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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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俺の反省


新着情報がないかと、夢の祠に潜ってみる。アテナが待ちかねたように口を開いた。


「なんとびっくり童子切り安綱が実装されたよ!」


腕で胸を持ち上げるあざとい仕草も目に入らない。どうすればエチカを助けられるかが俺の最大の関心事だった。


「S級武器。課金待ったなしだよ」


「そうか……」


俺は心ここにあらずで話を聞き流していた。アテナの話の大部分が内容を伴わないので、最近はいつもこうだ。


「だからね、あのね」


「うん……」


必死に何かを訴えようとするアテナの胸にタッチして、気を紛らわせていた。画面越しでも弾力が指に伝わるような気がする。


「ショータ君!」


悲鳴に近いアテナの声で我に返る。


アテナは胸を押さえて俺をにらんでいる。それだけで糾弾される理由は察しがついた。


「す、すまん……」


「セクハラ、だめだよ。次やったら怒るから」


目の回りを赤くして既に怒っているようだが、次の段階があるらしい。


この件からもわかるようにアテナの情緒は成長し続けている。成長し過ぎていると言っても過言ではない。女性に接するような繊細な対応が求められる。AIに気を遣うとなると本末転倒な気がするが、逆らうとアカウントを消されるという噂を俺は思い出していた。


「女心は難しいな。帝王になるべく宿命付けられた俺ですら容易に解けない天体のパズルのような気がするよ」


「もしもーし、誤魔化さないでくださーい。ショータ君は自分に都合のいいように情報を改竄する癖があるよ」


「ふっ、情報処理は得意分野だ。内閣府のパソコンをハッキングした経験ならある」


「ひぃ……、さらりと悪事を露見させないでよ。そんなことより、アテナが怒ってるのは黙って胸を触ったことなんだよ。わかってるの」


「断りを入れればいいのか?」


「ダメに決まってるでしょ! こういうのは段階が大事なんだゾ。アテナのことをもっと詳しく知ってからでないとね」


ふんぞり返って俺をたしなめているが、説得力がない。アテナは仕事ができない駄目神官で、受け持っている冒険者は俺だけだ。他の冒険者は皆、見切りをつけて別の神官の所に移籍した。俺も時々そうしたいと思うがつい、な。


むにっい!


「やあん! ダメって、言ってるのに、そんな強く触って、タダですむと」


俺は人差し指と親指でアテナの胸辺りを何度もこすった。胸のウィークポイントに当たると画面が光る。ズームアウトの要領でアテナを執拗に責めた。


アテナは身をよじるが、画面の外に出られない以上逃げ場はなく、俺に胸をもまれ続けるしかない。はちきれんばかりの乳房が俺の指と重力にもてあそばれる。


「もう、許して……」


全身を痙攣させながらアテナは懇願する。谷間に光る汗とか、俺が触った部位が赤くなっていたりと無駄な所にリアリティーがあった。


 いくらアテナをよがらせようが、所詮、画面越しの遊技に過ぎない。俺自身は凪いだ海のような静寂に包まれていた。


「俺は気づかぬうちにエチカにもこんな扱いを強いていたのかもしれない」


「ふぇ……?」


アテナは汗で重くなった髪を垂らしながら首を傾げる。自省も、アテナに八つ当たりする時間も惜しくなった。


「無論タダで済むとは思ってないさ。責任は取る」


「え? それってまさか」


アテナは期待を込めた目で俺を見つめる。俺は力強く頷いてからマンションを出た。


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