリンを切らしていたのだ。
「明日作るから」
「ほんと?」
「ほんと」
ようやく機嫌を直した理央が、テーブルの上に置かれた玉へ視線を向ける。
「あおくん、ひかってる」
「え?」
見れば、テーブルの上の玉が突然光り始めていた。
「あおくん?」
白い光が部屋を満たす。
眩しさに目を閉じた瞬間――
世界が消えた。




