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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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ゲームという装置について


「ゲームって何の為にあると思う? 君にとってゲームって何」


投げかけられたのは予想に反して、哲学的な問いだった。


「お前はS級ではなく禅僧になったのか」


「答案用紙に書くみたいにまじめに答えて」


「ゲームとは……、そうだな、征服すべき対象だろうか。人生の階にも同じような事が言えるな」


「予想通り傲慢な回答アリガト。つまりゲームとはプレイヤーのために存在するという認識でいいかな」


概ねその通りなので俺は肯定のアイコンを出した。


「VAFはね、逆なんだ。このゲームはプレイヤーを選別するために存在する。ここまでいい?」


「つまり、未だにVAFはβ版とか製品未満の状態にあるというのか。初耳だが」


発表前の段階において、デバックという形でプレイヤーが参加する話は聞いたことがあるが、VAFで致命的なバグが起こったことはこれまでない。


「ううん、そうじゃない。VAFは完成しつつあるし、神官はそんなヘマはしない。VAFがプレイヤーを楽しませるエンターテイメント装置なのは表向きで、本当は獲物を捕らえるトラップなんだ」 


罠、か。竜王の言い分はわからないでもない。底なしの課金システム、拘束時間の長いイベント、そのどれもが資本主義の理想に叶うものだ。竜王の左巻きの思想に反論を加える。


「だがそれはVAFに限った話ではないのではないのか。今時いろんなゲームが」


「ええい、まどろっこしい!」


俺のアバターがカタツムリにひきつぶされた。短気な奴だ。言葉に気をつけないと簡単に蹂躙される。


「これ以上聞きたいならリアルで会おうよ」


「俺は構わんが、お前近くに住んでいるのか」


「電車で二駅。またこの間の場所で、一時間後」


世間は狭いとはよく言ったものだ。感慨に耽っているうちに竜王は早急にログアウトした。俺も釣られてゲームを終了する。時刻は午後四時を回った所だ。指定時刻まで余裕はあったが、俺はすぐにマンションを出ていた。ゲームを飛び出し、冒険が始まる予感に震える。


俺が息を切らせて階段を上りきった先に一人の少女がいた。


黒いTシャツにロングスカート、キャスケット帽を被っている。今日は包帯を巻いておらず、怪我の跡をも見られない。外にあまり出ていないのか肌の白さが際だっていた。


「な、何よ、あんまじろじろ見んな」


気を許したのか仮面もつけていない。おかげで初めて竜王の尊顔を拝した。大きな瞳は伏しがちだったが、生来の負けん気の強さが現れていた。


「いや……、思ったより女子らしい顔をしていると思って」


動揺を悟られたくなくて、苦し紛れに言ったのだが例によって失言となる。竜王が高飛車な態度でにじりよってきた。胸ぐらを掴まれ、持ち上げられた。


「あのさあ、前から言いたかったんだけど、君生意気じゃない? 私の方が年上だよ。敬語使いなよ」


「お前いくつだ」


「十四。私立の中学通ってるんですけど?」


竜王は不敵に顎をそらす。とっておきの切り札を出したつもりだろうが、俺は驚かなかった。手首は細いし、体つきも真美に比べて貧相だ。その視線を感づかれて、顔をしかめられる。


「何よ、君みたいな小さい子タイプじゃないから、やめてよね」


真美の起伏に富んだ体を知る俺は、竜王の小娘ボディは眼中にない。こいつにもプライドがあるだろうからその点は黙っておいてやるが、舐められっぱなしはしょうにあわん。


「俺は十七だ。文句あるか」


竜王の手がするすると俺のシャツの襟首から離れる。


「嘘でしょ……、小学生にしか見えない」


俺は確かに童顔だが、臆面もなく真理を口にされると傷つくな。真美はその点できた女だった。素知らぬ顔で俺の自尊心を守ってくれたのだ。


「そう変わらんだろ、ほら」


念のため背を比べてみたが、竜王の方が頭一つ大きい。俺は一歩後退して手を広げた。


「ほら、な」


「な、じゃないよ。ちび、ちび」


思惑の外れた竜王はそれでも間違いを認めようとしない。やっぱりまだまだ子供の面が強かった。一計を案じる。


「人の身体的特徴をあげつらうなと言われなかったか、正義の味方」


竜王の空回りする正義感を打ち砕くにはそれだけで十分だった。苦いものを飲み下したような顔には、これ以上ない敗北の色が浮かんでいた。


「君は私を糾弾しに来たの? 話を聞きに来たの」


「そうだな。俺は何も知らない。生まれたての雛のように無知だ。優秀な先導役がいないと迷ってしまうだろうな」


ガードが崩れたところで誘い水を向けた。

これで竜王は俺の鼻を明かしたいと躍起になるだろう。ゲームの腕前は大したものだが、扱い方はわかってきた。


「ここまで来てなんだけど正直言うと、まだ迷ってる。とても危険だから」


思い詰めた顔はこいつには似合わない。重荷を減らしてやるにはどうしたらいい。


「お前は長幼の序を重んじる人間だったな。ならば簡単だ。目上の者を頼ればいい。後は俺の仕事だ」


竜王は不服そうに俺の頬をつねる。痛くはなかったが、まだ見くびられている感じがする。無用な上下関係を持ち出すこいつに腹が立ったが、蒸し返しても埒が明かない。


「笑わない?」


「俺はこれまで心の底から笑ったことがない。どうせなら一生分笑わせてみろ」


竜王がやけに上下関係に拘っていたのは恐れによるものだったのか。意図して自分を強く保っていなくてはならないほどの修羅場がこれから待ち受けていると思うと、ゾクゾクするぞ。


「神官は、私の体を狙っている」


竜王の告白に、俺の体は惚けたように力が抜けた。


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