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騒乱①

 ――ベイカーと死者との遭遇が過度に多い。

 その事実にメディエットの心は引っかかった。一方で、生花店の婦人はベイカーが死者に追われている姿を見ていたないと主張している。もしかしたら、ベイカーは自身が生き残るために、同僚を故意に盾にしたのかもしれない。しかし、その可能性が三晩連続で起こるとは到底思えない。もしかして、ベイカーは虚言を吐いているのか? 


 そんな疑念を抱きつつ、メディエットはスズランの花束を握りしめ、ファントムウッズの大通りを一人で歩いていた。不気味に微笑む生花店の婦人に、スズランを無理矢理押し付けられたのだ。メディエットにとって、花束など個人的な趣味とは程遠いものだった。むしろ、荒れ狂う死者と遭遇し戦闘にでもなれば、ただ綺麗な花束など邪魔でしかないのだ。しかし、この亀裂で始まったこの街の市長、アレックスとの関係を修復する手助けになるなら、それは歓迎するべきだろうとも思っていた。


「見つけた、見つけた、あっちだ!」

「本当に? あっ! メディエットさん! メディエットさん!」

 メディエットが暗い雲のように街を歩いていたとき、背後から馴染みのある声が響き、彼女を呼び止めた。そしてメディエットは振り返り、視線の先に少年と少女を映した。それはこの街の市長アレックスと、リリーに他ならなかった。

 ――噂をすればというものか。せっかく今回の任務に任命してくれた協会のためにも、ここはうまく関係を修復せねば。


 魔鉱機士の彼女は、マジェスフィア協会から派遣された存在だ。協会は市から運営資金と、一部の土地(鉱山など)の所有権を借り受ける代わりに、今回のようなマジェスフィアが関連する事件を解決するための専門家を派遣している。派遣された機士はその土地の治安維持組織の最高責任者と同等に扱われ、街の治安維持のために働くことになる。だが、この関係性が今のメディエットにとっては辛いものであった。市長であるアレックスは、間接的にメディエットの雇い主だ。その雇い主が現在、大いに機嫌を損ねている。もしアレックスの機嫌がこれ以上悪化すれば、街から追い出される可能性も大いにありえた。そして、それが現実となれば、三年前にグリードリバーで目撃した怪人『ジョーカー』の謎も、未解決のまま終わり、未払い労働の末、飢えに身を委ねるしかないのだ。


「おお。これは好都合だ。ちょうど、お前達に会いに行こうと思っていたんだ」

「あのっメディエットさん、なんか……。目付き怖くないですか……?」

 リリーが眉を細めて呟いた。

「あれっ、その手に握っているもの。へぇ、花を買う趣味なんてあったんだ」

 無機質な表情でアレックスは、メディエットの手に持たれる花束を指差した。

 ――やはりコイツは苦手だ……。

 そう思いながらも、メディエットは気恥ずかしさに頬を赤くしていく。

 そして……。

「これかぁ! あぁ、この花束はなぁ。そうだリリーィ!」

「ハイッ!」

「お前にあげようと思ったんだ。きっと似合うぞ、そこの生花店で買ったんだ!」

「ふぇっ? 私にですか?」

「大事にしろよ、白い花だ! 髪飾りなんかが似合うんじゃないか? 栗色に白ならバッチリだ!」

「あっ、ありがとうございますッ!!」

 メディエットは本来の目的を一時忘れ、自身の感情に任せて、リリーに花束を手渡した。

 リリーは、その突然のプレゼントに驚きつつ、甘い笑みを浮かべる。

「それはそうと、メディエットさん。ファントムウッズの郊外に今は廃墟となっている旧刑務所があるんですけどね……」

 そこまで言って、リリーの言葉が急に途切れた。そして、リリーの瞳は何かを追い求めるかのように動き始める。その瞳の動きを不審に思ったメディエットはリリーの視線を追い、首を傾げながらて尋ねるのだった。

「いったい、どうしたんだ? 急に黙り込んでしまって。何かあるのか?」

「あれって、ベイカーさん? こっちに向かってきているのかな?」

「なにッ!! ベイカーだとッ!!」

「機士殿、機士殿。 探しましたぞ、大変です~」

 メディエットの背後を馴染みのある声が迫る。

「あんれっ。ベイカーさん、どうしたんですか?」

 アレックスがそう呟く先で、その男は片手を振りながら現れた。

「おお。アレックス市長殿、それにリリーも一緒か。さっき派出所へ荷物整理をしに行ったらば、そこの機士殿が私を捜していたと聞いたもので。急いで、追ってきたのです――」

 ――なんて好都合なんだ。おかげで探す手間が省けた。

 メディエットは事の流れに安堵した。だが、その好都合は作り上げられたものに他ならなかった。メディエットの思考の中でベイカーという男が事件に何らかの形で関与している疑念はしっかりと脳裏に刻み込まれている。しかし、目の前に立つこの男が真犯人であると結論付けることは、彼女の洞察力では、まだ困難だった。

 それは驚くべきことではない。メディエットがベイカーに出会ってからまだ一晩しか経過していないのだから。

「ベイカーと言ったか? 丁度良かった。オマエを探していたんだ」

 メディエットの鋭い眼光が飛ぶ。猛獣を思わせる眼光に、ベイカーは震え上がった。

「脅えなくていい。オマエも災難だったな。私はただ、お前が言う、『ジョーカー』の事を聞きたいだけだけなんだ」

「ああ、そのことですが。それならいくらでも……。話しますとも。ですが今わそれどころじゃないんです」

 鋭い眼光に充てられ、ベイカーは心の中で呟いた。

 ――機士って奴等は歳に関係なく凄い気迫を持ってるもんだ……。いったいどんな生活をすれば、ここまで殺気だてるのか。でもわからねぇよなぁ。わかりっこねぇ。ダミーはちゃんとおいてあるんだ。脅える必要なんてないんだ。

「それどころじゃない? オマエはいったい何をいっているんだ?」

「機士さん! 大変なんです。また見たんですよ、怪人『ジョーカー』の奴を。それも今さっきです! 奴はぁ夜間にしか行動しないと思ってたんですが、そんな事はねぇ、昼間にも堂々と歩いてやがった、だから機士さん! さっさと倒してください」

「はぁ?」

 ベイカーのその言葉により、メディエットの頭は困惑の霧に包まれた。再び、とは? 彼が再び何かを見たとでもいうのだろうか? ジョーカーが昼間に動くとは、確かに意外だが……。

 少々間の抜けた声でつぶやきつつも、メディエットは事態の整理に全神経を集中させる。

 一方、その隣ではリリーが、まるで何かを伝えたいとでも言わんばかりに、アレックスの肩をポンポンと強く叩いていた。


 大通りの雰囲気が一瞬で一変する。恐怖に駆られた人々が逃げ出す。その緊張感は徐々にではあるが、不可避の事態を予感させるほどに規模を増してく。人々は明らかに見えない何かから逃れるが如く、絶叫しながら荒れ狂っていた。それは静かな清流が突如として濁流へと変わった大河のような光景だった。人々の逃げ惑う中、大通りの一角には誰も立ち入らない空間が広がっていた。


 その異様な雰囲気を直感的に感じ取ったメディエットは、視線をベイカーからその空間へと即座に移した。


 彼女の視線の先には一人の大男が堂々と立っていた。ベイカーに向け冷酷に睨みつける大男。そして、その大男は手にした鉄槌を天高く掲げ、確かな意志を示していた。


「トール……。デュオクルス……。」

 メディエットの横で、アレックスは血の気の薄れた表情を浮かべ、弱々しく男の名を呟いた。

「何、あいつがそうなのか?」

 メディエットがそう言った理由。それは、トールと言われる人物の頭部が幾層にも巻きつけられた包帯によって素顔が覆われていたからだ。おそらくアレックスは、あの巨大な体躯、全身を覆う黒いコート姿、そして両手に持たれた鉄槌によって、そう判別したのだろう。さらに、トールと思わしき大男は、今にも黒金色の壮大な鉄槌を地面に叩きつけようとしている。もしあれにマジェスフィアが組み込まれていたとしたなら。その鎚の頭部が地面に接触した瞬間、幾重にも重なった巨大な落雷が周囲を破壊し辺り一面地獄のような風景に変わるのは確実だった。

「メディエット! 大男を! あの金槌を止めて! 地面に落としちゃ駄目なんだ――。早くッ!!」

 アレックスの急かす声を聴いて、メディエットは舌打ちをする。

そして、メディエットは指示通り、腰のホルスターから双翼剣を引き抜く。ほんの一瞬後、折りたたまれていた水晶壁の刀身が音を立てて2本の直剣へと変形した。その透明な刀身は、まるで水面を切り取ったかのように、太陽の光を受けて金色に輝いていた。


 メディエットは、アレックスの仕草から緊急性を察知した。その結果、包帯で覆われた顔を持つ大男に向かって猛烈に突進する。しかし、彼女の心に迷いがないわけではない。あの男の素性がまるで分らない。だが、周りから聞いた情報をもとにすればあの大男がおそらくジョーカーなのだろう。奴の正体より、まずはあの巨大な鉄槌を切り裂いてあの男を無力化するべきか……。


 メディエットが思案を張り巡らせる中で、大男が垂直に掲げた鉄槌がわずかに動き始めた。


 パニック状態の群衆を、メディエットは自身が持つ双翼剣の柄でかき分けて進んだ。市民の逃げ惑う波に抗いながらも、メディエットは確実に足を踏み出した。そして、突如として人々の動きが遅くなり、周囲の騒ぎ、悲鳴、尖った声がメディエットの耳にクリアに入ってきた。人々が逃げ惑う中で、突然人々から離れた隙間が生まれ、メディエットはその空間に足を踏み入れたのだ。



今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも内容が面白かった、続きが気になると感じていただけましたら、ブックマークや、画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えていただければと思います。


それらの評価は、私の創作活動への大きな励みとなります。

どんな小さな支援も感謝します、頂いた分だけ作品で返せるように引き続き努力していきます。


これからもよろしくお願いします。


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