第一話
プロローグ
人が人の手で新たな生命を創り出すことができた時代
マナを操り超常的な能力を使用できる者達がいた
科学者達はマナについて研究したが、解明には至らなかった
それでも強欲な人の叡智は大気中に生体分子機器を用いた疑似マナを配布し、それを操る自己マナを体内の血液中に取り込む事で同様の力を再現するに至った
自己マナを持つ者とそうでない者との間には溝ができ、それは次第に大きくなり争いとなった
自己マナを持たない者達は不利な状況の中、竜を完成させ対抗した
竜の力が情勢を変えると自己マナを持つ者達も竜を作り、竜同士の争いは激化した
争いは留まることを知らず、人も技術も文明も、竜への命令権さえも失われた
生き延びた人々は新たな歴史を歩み始め、僅かに残った意思を持つ竜達もそれぞれの余生を過ごし始めた
生体分子機器の技術は失われ、それが科学の結晶であることを知る者さえも消えると、遺伝した自己マナを持つ者はそれを魔法として使用した
意思を持つ竜は名前を持つ竜として恐れられ、時折人里に現れて人を食う災害となった
新たな歴史を刻み始めて数百年
名前を持つ竜の一体ザハクが狂い、人里で暴れ始める
ザハク討伐に大陸一の冒険者として知られたアンギルダン・クレイムが派遣されるが討伐は叶わなかった
アンギルダン敗北の報を受けたギルドは彼が回復するまでの時間稼ぎとして、腕は立つが集団行動の苦手な冒険者を寄せ集め狂竜ザハクに当てることにする
ギルドは荒くれ者の取り纏めをクリス・ロジャースに依頼した
クリスは七人の荒くれ者と一匹の犬、一羽の鷹を連れ狂竜ザハク討伐へ向かう
ギルドの予想を裏切り、狂竜ザハクを討伐した八人はその功績をもって大陸に名を馳せる
彼等はザハク討伐を通して友情を築き、その証として【復讐の誓】を建てた
八人はエイトフレンズと呼ばれ、御伽噺や詩人の歌として今なお語り継がれている
八人の友人達
クリス・ロジャース 剣闘士
バジル・オーレリア 剣術師
ドレイク・ルブラン 剣術師
アーノルド・バーストン 剣術師
ルールー・ルークウェット 槍術師
シーリー・シュワイマー 医療術師
メイガン・リュウ 魔術師
エマ・グリーン 狩人
BD 犬
シリウス 鷹
帝都。
この大陸にそう呼ばれる土地は一つでよい、帝都で伝わるのだから名はいらない。
初代皇帝が、領民にそう命じたことで、この土地は帝都と呼ばれるようになった。皇帝の住まう城を中心に放射状に広がる市街は入り組んでおり、外周に堅牢な城壁、その外に堀が設けられている。城の背後には霊峰と呼ばれる険しい山があった。こちらも初代皇帝が、霊峰と呼称するように命じている。この国の覇権主義の象徴であるとして反発した他国も今では帝都、霊峰と呼称するようになった。
城壁は常にどこかが取り壊され、新しい物に作り変えられる。最新技術を用いた石積みを行い、その時代の攻城戦術に耐えられる構造に更新を続けている。城壁工事が帝都の防衛力に与える影響は最小限になるよう考慮されており、帝都の城壁を巡れば帝国の建築技術と防衛思想の変遷が伺えた。市街は広く、頻繁に折れ曲がり、脇に背の高い建物が並ぶことで先を見通すことが困難な造りをしている。城壁と同様に常に作り変えられ続ける街並みは、歴史的建造物と言えるものは数えるほどしかない。
これらの工事は主に帝国人の職人と属国の労働者によって担われ、雇用の維持と防衛力の向上、築城技術と攻城戦術の発展、厭戦感情対策として行われていた。
「遊撃隊、イエイレス様、ご帰還!」
門の両側に控えた衛兵二名が槍斧の柄を鳴らす。川と見紛うほどに広い堀の先、先頭にいた金の鎧の騎士が馬上から声を張り上げた。
「ならん! やりなおせ!」
騎士の一喝はたやすく衛兵に届く。戸惑いを隠せない衛兵達に、馬上の騎士は再度声を張り上げる。
「このイエイレスの部隊の名を、帰還を! 略称で迎え入れるとは何事か!」
騎士が剣を抜き高く掲げると、衛兵詰所から落ち着いた様子の一人の衛兵が出てきた。肩には階級章、衛兵長べスカ・アランシャであった。
「まったく……」
彼の口からそのような言葉が出たことに、周りの衛兵達は焦った。されど当の衛兵長は慌てるそぶりはない。大きく息を吸い込み、口上を述べる。
「皇太子、イエイレス様! ラルゴン帝国領土拡大遊撃隊ご帰還!」
馬上の騎士は満足気に頷くと、剣を納めて馬を進める。悠々と闊歩する騎士に追随する兵士達は負傷している者が多い。赤い鎧、青い鎧、黒い鎧、それぞれが隊列を組んで帝都へ入っていくが、とりわけ黒鎧の者が多かった。
馬上の騎士、イエイレスは衛兵長の前で馬を止めた。
「ベスカ。我等の帰還を略称で迎えるとは、部下の管理が出来ておらんのではないか」
「この者達にはそう迎え入れるよう私が指示しておりました」
ベスカは膝をついて答えた。
「何故そのような指示を出した」
イエイレスの歳は若く、寄せずとも皺が寄ったベスカの半分程度。ベスカの回答に皇太子が不満を隠していないことは顔を上げて見ずとも分かっていた。
「陛下より、過度に儀礼的対応は慎む様にとお達しが出ておりますので」
馬上のイエイレスの背後を兵士達が通っていく。彼等のベスカを見る目は様々であった。優越感に浸る者、嘲笑う者、同情する者。そのどれもがベスカにとって面倒なものだった。
「我等を歓迎することは過度な儀礼にあたると?」
「私はそう判断しています」
「そうか。だから貴殿は今こうしてただの門番となっておるのだ」
そう言い捨ててイエイレスは馬を進める。ベスカは姿勢を正すことでそれを見送った。
隊列が初めの曲がり角を曲がりきるにはそれなりに時間を要す。帝都には至る所に土嚢が積み上げられ、兵士達はそこを通るために一度隊列を崩さなければならない。だがこの遊撃隊が帝都を出た時に比べると、兵の数が異様に少ないことにべスカは気付いていた。
イエイレスは進まない隊列に苛立ったのか、近くにいた副官にこう漏らした。
「あんな無能が遊撃隊の隊長だったとはな。機転の一つも利かせられない愚か者では、領土が広がらないのも当然だ。そうは思わんか、ウェン・スー」
「陛下にもお考えがあったのでしょう。彼が遊撃隊の隊長であった頃は、少なくとも国境争いは沈静化していたと聞きます」
ウェン・スーは眉一つ動かさず答えた。歳は四十ほど、ベスカと同じくらいだろうか。黒い鎧には傷が幾重にも重なっている。
「沈静化とは上手く言ったものだ。損害を出すのが怖かっただけではないか。あの無能では此度の戦果は挙げられなかったであろう」
「しかし我々も多大な損害を出しています」
イエイレスの表情が陰る。
「そうだな。中でもセム・イムを失ったのは手痛い。俺を遊撃隊の隊長にと、父上に進言してくれたのもセム・イムだ。俺の参謀にと帝都から着いて来てくれたのも……」
イエイレスは天を仰ぐ。
「俺はセム・イムに見せてやりたかった。ラルゴン帝国が大陸を統一する瞬間を。その先鋒にいる我ら遊撃隊の姿を」
「はい……」
ひどく無機質な返事にイエイレスは気付かない。その間も隊列は進み続け、やがてイエイレス達も動き出す。
イエイレスの背後に一人の歩兵が着いていた。その歩兵は布に包まれた老人の首を両手で持っていた。さらに後に荷車があり、そこには身の丈を超すほど大きく分厚い大剣があった。この大剣を持って歩ける兵がいなかったため、こうして兵糧用の荷車に積んでいる。
「まったく、城への道くらい広く作って欲しいものだ」
「陛下のお考えですから」
「陛下か……」
若い皇太子には不安があった。
果たして今回の戦果を義父は認めてくれるだろうか。
確かに損害は大きい。だが成したことも大きいはず。どちらに転ぶか分からぬ不安と焦りが衛兵長ベスカへと当てられていた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。
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