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オマケ②(新番)「オフィーリアさんのお留守番記」

新版ストーリー2章を読以降の内容を含みます。

時間新版ストーリー1章の12話くらい

 細くしなやかな灰色の髪を櫛で梳かしながら段階を踏んで毛束を上に上に持ち上げていく。


「……これで、よしっ」


 灰色の髪を一つに結ったオフィーリアは、花冠を被り直し、最後に白いエプロンを身につけると、腕まくりをして厨房に向かった。


 オフィーリアの背後に続いて、藍色髪の少女も厨房へと足を入れようとして止められてしまった。


「何故です、オフィーリア様。厨房でもし何かあればどうするのですか……!」


 大真面目な顔で少女は言う。

 背筋をピンと張ったオフィーリアは、段々と返事をする。


「……お菓子作りは慣れてますから何もありませんっ。……それに、厨房に入るなら先ずはその腰に付けた剣を外して、堅苦しい服を汚れてもよくて動きやすい普段着に替えて来てください。それにエプロンもです」


 オフィーリアは、少女の格好を指差した。

 金色の飾りやボタンが施された騎士服を着る少女は、指摘されて首を傾げた。


「これが私の普段着です。それに、剣を置いてはオフィーリア様に何かあった時、どう戦えと……?」


「ノイリ、厨房では危ない場面があっても、剣を振るような場面はないですよっ!?」


 もうっ!! と、オフィーリアは頬を膨らませる。ノイリは兄が居ない時に派遣される護衛の一人で、任務に忠実なのはいいが大真面目な性格は偶に傷だ。


「分かりました。じゃあ、せめてエプロンを着てください」


「……オフィーリア様、エプロンなどを着ては……」


 動きにくいので、と断ろうとしたノイリは尻窄みに口を閉ざした。

 目の前には、ニコニコと微笑みを浮かべるオフィーリアがいる。いつもなら彼女は天使のような笑みで誰しもを魅了しているが……。


 にこにこにこにこにこにこにこ。


「あ、あの、オフィーリア様……」


 にこにこにこにこにこにこ。

 口は笑っているのに、目が笑っていない。


 ノイリの頬が引き攣り、じわりと額に汗が噴き出る。


「はい、どうぞ?」


 動かないノイリの横を通り、余っていたエプロンを取ったオフィーリアは、怒笑でそれを騎士の前に差し出した。


「っ………」


 ノイリの喉が、ごくりと鳴る。


 にこにこにこにこにこにこにこ。にこにこにこにこにこにこにこ。にこにこにこにこにこにこにこ。にこにこにこにこにこにこにこ。


「早く受け取ってくださいノイリ」


「は、はいっ!! ただいまっ」


 オフィーリアは怒気で迫り、あんなにも頑なだったノイリを動かしてしまった。


 慣れていないのか、戸惑いながらエプロンを身に付けるノイリの横で、オフィーリアはフルーツタルトを作成する準備を進めていく。


「えーっと……まずは……」


 苺に葡萄、オレンジなどを洗い始め、ナイフを取り出した瞬間……、ノイリは直ぐ様飛んできた。


「はっ!! オフィーリア様、危険ですので果物は私がお切りします」

「オフィーリア様、私が卵を割ります」

「オフィーリア様、生地を混ぜるのは私にお任せを……!」

「オフィーリア様!!」


「———— ……」


 タルトにクリームや果物を飾りつけながら、オフィーリアは物足りなさと居心地の悪さを感じていた。


 タルトの出来は良い。

 けれど自分の周りでハラハラと心配してうろちょろしているノイリの視線が気になって仕方がない。それに、次から次へとノイリに作成の工程を奪われてしまったので、目の前のタルトを作る楽しさが半減してしまったのだ。


 彼女の親切心や生真面目さから来るものだと知っているだけに、あまり酷く怒ることはできない。


(弱りました……っっ)


 オフィーリアが「うーーん……」と悩んでいると、彼女の曇った表情にさしものノイリも何か察したようだ。おずおずと、口を開く。


「あの……オフィーリア様。もしかして、不手際がありましたでしょうか? 手伝いが不十分でしたか?」


「えっ!! そ、そんなことありませんよ。ちゃんとわかってます。ノイリは、オフィーのことを心配してくれたんですよね?」


「は………はい。やはり何かしでかしてしまいましたか?」


(そんな子犬のような瞳で見つめてこないで欲しいです……)


「……手伝いをしてみて、オフィーの身に本当に危険が及ぶと判断されてたものはありますか……?」


「……ナイフと、焼く工程と、それを取り出す工程……ですね」


 思い出しながら答えるノイリに、オフィーリアは優しく微笑みを浮かべた。


「それなら、その作業はノイリに任せます。それ以外はオフィーに任せてくれますか? お兄ちゃんに……オフィーが頑張って作った物を食べてもらいたいんです」


「エイン様に……」


 自分が大半の作業を奪っていたことに、ノイリは気が付いてくれたようだ。ハッとした表情になったノイリが申し訳なさそうに頷く。


「承知しましたオフィーリア様」


「それじゃあ、このタルトでお茶をしたら作り直しましょう。お湯を沸かしてくれますか?」


「は、はいっ」


 ——— そうして迎えた二回目の挑戦。


「できましたぁ〜……!!」


 生地作りや、パイ生地を型の中に敷く工程やら、先ほどよりも携わることが多く、オフィーリアも大満足の出来だった。


 オフィーリアの手際に感心したらしいノイリが、大袈裟に拍手喝采をしながら褒め称えてくる。


「素晴らしいですオフィーリア様。これなら公爵家の料理人にも引けをとりません。エイン様もきっとお喜びになると思います」


「ほ、褒めすぎですっノイリ」


 頬を赤くしたオフィーリアは、完成されたタルトに目を落とす。ノイリですらこの様子なら兄はもっと褒めてくれるに違いない。


(お兄ちゃん……早く帰って来て欲しいです……。ダンジョン探索を頑張るリアちゃんにもいっぱい食べてもらいたいですし)


「……ほんとう、早く帰ってきて欲しいです……」


 寂しそうな声が、小さく溢れた。



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