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第四話「なろうよ! E級!」

 


 ♪

 ♪


 ♪



【冒険者等級特別クエスト:E級を目指そう】


 これが、今のところの姉妹ふたりの目標だ。

 その冒険者の等級がE級になれば、街を出てモンスターの討伐をしに行くこともできる仕組みになっている。


 まずはクエストを沢山こなすことが大切だ。


 クエストをこなした後は、ギルドが報酬を払うため、大体の冒険者がギルドに直帰して報酬を得る。その際、個人のプレートを提出し、クエストの達成情報を上書きしていくのだ。上書きされた情報は、その冒険者の等級クエストに蓄積されて、一定上の数値が貯まると等級が上がる仕組みになっているらしい。


 ちょうどギルドについた二人も、受付のお姉さんにプレートを提出し、依頼の達成を報告したところだった。


「はい、お疲れ様でした! これで完了です。それでは、この配達員の制服や地図、その他もろもろ、こちらの方から依頼主に返却しておきますね!」


「あ、はい!それから、お礼も伝えてもらいたいです……!」


 はっとしたひのりが、受付の台に手を乗せて、前のめりになって言った。



「……えっと、はい。そ、それはもちろん!お伝えしておきます!」



 冒険者との間に、机があるとはいえ、ずいっと顔を近づけられ、受付のお姉さんは腰を退け反らせた。若干口角が引きつっている。


「あ。ごめんなさい……」


「いえ、とても良くしてもらえたようでよかったですね!」


「ふふ、よかったね、ひのちゃん」


「お、お姉ちゃん…!こんなところで頭を撫でないでよっ」


 受付のお姉さんからの返事に、ホッとしたひのりを待っていたのは、姉からの観衆の前での頭なでなでだった。

 家の中でなら素直に撫でられているところだったが、ここはギルドの中で。つい、いつもの調子で頭を撫でられてしまった妹は、くわっと口を開いて、手を振り張って姉に抵抗した。



「うりーうりー!」


「たょ、ちょっとやめてよ!おねーちゃん!!もう!」


「ふふっ。あ、ごめんなさいお二人とも。すごく仲がいいんだと思ったので」



 姉妹のじゃれあいを目の前にして、受付のお姉さんが、我慢できなかったらしく、肩を揺らして笑った。


 ひのりは、ルーくんを抱いて、恥ずかしそうに顔を毛並みに埋め、いのりは受付のお姉さんと会話に花を咲かせた。



「そういえば! お二人とも、次のクエストはどうしますか? もう受注しておきます? クエストの期限などによっては、その日でなくて受注可能なものがありますよ。今、受けておいて明日達成するのはOKです」


 その言葉に、姉妹はどうしようかと顔を見合わせる。まだクエストボートを見ていない。


「そうですか、では決めたら受付にお越しくださいね! そうそう……」


 受付のお姉さんが、声を潜めて、ジェスチャーを使って二人に、顔を近づけるように指示する。

 顔を近寄せた姉妹へ、人目をはばかるように、お姉さんは口元に手を置いてひそひそと話し始める。



「じつは……。ちょっと、お二人ともギルド内で目立ってしまっているんです。その、E級の前は大丈夫だと思うんですが……。中には嫌な人もいるかもしれないので、パーティを作ったりするときとかは気をつけてくださいね?」



 ほう……と、いのりの目が細まる。

 姉として妹が危険に遭うような事態は見過ごせない。真剣な顔をしてこくりと頷く。



「教えてくれてありがとう。ということらしいから、ひのちゃん、気をつけてよ?」


「え、お姉ちゃんの方が気をつけてよ?」


「わふ!」


 お礼を言って、クエストが貼られている板の方へ向かう姉に、隣に立ったひのりは、腰を曲げてそう言った。ひのりの眉間が歪んでいて、唇は尖っている。とても不満そうだった。


 自分の方が姉よりもしっかりしている。そう思っているのだろう。姉を心配する心はそうした自負からきていた。

 だが、世の中の経験は姉であるいのり方が積んでいる。例え、大雑把で行き当たりばったりな性格をしているとしても。



「これでも私はお姉ちゃんだよ! 妹よ。ひのちゃんがいくらしっかりしていても、世の中は私の方が知ってるし?」



 お姉ちゃんをあまりなめちゃいけません!と、いのりが腰に手を当てて、えへんと得意げになった。


「……わかった……」


 歳の差を出されては、何も言えない。

 一律ある、喧嘩になる前に姉に頷いておこう。そう内心で考えたひのりは渋々引き下がった。


「それで……お姉ちゃんは次、何が受けたいの?あ! 猫探しとか!」


 G級のクエストには、街の人たちの困りごとなどが依頼としてあがっている。E級に上がるまでは安全なクエストばかりだ。

 家事をして欲しい。猫を探して欲しい。絵画のモデルになって欲しい。お店番をしてもらいたい。子守を頼みたい。一日だけカフェでバイトをしてほしい。などなど。


「うーん……。私も猫探しとかいいと思う! あとは……、これとかどう? 魔石に魔力を充電してくださいとか!」


「魔石……? 私もできるのかな? あ……じゃあ、これは? 家のお料理を……」


 一枚の依頼用紙に触ろうとしたひのりの手に、白魚のような手が重なった。


「あ……ごめんなさい」


「い、いえっ!オフィーこそ……いえ、こちらこそごめんなさい!」


 ひのりが咄嗟に謝り、手を引っ込める。と、向こうも、同じ気持ちだったようだ。胸の前に手を置いて、ツインテールに結んだ灰色の頭を軽く下げた。


 頭には花冠を付けていて、少女が頭を下げるとフワリと良い匂いが香った。ひのりの目には本物に見えないが、違うのだろうか。


「あ、あの、失礼ですが……。そちらのクエストは、もう受注するつもりですか?」


 譲ってくれ、そういうことなのだろう。ひのり達は今何にするか話し合っていたところだ。別に候補がひとつ無くなったくらいどうってこなかった。


「はい、大丈夫です。まだ決めてませんでしたし……。どうぞ」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!優しい人で安心しました!……よかったぁ……」



 少女は、ホッとしたように桃色の瞳を輝かせ、祈るように手を胸の前で絡めた。お礼を済ませると、紙を剥がして窓口に持っていこうと………、

 して、少女は足を止めた。


「あ、あああの!ごめんなさい、実は少しだけお話が聞こえてしまって。魔石のことですが、魔導士や魔法剣士、精霊術師、テイマー、治癒士、とかを目指す方であれば、魔法は必須になるのでっ。そういう方なら……大丈夫だと思います!」



 姉妹を赤い顔で振り返り、「オフィーも何かお二人にお返しできたらと思って……余計なことだったならごめんなさい!」と、腕をワタワタさせながら魔石のクエストについて情報をくれた。


「……そ、それでは……!!」


 言うだけ言った少女は、たたたーっと受付に駆けて行ってしまい、いのりとひのりはお礼を言う隙もない。ただただ、ツインテールに結われた灰色の長い髪が揺れ動くのを眺めて——、



「………アイドルみたい……」



 いのりがポツリと呟いた。

 同感、とひのりが頷く。


「うん……。すごい小顔だった……。あ、じゃなくて、テイマーも使えるみたいだし、私も大丈夫…みたい?」


 報酬も、他のクエストに比べて高めに設定されているし、できれば受けてみたい。


 が、しかし。


「でも、私も魔力って感じたことも使ったこともないよ?」


「「 ……… 」」


 ———どうするんだろう、これ。


 二人は黙り込んで一つの答えに辿り着く。

 そう————、

 わからないなら、受付のお姉さんに聞けばいいじゃない!!だ。


 早速、姉妹は魔石の魔力補充の紙と猫探しの紙を持って受付向かった。


「魔石クエストですか?はい、お二人とも参加できますよ。魔法を使う為の魔力を自覚するにも良いクエストだと思います……それに」


 クエスト用紙を窓口に持っていくと、あっさり回答が出た。

 そして、またもや受付のお姉さんが、コソコソと声をひそめる。


「……大きな声じゃ言えませんが。実はこれ、等級を上げるのに凄く効率的なクエストなんです……」


「ええ!!! なにそれ! 」


「しぃー!! 公にはしてないんです!」


 大きな声をあげてしまった いのりの口を、窓口のお姉さんが必死の形相で止めた。口元に人差し指を立てている。


 慌てて いのりは、自分の口元を抑えた。


 ……公にはしていない情報を、こうもほいほいと話してしまって良いのだろうか。それとも、このクエストを持ってきた人には同じことを言ってるのだろうか。


 ひのりは、ジト目で姉と受付のお姉さんのやり取りを眺めながら無言でそんなことを考えていた。


 もしかして、こんなところにも女神様の、なんらかの力が働いているとか?

 ううーんと唸って考え込む ひのりをよそに、クエストの話はドンドンと進んでいってしまったのだった。



「あ! ちなみに! 魔石は加減をしないと割れます。

 特に貴族が使っているような高級な魔石じゃなくて、使い回している一般市民の持っているものとか。その時は冒険者側の弁償になるので気をつけてください!」


「わー、気をつけなきゃ、ね! ひのちゃん」


「え!!あ、うん……。そうだねお姉ちゃん……」


 最後の最後、肝心なところだけ聞いたひのり。魔石の取り扱い方などは全く聞いていなかった。頬をひきつらせて適当に姉に相槌を打った。


「練習に、良ければギルドにある魔石へ手を当ててみます? 

 魔力を魔石に流す練習もできて、少しは力の一端を感じることができるかもしれませんよ?壊れても、もう使わないもので、市民に流す予定だったものですから安心してください」


 実は、ギルドでも、魔石への魔力補充を、冒険者さんに時折お願いしているんですよ。と言いながら引っ込んだお姉さんが、奥から小さな魔石を二つ持ってきては受付の机に置いた。


「魔石に魔力を込める場合は、名前を言う必要はありません。

 魔力を個人に特定するわけではないので。むしろそれで魔石に魔力を込めたら、その人しか使えなくなってしまいます。気をつけてくださいね!」


 姉妹は、要らなくなった魔石を手に入れた……!!


「———と、いうわけで!!ギルドでの練習を復習できるように魔石を買ってみたことだし!早速実践してみよ」


「うん……」


 宿屋に二人が戻ったのは、すっかり夜になった頃であった。

 いきいきと魔石を手に持ついのりと、ベッドの上でぐったりとしているひのりの姿がある。


「……大丈夫? ひのちゃん。やっぱりまだ具合悪い?」


「ううん……。受付のお姉さんも言ってたけど、ただ魔力の使いすぎだって……」


 ギルドでの練習で、魔力の流れを掴んだは良いが、ひのりは何回か練習する前に気分が悪くなってしまった。


 頭ぐらぐら、ぐわんぐわん。

 気分は最悪だ。


 どうやら、ルーくんを召喚していたことで、知らない間にひのりの魔力が欠乏してしまう直前まで消費してしまっていたらしい。

 当分、魔石クエストで魔力量を上げるまで、ルーくんの召喚を止められてしまった。


 一方で、ひのりよりも魔石に魔力を込めて、練習していたいのりは、今も平然とした顔で安くて小さな魔石に魔力を込めては、込めすぎて破壊し、失敗している。


「うーーん。うーーん。あー、また魔石が割れた……」


 パキリと音を立てて壊れた魔石のカケラを手に、難しいと悩ましげな顔をした いのりは、魔石の入った袋に手を伸ばした。


「あれ?」


 ない。

 両手くらいのサイズの小袋いっぱいに入っていた魔石が一つも残っていない。二人分と思い、女神から貰ったお金を使って40個くらいは買っておいたはずなのに。


「……ごめん、ひのちゃん。全部使いきちゃった……」


「……成功したのは……? 」


「ぜ、ゼロ個……」


 改めて現実を確認してしまった二人の頭の中には、明日のクエストは大丈夫なのだろうかという考えが浮かんだ。


「と、とりあえず! ご飯食べに行こうか!!ね!!」


 誤魔化しと切り替え。いのりはどちらも含んで意気揚々と拳を突き上げて立ち上がる。


「あ、でもひのちゃんは具合悪いんだっけ?」


「ん。何にも食べたくない……。お姉ちゃん、ご飯行ってきていいよ」


 布団に態とらしく潜り込んで、ひのりは姉を見送る。

 扉が完全に閉まるのを確認した ひのりは布団から這い出ると、魔石のカケラの山にふと目を向けた。


 ヒビが入って割れてしまった魔石のカケラは、部屋の光を反射して星のようにキラキラと輝いている。


「……一人で40も50も、魔石に魔力って入れても平気なものなのかな?」


 いのりは40個の魔石に魔力を注ごうとして、失敗したと言っていた。それは、魔石の容量に対して多くの魔力を流し込んだからなのだが……ひのりと同じくまだ姉の魔力量はさほどないはずだ。

 自分もルーくんの召喚で魔力を使っていなければ、そのくらいの量を練習することができたのだろうか。


 何気なく浮かんだ疑問を深く考えようとしたが、頭が未だぐらぐらと揺れていて気持ち悪い。

 今日はもう眠ってしまおう。

 ひのりはもう一度布団を被り直して、今度こそ、すやーっと夢の中に潜っていった。




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