第十七話「夢の対面」
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「ふ、ふおわあああああああ」
感嘆のため息を盛大についたのはリアだった。
アイテムボックスから試しに取り出し、ダンジョンに差し込む月明りを透かして輝きを放っているものは、先の戦闘でリアがドロップした〈ヴォワーガの水晶〉だ。モンスターの額にあったそれは、とあるお嬢様からの依頼品でもあり、リアが人生の中で初めて手にしたレアアイテム。
「ほ、本物だ……」
いのりも、ひのりも、顔を見合わせて小さく微笑んだ。だって、リアがとても嬉しそうで。頬を薄紅色に染めあげて、黄緑色の瞳を宝石のようにときめかせ、感動のあまり泣き出しそうに瞳が潤んでいたから。
「ほわー……」
このレアアイテムは依頼品だ。今この場でしかこんなにじっくり見る時間はない。
「よかったね、お姉ちゃん!」
「ひのちゃんも、ちゃんと頑張って偉いね!」
「えへへ、うん。ありがとうお姉ちゃん。我儘、付き合ってくれて……」
姉に頭をいい子いい子されて、恥ずかしそうに口をすぼめ濁りがちに姉へお礼をする ひのり。その言葉の裏には我儘言ってごめんなさい、というセリフが隠れていた。姉のいのりには言わなくても伝わったようで、「お姉ちゃんだからね!」と胸を張っていのりが得意げになって茶化した。
「お姉ちゃんがどれだけひのちゃんの我儘聞いてきたとおもってるのさー。これくらい朝飯前だよ」
「出た。私だって、お姉ちゃんの我儘きいてるもんっ。お姉ちゃんの代わりに我慢してることあるもん!」
「でたー」
またまたーそんなこと言っちゃってーなんて、いのりが揶揄うものだから、ひのりはムキになってホントだしと言い返したくなってくる。でもそんなことを言ったら喧嘩になる。喧嘩、したくないなぁ。
「あ!今!今、我慢したし!!」
「え、今?」
ひのりが何を我慢したのかわからなくて、いのりが首を傾げる。
「もー仕方ないな。ひのちゃんは」
「お姉ちゃんこそ」
意地を張ってしまったことを姉に笑われて、子どもっぽくて恥ずかしくなってしまった ひのりがいた。コツンとボス部屋の岩をつま先で突いてみた。
「いのり、ひのり!ごめん、待たせてしまって。えっと、その、ええと、つい。いや、ついっていうかなんていうかだな。は、はじめて……レアイテムが見れて、うれ、嬉しくて…」
水晶に魅入ってから15分。ついに鑑賞に入り浸っていたことに気が付いたリアは、姉妹の方へ駆け寄ると両手を大きく鳥のように動かしてワタワタと説明しようとする。
いつも大人びていてちょっぴり残念なドジがあるリアがいつも以上にほほえましい。
「もう!ふたりとも、そんなに笑わないでくれ……!」
「くふっ。くふふふふふふ」
「ぷふ。ぷふふふふふ」
姉妹は、真剣なリアが余計につぼって、肩を上下に揺らした。
「……、納得いかないんだが……」
むう。リアの頬が不服気に、風船みたいにふくれた。
△▼
ルバルダン国、ギルド内。受付前。
「え?依頼主さんに会う?」
「はい。もし、クエストを達成した人がいた時には依頼人の御令嬢が直接お会いしたいと……」
なんと2回目でレアアイテムをドロップした翌日、いのりたちはギルドに報告しに向かった。受付に達成報告すると、受付の女性は依頼主が貴族ということからか言い淀みながらも伝えてきた。
「もちろん、冒険者の方の意思に任せるとおしゃっていましたが、どうなさいますか?お受けするようでしたら、こちらから連絡しておきますが……」
「だって。みんなどうしたい?」
「私は、会って仲良くなっておいてもいいと思う!お姉ちゃんは?」
「うーん。わたしも仲良くなれるならなりたいかも!」
「——ふたりとも、別に仲良くとかじゃないと思うんだけどな?まあ、縁があれば、なにかまた依頼があった時に掲示板じゃなくてギルドを通して指名してくれるかもしれないが……」
「じゃあ、リアも結局会っておいたほうがいいってことだね!会います!」
みんなの返事を聞いた いのりが受付のギルド職員へ、招待を受けることを告げた。
「わかりました。では、そのように返答しておきます。無礼講だそうで、服装など、気になさることはありません。むしろ、冒険者の恰好のほうが喜ばれるかと」
執事のかたがこっそり教えてくださいましたよ、と付け足した職員が最後に「お疲れさまでした」そう言って受付の前を去る いのりたちに頭を下げた。
△▼
町の一角にある貴族の屋敷を尋ねたいのりたちを出迎えたのは、黒い燕尾服を着た執事ロイだった。
「お待たせいたしました。本日は招待を受けてくださり、ありがとうございます。フレアお嬢様の執事、ロイと申します。以後お見知りおきを」
一礼をしたロイは、厄介な事になったぞと胸の内で頭を痛みながら いのりたちをフレアのもとに案内する。冒険者が男でも、厄介だったが、女性のほうがより厄介だ。フレアが一緒に冒険に行きたいと言い出しかねない。
「——あの、無粋なことを申し上げますが。フレアお嬢様は、冒険にとてもご興味がおありです、が!!ぶっちゃけ、厳しい面を話してあげてくださ……」
「ようこそ!冒険者のお方。グリーデ家へ!」
ロイの言葉を遮るように、大きな音を立てて応接間が開いた。勢いよく開いた扉からは満面の笑顔を浮かべたフレアが案内されていた三人とロイの側に早歩きで近寄っては、余計なこと言わないでよとヒールがある靴でこっそりロイの足を踏みつける。
「こ、こちらは、グリーデ家の次期当主、フレア・グリーデ様です」
「こんにちは、冒険者の方々。依頼、受けてくださってありがとうございました。私のことはどうぞ、フレアと呼んでね」
足の痛みを一瞬だけ顔に出したロイはぎこちない笑顔で、応接間の中へフレア共々エスコートし、フレアの為に椅子を引く。
椅子に座ったフレアは向かいのソファーに腰をかけた三人へ興味津々なご様子で話しかけた。
「いえ、あたしたちは依頼をこなしただけですから。あたしはリア。こちらの二人は姉妹の、いのりとひのりです」
「いのりと、ひのり、ね!ふふ、あなたいつも敬語使わない子、でしょう?私にも使わなくて大丈夫だわ」
「あぅ…。わ、わかった……」
楽しそうなフレアと会話をしていたリアの様子を姉妹は観察していた。なるほど!普通にしていて良いってことだねと、いのりは勝手に頷いた。
「私はいのりだよ!よろしくねフレア」
「お姉ちゃんの妹の、ひのりです。よろしくお願いしますフレアさん」
「えぇ、仲良くしてくれたら嬉しいわ!さっき、ロイ……。あ、私の執事に何か言われていたでしょう?ふふ、何にも気にせずに、どうか沢山お話ししてね♪」
「余計なことを話しているのはお嬢様の方なのではー?」
「あら、そんなことないわよ」
お茶の準備を進めるロイ。テーブルには白い花が水面に浮かんだ紅茶のカップと、生クリームとベリーで飾られたシフォンケーキが乗る青い高価な皿がフォークと一緒に並べられていく。
「「うわぁっ♪おいしー!」」
早速、一口ケーキを食べた姉妹はふんわりとして、それでいて弾力があって噛めば反発があるような食感。甘すぎない生クリームは口の中でとろけ、食べる時にクリームの中へ混ぜたベリーの甘酸っぱい味が後からやってくる。
「お、美味しい……」
嬉しそうに食べる姉妹の横で、フォークを握りしめながら感動しているリア。口に手を置いて肩を震わせていた。
「よかったわ、喜んでもらえて」
三人の様子を楽しそうに手を合わせ見ていたフレアは、紅茶を口に運び、ロイへ目配せをする。
お嬢様からの目線をやれやれと呆れた内心のロイが、クッション製の土台に、いのりたちがドロップした水晶を乗っけて持ってくる。
「それじゃあ、話を戻すわね。今回は、私の夢を叶えてくださってありがとう。まさか、女の子の冒険者が持ってきて下さるなんて思ってもなかった!」
「ギルドにいると結構、女の子の冒険者もいっぱいいるよ!フレアは冒険に行かないの?」
「ごほん!おっほん!!」
いのりの言葉に咳払いをするロイ。いのりは首を傾げた。あれ?何か不味いこと言ったのかな?
「——えぇ!とっても行ってみたいのよ!でも、反対されちゃってるの」
「嘘は良くないですよー。お嬢様。嘘は」
「えっと、つまり?」
ひのりが姉と同様首を傾げる。
「はぁい、そうね。冒険者も夢で、憧れはあるけれど……。私にはもっと大きな夢があるから。冒険者は夢のままでいいの」
「夢?」
「うふふん、そうなのよ。私、でっかい夢があるの!」
腰に手を置いて胸を張るフレア。
「まぁ、私のことは置いておきましょ?三人はこれからどうするの?」
「んと……。私たちはこれからルペーニ島へ行こうかなって思ってます」
「ルペーニ島ね。今、少しややこしい時期だけど……。観光するくらいなら、うん、楽しんで!すごいのよ!自然豊かで、動物もたくさんいて……」
「お嬢様方、お代わりにカップケーキはいかがですか?」
「うわぁ!可愛い!!」
クリスマスツリーのようにクリームなどで飾られたカップケーキが四人の少女の前に姿を現す。
「お、美味しい……」
リアがフォークを握りしめて感動に打ち震えていた。
お菓子をふんだんに食べながら、四人は会話を盛り上げていく。
「ふふ、楽しかった。機会があったらまた招待してもいいかしら?」
「もちろん!また遊びに来たいな」
すっかり友達になってしまったいのりが、フレアと手を取り合ってぶんぶん振り回した。
一番仲良くなっていたのはやっぱり、いのりだった。
「よかったですねお嬢様」
「えぇ!これで、私、頑張るわ」
いのりたちを見送ったフレアは凛々しい笑みを執事に見せては唇に指をつけて唸る。
「それよりちょっと心配かも。ルペーニ島っていえば、今年は船の数を制限しているでしょう?」
「ああ、そういえば。今年は神獣の巫女を決める年でしたね……。候補者は気が立っているかもしれませんが、観光くらいなら平気ですよ」
「そう、ようね!あー楽しかった。またいっぱいお話し聞きたいわ」
ご機嫌のお嬢様とともに、執事は部屋へと戻っていった。




