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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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過保護


「おい、見えたか、花菱」


「何が?」


危機感の足りない花菱の手を払いのけ、生け垣を一足で飛び越える。不審な人物は俺の跳躍に目を丸くした。


「朝から偵察か? ご苦労なことだ」


生け垣の向こうにしゃがんていたのは、千本桜の双子の片割れだった。先日名前を教えてもらったが、うり二つで見分けるのは無理だ。


「人聞きの悪いこと言わないで欲しいね。見回り中に通りがかっただけなのに」


澄まし顔で弁明しているが、言い訳がましいことこの上ない。


大方、リヒターに様子を見てくるように命令されたのだろう。そんなに心配なら、自分から口説きにくればいいのだ。リヒターの意気地のなさが目についた。


「おい、どした。敵か? 殺すか」


騒ぎを聞きつけた花菱が、門からどかどか歩いてきた。片割れと顔合わせるなり、頬を緩める。


「なんだ、瑞角じゃないかい。こんなとこで何やってんだよ」


親しげな花菱と対照的に、瑞角は苦々しい顔をした。


「花菱烈華……、貴女の方こそ、長屋を追い出されでもしたんですか」


「三ヶ月くらい滞納してっから、それもありうるな。雨漏りしてても直してくれねえし、あんなところこっちから出てってやるぜ」


「そういうのは共益費っていうのを払って直すんですよ。全く……、貴女はどうしてそうだらしないんです」


花菱は年下の説教を笑いながら聞いている。傍から見ると、仲のいい姉弟のようだ。


「千本桜と親しいとは思わなかった」


瑞角が去った後に、探りを入れた。はっちゃんのように上手く立ち回る奴だとは思っていなかったので、違和感があった。


「さっきも言ったけど、国から冒険者に鬼の討伐手当が出る。でもそれは個人じゃなくてギルドに対して支払われる仕組みなんだ。だからあたしは千本桜に籍だけ置かせてもらって手当をもらってるってわけ。瑞角とはその縁で知り合ったんだよ」


「竜王の所では駄目なのか」


「あたしが鬼狩りなんてするって言ったら、絶対心配する。あの子はそういう奴なんだ」


花菱は俺の知らない竜王を知っている。行きすぎた配慮だと思うが、こいつの心根は伝わってきた。


「燃えてるところ悪いが過保護だぞ、それは」


「うっせえな、いいんだよそれでも。鬼は本当は特別なもんじゃないんだ。他の魔物と大差ねえよ。ただ町中に入ってくるから、変な噂を立てる奴がいる。そういうの払拭してえっていうか、そのためならなんでもできるのさ。たとえ敵の懐に入ってもね」


他人の情報に鵜呑みにして、疑いの目を向けてしまった俺はとは大きく違う。こいつは自分の信念を持って行動しているのだ。


「つーか、過保護っていうならお前も同じだろ。リリスを守りたいって言ったらしいじゃん」


「どこから情報が漏れた。エチカか」


「本人から直接聞いたんだよ。度胸あるな」


茶化すように笑われ、俺の決意が薄っぺらいもののように扱われても不思議と腹は立たなかった。それとは別に、他の冒険者のような強い動機を持たない自分に対して、苛立ちを感じていた。


「向こう見ずなだけだ。今は少し後悔している。立ち話が過ぎたな。そろそろ出かけよう、花菱」


人形のルートに沿って聞き込みをしたが、めぼしい情報は出てこなかった。アテナはそもそもどこで噂を耳にしたのだろう。聞いておけば良かった。


花菱は花菱で、やる気があるのかないのか、飲み屋があれば入ろうとする。


「昨日しこたま呑んだだろうが。油売ってる暇があるなら足を動かせ」


「迎え酒やらねえと気合い入んねえんだよ。あー、めまいしてきたわ」


今朝は二日酔いの素振りも見せなかったくせに、日陰に入って休むこと数回に上る。一緒に歩いていて気づいたのだが、花菱は結構顔が広い。町民と挨拶だけでなく、世間話も気軽に行っている。酒屋につけがあることも判明したが、嫌われてはいないようだ。


それはともかくエチカの長屋で休むと言い出した時は、今日の捜索は絶望的だと思った。


長屋の井戸の前に竜王が立っていた。黒地に竜の模様の着物に下駄を履いている。雲のかかった空に集中しているのか、俺たちには目もくれない。


「おーい! リリス。どっか行くのか」


花菱はためらうことなく駆け寄る。ああいう壁を作らない所は見習いたい。


「花ちゃん、聞いてよ。これから退屈なロビー活動だよ。政治の話とかつまんなーい」


「まーた女王蜂に手、貸してんのかい。いい加減やめなよ。なんならあたしが落とし前つけてやろうか」


二人は気苦労を分かち合っている。過ごした時間が違うのだ。やっかんでも仕方ないのだが口は出したくなる。


「暴力に訴えるのは論外だが、花菱の言うことも一理ある。やりたくないことを無理してする必要はない」


俺が同調すると、竜王は顔をしかめた。


「いきなりやってきて……、何? はっちゃんの仕事にケチつけないでよ」


「俺はただ、お前が無理をしているんじゃないかと心配してるだけだ」


ロビー活動とは、昨夜話していた病院の件に違いない。女王蜂は竜王のコネクションを利用している。見返りに竜王は何を得るのだろう。そう探りを入れたと受け取られても仕方ない。険悪な雰囲気になってしまった。


喧嘩をしに来たわけではないのに、不本意な流れに嫌気がさす。花菱が、空気を変えるように提案をもちかけた。


「もうさあ、今日はサボっちまおうぜ。今、丁度宝探ししてるんだ」


「何それ?」


興味をそそられたのか、身を乗り出す竜王。話を聞き終えると危機感を共有し、手助けを買って出た。


「それは大変だね、手伝うよ。後はカトーに任せればいいや」


FGで連絡を終えた竜王に念を押す。


「遊びじゃないぞ。わかってるのか」


「わかってまーす。体動かしてる方が楽だから引き受けただけ。宝探しとか息抜きに丁度いいし」


認識の違いは埋められそうにない。竜王の実力ならこの程度の案件は文字通り遊びと変わらないのかもしれないが、俺は釈然としなかった。

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